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12 「異世界転生をご所望しましたけども……っ!」

 社畜、だったのかもしれない。

 私はとにかく「会社に貢献しなければ」という思いが強すぎたのだろう。

 あと上司の圧、顧客の圧、同僚の圧……、圧、圧、圧ーー。

 それらのプレッシャーに耐えられず、私はそのまま自宅のベッドで眠るように死んだという。


 ***


「可哀想に!」


 ふと目が覚めると、周囲は真っ白い大理石……の床や壁、柱のある神殿みたいな場所に、私はぽつんと立っていた。

 女性の声がした方を見ると、玉座っぽい椅子に座る綺麗な女性が瞳をうるうるさせながら、両手を握って祈るような仕草で私を見ている。

 唐突な展開に頭の中まで真っ白になるけれど、疲労が溜まり過ぎて突拍子もない夢を見ることは、これまでに何度もあった。今回もその類だろうと、私は現状を受け入れる。いや、何がどうなってるか完全に理解したわけじゃないけれど。


「あなたはあれだけ一生懸命働いたのに、報われずに亡くなってしまうなんて。憐れ過ぎるから、特別待遇してあげる! 大丈夫よ、私は女神だから何でも出来るの。任せてちょうだい!」

「は……? え……? 女神……?」


 ついに高校時代の友人がハマって読んでいたラノベのような展開まで、夢で見るようになったのかと呆れる私。でもどうせ夢なのだから、自分に都合良く働いてくれるなら何よりだ。夢の中で位……幸せにさせてほしい。


「何かお望みはあるかしら? 何でも出来るけど、条件全てに合うような状況というのも、ちょっと探すの難しかったりするけど。でも出来るだけ希望に沿う形で転生させてあげるから! 何でも言ってちょうだい!」


 よし! 今、何でもって言ったわね?

 私は調子に乗って、叶ったらご都合満載の人生楽勝無双な条件を、とりあえず思い付く限り並べてみた。


「もう社畜で働き三昧はうんざりだから、一生働かなくても困らないような大金持ち、大貴族、あるいは王族か何かの身分で生まれてみたいかな。もちろん記憶は保持したままで! 転生するなら今と同じ性別がいいわね。色々と不都合あるかもだし。それから……」


 私は友人の影響で「異世界転生」とか「無双」とか、そういったジャンルを多少なりとも知識として触れたことがある。その持てる限りの情報で、自分が次に生まれ変わった時に、人生勝ち組の楽勝なスローライフが送れることを前提に、たくさん条件を女神に提示した。

 綺麗な金髪、ロシア人のような綺麗な顔立ちをした女神は、嫌な顔一つせず、私が提示する条件を一生懸命黙って聞いてくれていた。もしかしたらまだ色々と抜け落ちた条件があるかもしれないけど、私は「こんな感じでお願いします」と女神に言う。

 これだけ並べ立てれば、人生において苦労することはないだろう。


「一生安泰の家柄で、家族からは惜しみない愛情を受ける。性別は女性で、外見もその世界で美しい部類に入るもの。老若男女問わず、好感を持たれやすい。頭脳明晰で記憶力が良く、運動神経も人並み以上、何をやらせてもすぐに習得してしまう手先の器用さ。健康体で病気知らず、欠点という欠点のない感じで……という注文ね。ーーさすがに多すぎじゃないかしら?」

「自分でもそう思うけど、でもそういう人って案外いるでしょ? 難しいようなら、どれか一つ二つは叶わなくてもいいですけど……」


 ここまで来ると条件が厳し過ぎなのは自覚してる。でも女神が「何でも言って」って言うんだもん。だったら出来る限りのことはお願いしちゃうもんじゃない?

