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10 「なぜドラゴンが現れたのか論争よりも、別のことで頭を悩ませるのやめてもらっていいですか」

平和なド田舎に、全生物最強のドラゴンが現れた。

なぜ、どうしてと問う前に、アメリは別のことに思考を持って行かれてしまう……。

 話をかいつまむと、こういうことみたい。


 ある日突然、ドラゴンの存在を確認しました。


 何も知らずグロッケン山に足を踏み入れた村人が、ドラゴンの被害を受けないようにする必要がある。


 そこでスヴェンは、エルステッドに相談。


 グリマルキンを使って、村人がそれ以上奥に入らないように襲わせる(もっと他に方法あったろ)


 軽傷とはいえグリマルキンに襲われたギムリさん。


 グリマルキンが暴走したと思った村人は、猟師ゴッツさんに退治を依頼。


 ゴッツさんはスヴェンに会って、事情を聞く。


 その間もグリマルキンには道を塞ぐ役割を与えつつ、二人はドラゴンをどうするかの調査をしていた。


 ここまで話を整理して、私はグレンゼ村周辺地域の情報を頭の中で検索する。

 確かにここは動植物にとって住み心地が良くて、魔物なんかも出没するような地域だ。

 でもドラゴンは基本的に、人間の集落近くには近寄らない習性があると聞いた。

 

 ドラゴンはとても賢い生き物で、むしろ人間のような知的生物を避ける傾向がある。

 だから人間が下手に近寄らないような、魔物が多く棲みつくような場所だったり、洞窟の奥だったり、火口の近くだったり。

 そういった難所に巣を作る生物だから、こうして人間の村の近くに現れるなんてすっごく珍しいことだ。


「まぁ、ドラゴン全部が絶対に人間の前に現れない……とは言い難いですけど」


 現にドラゴン退治の依頼が、いくつか国の方に来たことがあった。

 凶暴で好戦的なドラゴンも存在するから、たまたまドラゴンが飛空していた先に村があって焼け野原にされた……なんて災難もあるにはある。

 

「グレンゼは見通しの良い地形だ」

「ゴッツ殿の言う通り。ドラゴンが棲家とする場所に、開けた場所は選ばない。山奥か洞窟が主だ」


 ゴッツさんとスヴェンも、私と同じ解釈だ。

 だからこそ、おかしい。

 いくらこのグロッケン山が木々の多い山だとしても、近くに村があるわけだし。

 山菜取りや狩りをする為に、村人の出入りはそれなりにあったはず。

 静寂を好むドラゴンがここを選ぶ?

 

「でもまぁ、決して不思議な話ではないがな」

「え?」


 あっけらかんとした口調で、スヴェンが切り込む。

 何か他に情報があったりするなら、早く言って欲しいんだけど。


「隣国のエクレアールが、こぞってドラゴン狩りをしているからな。恐らくそれで、ここまで逃げてきたんだろう」


 ……はい?


 ……は?


 私は絶句した。

 脳内でも絶句しちゃったわ。


 隣国エクレアールって確か、このグロッケン山を挟んだ向こう側がそうよね。

 自国であるオズワルドの宿敵というか、敵対国というか。

 とにかく仲がめちゃくちゃ悪い。


「あの、ちょ……っと待ってくれるかしら? え? ドラゴン狩り?」


 私は低く挙手して、頭の中をどうにか整理しようとする。

 何を言ってるんだこの男は?

 イケメンでも言っていいことと悪いことがあるでしょうが。


「ドラゴン狩りという言い方は少々語弊があったか。つまりエクレアールは最近、ドラゴンライダー育成に力を入れていてだな」

「初耳ですけど」

「そりゃそうでしょ! どうして敵対国に内情を説明しないといけないわけ!?」


 エルステッド、ちょっと黙って。


「ドラゴンライダーと言えば、ドラゴンがいなくては話にならない。そこで対話が可能なドラゴンには説得を、対話不可能なドラゴンには力で服従させて飼い慣らそうとしている」

「不遜すぎる!」


 ドラゴンは史上最強の生物なのよ!?

 人間より何百年も長く生きて、人間以上の超生物とされているのに!

 いや、別にドラゴンのことを知り尽くしてるわけじゃないけど。

 なんだろう、スヴェンの言い方が腹立つ。


「まるでドラゴンを人間以下の生物だって言ってるみたいでムカつく」

「ほう、お前はドラゴン擁護派か」


 あ、やば。

 思わず本音が口から漏れちゃった。

 何とかこの変な空気を修正させなくちゃ!


「えと、失礼」


 こほんと咳払いして、ひとまず冷静さを欠かないように話さなくちゃ。

 だとして、どうしたものか。


「つまり、グロッケン山に現れたドラゴンはそのドラゴン狩りから逃げて来たわけね」

「敬語がどっか行ったな」

「話の腰を折らないで」


 急に普通の言葉遣いになっても、特にどうということはないって顔してるんだから良いわよね。

 別にこの人がお偉いさんとか、そういうんじゃないなら……。


「あれ……?」

「どうした」


 どうしてこの人、エクレアールの事情に精通してるの?

 こっちだって敵対国の動向には注意してるはずなのに……。


 旅人だからエクレアールに立ち寄って、そこで見聞きした情報?

 その程度で知り得るなら、うちだってその情報を持ち帰ることが出来るはず。

 私は勢力争いとか戦争とかに興味はないから、特に気にしてなかったけど。

 

 だったらこの男、どうやって……?


 私がスヴェンの顔をまじまじと見つめ過ぎたせいか、その視線に気付いたこの男は含みのある笑みを浮かべた。

 にやにやと、まるで私のことを馬鹿にするような目つきと態度で。


「……ロスヴェルト」

「おっと、そこまでだ。……お嬢さん、勘が鋭いな。さすがだ」


 やっぱり、こいつ……!

 

 スヴェンというのは、ただの愛称。

 本名はロスヴェルト・エクレアール四世……!


 エクレアール国の現国王じゃないの……っ!

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