 だけど私が少し条件を緩くしようとしたのが、女神のプライドに障ったのか。キリリとした瞳になると、なんかやる気を出してくれたみたいで突然立ち上がる。


「神に不可能なことなどないのです! いいえ、あってはならないのです! 条件が厳し過ぎると言うのなら、その条件に見合うような状態にすればいいのですから!」

「え? あの、ちょっと言ってる意味がよくわからないのですが」

「大丈夫! 私に任せてください! 大船に乗ったつもりでいてください! だけどほんの少しだけ時間をくださいね。今すぐ探しますから!」


 片手でストップをかけられ、私はどれ位待ったらいいのかわからず立ち尽くす。その間、条件に合う転生先を探しているのか、バスケットボール位の大きさをした水晶玉をまじまじと見つめていたかと思うと、五分もかからない内に、女神が嬉しそうな声を上げる。


「あった! ありました! ちょっとだけ条件に合いそうで合わなさそうな部分が、なくはないですが。でもほとんどの条件に合った転生先を見つけました!」

「えっ、本当ですか? こんなに早く?」


 もっと時間がかかるものだと思ったけど、五分で私の転生先が決まったようだ。女神は満足そうに微笑みながら、私に転生先を紹介してくれる。


「あなたの転生先は、異世界モアザンワーズ。そこにオズワルドという国があります。その国の王妃がもうじき懐妊することになっているのです。豊かな国、ここ数百年戦争のない国。父親となる国王も、母親となる王妃も、そして兄となる王子二人も、家族愛の強い性格をしているようです」


 やった! 妹属性に収まることが出来れば、その兄二人から寵愛を受けることが出来るってわけね! 昔から妹に甘いお兄ちゃんってのが欲しかったのよ!


「大きな国なので、自然豊かな田舎町というのもその国の領地内に存在します。あなたが望むような、田舎でのんびりなスローライフも、きっと叶うことでしょう」


 私自身に関する条件なら、女神がそういう風に「一種の能力」として身につけさせてくれるだろうから、その辺はあまり心配していなかったけど。お姫様として家族に愛されて育つっていう環境なら、何も問題はなさそうね。


「あ、でも……。まさか父親とか母親が、早くに他界して別の人と再婚するようなことがあったら……。そういう場合って、前の子供っていじめに遭ったりするんじゃ?」

「心配いりません。彼等の運命線を辿ってみましたが、お二人ともご夫婦のままでしっかりと天寿を全うするようになっていますよ。病気や事故で死ぬことも、ましてや暗殺に遭って殺される運命もありません。ご心配なさるような事態には陥らないと断言いたします」


 それじゃもうこれ、確定で勝ち組人生が手に入るんじゃ……?


「はい! 女神様、私そこの子供として転生したいです!」

「わかりました。それでは出来る限り全ての条件が見合うよう、こちらで配慮いたします。生まれ落ちれば、私が直接あなたに手を貸すことは出来なくなりますが、そんなことには決してならないでしょう。それからこの世界では、それぞれ一つだけですが固有の能力……スキルを持って生まれるようですね。特別です、あなたにはスキルを複数授けておきましょう」


 え、そこまで特別扱いしてもらってもいいんですかね? ここまで優遇されると逆に怖いのですが?

 

「念の為、自分が複数のスキルを持って生まれていることは、内密にした方がいい……とだけ忠告しておきます。先ほども言いましたが、この世界では通常一人につき授かるスキルは一つなのです。あなたが世界中から注目を浴びたいと言うのなら公言しても構いませんが、のんびりとしたスローライフを送りたいと言うのであれば、複数スキル所持に関しては黙っていた方が無難です」


 まぁ、私のさっきまでの人生の後半が死ぬレベルで多忙を極めていたからなぁ。次の人生は確かに、誰にも特別注目されることなく、マイペースに過ごしたいのが本音……かな。


「とっても便利で、あなたがきっと欲しがっていたであろうスキルを授けますので、期待していてください。それじゃあ、良い旅を!」


 そう女神が微笑みながら言うと、いつからどこからあったのか。女神が座っている玉座らしき椅子の側には、くす玉から伸びているような紐があって、それを引っ張ると同時に私が立っていた床が抜けて、声にならない悲鳴を上げて私は下へと落ちていく。あまりの驚きに、お漏らししたかもしれないけど……。私の目の前は文字通り真っ暗なままで、どこまでもいつまでも落ちていく穴の中で、いつしか私の意識はぷつりと途絶えた。

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