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異世界恋愛系(短編)

生き別れの妹を演じていましたが、お金目当ての赤の他人なんです。これ以上は良心の呵責に耐えられないんで、溺愛はどうか勘弁してください。

 右よし、左よし、侍女さんたちの気配なし。周囲を指差し確認して、私はひとり小さくうなずいた。


 辺りは予想通りすごいひとで、姿をくらますにはもってこいだ。お兄さまへの冬至祭の贈り物はどうしても自分で選びたいと、駄々をこねて馬車を出してもらった甲斐があった。


「お嬢さま! どちらにいらっしゃいますか!」


 遠くから聞こえる呼び声にどきりとする。いやいや大丈夫。もともと地味顔なのだし、人混みに紛れ込むなんて造作もない……はずが、勇気を出して物陰から一歩足を踏み出したところで、さっと手を差しのべられた。


「そこの可愛らしいお嬢さん、足元に気を付けて。さあ、お手をどうぞ」

「お、お兄さま!」


 指先まで洗練された生粋のお貴族さまの仕草。周囲の女性陣が見惚れているけれど、みんな気がついて。妹に対してこの駄々甘な台詞って正直どうなのよ!


「クララ、ひとりでのお出かけは危ないよ。君ときたら、目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうんだから」

「お兄さまこそ、一体どうして? 今日は王宮でお仕事だったのではないの?」

()()()()用事で足を伸ばしたら、ちょうど君を見かけてね」


 王宮にいるお兄さまが、たまたま街に用事がある? 無理のありすぎる言い訳に、思わず顔がひきつった。やはり、私の本当の狙いがバレていた?


「欲しいものは見つかったかい? まったくクララは面白いね。いくらでも屋敷に商人を呼んでいいと言っているのに、自分の足で探してみたいだなんて」

「いろんなお店を回るのが楽しくて……。今まではお店の中に足を踏み入れることさえできなかったから」


 困ったように頬をかけば、優しく手をとられてしまった。ナチュラルにエスコートの体勢に持ち込むイケメン、怖い。


「買い物にのめり込んでしまう気持ちもわかるよ。僕もクララに似合うものを探していると、店ごと買い取りたくなるし」

「それは買いすぎかな」

「けれど今回のクララは、一人歩きの時間が少しばかり長かったからね。まさか()()()()()()()()()()()()()()()と心配になったよ」


 穏やかな微笑みとは対称的な、鋭過ぎるツッコミに冷や汗が止まらない。ええい、今日のところは引き上げだ!


「まさか、大切な家族がいるのにどこかへ逃げ出すなんて」

「そうか、僕の考え過ぎならいいんだ」


 お兄さまの笑顔がまぶしくて、少しだけ胸が痛い。後ろめたさを見透かされるのが怖くて、あえて顔をそらせなかった。


「さあ、クララ。屋敷まで一緒に戻ろうか?」

「お兄さま、お仕事は?」

「家族よりも大切な仕事なんてあるわけないだろう。僕は今から、年末年始の休暇に入らせてもらうよ」


 お兄さまの言葉に、顔がひきつりそうになるのを必死にこらえた。お兄さまはいつもこうだ。仕事も社交も、私以上に大切なものはないと笑顔でなげうってしまう。


 以前、お屋敷に訪ねてこられたお兄さまの上司の姿を思い出し、私はこっそり合掌した。冬至祭の贈り物は、家族以外にも友人や職場の方に送るものだという。髪の毛によく効く食べ物を執事さんに頼んで手配してもらおう。


「愛しているよ、クララ」

「お兄さま、私もよ」


 思わず本心から好意を示してしまって、私は静かにため息をついた。兄妹という関係を最初に望んだのは自分だというのに、胸がちくちくと痛い。


 ああ、また今日も逃げ出せなかった。



 ***



 みなしごの私に兄ができたのは、つい数ヶ月ほど前のこと。生き別れの妹を探しているという若き伯爵さまの噂を聞きつけお茶会に参加した結果、見事その座を射止めたのだ。ちなみにこのお茶会の開催には、例の上司さんも一枚噛んでいたらしい。


『ああ、君こそ探していた()()()に違いない。名乗り出てくれてありがとう。今まで苦労をかけたね。これからは、僕の家族として何不自由ない暮らしを約束するよ』

『……あ、ありがとうございます』


 万雷の拍手の中、微笑むお兄さまと顔をひきつらせる私。家族が見つかったというのに喜ぶどころか若干引き気味だったのはなぜかといえば、それはもちろん、私が妹どころか赤の他人だったからだ。


 お茶会なんて食事目的で入り込んだだけ。この機会を逃せば一生口にすることはないだろう高価なお菓子の数々に舌鼓を打っていたら、妹認定されてしまった。こんなことになるなんて一体誰が予想できただろう。


『君は今でもそのクッキーが好物なんだね』

『はあ』


 今でもどころか、口にしたのは今回が初めてだ。他のお菓子に比べて随分素朴な見た目をしていたけれど、小麦本来の香ばしさが引き立っていてすごく美味しかった。


 そのクッキーの食べっぷりが、妹認定の決め手となったらしい。いやいや、クッキーの好み以外に、もっと重要視するべきものがあるだろう。共通の記憶だとか、顔かたちの似具合だとか。


『私が騙しているとは思わないの?』

『僕があの子のことを間違えるなんてことはないよ』


 けれど謎の自信によって私の反論は笑って流され、その日のうちに伯爵家に引き取られることになってしまったのだ。出来過ぎとしか言いようのない流れだったが、屋敷でも歓迎されてしまった。


 まず使用人たちが優しい。よくあるお話のように、「得体の知れない売女が坊っちゃんを誑かすなんて!」といじめられることもない。


 お兄さまはと言うと、使用人以上に私を甘やかしてくる始末。いつ顔をあわせても、口から出てくるのは優しい言葉ばかり。


 クローゼットから溢れ出すドレスに、身につけられないほどのアクセサリー。お兄さまは、私のためにお金を惜しまない。ねだればお城だって手に入るのではないだろうか。


 ただお兄さまは、私が屋敷の外に出ることをひどく嫌がった。普段はどんなわがままでも認めてくれるお兄さまとは思えない態度に首を傾げていると、こんこんと諭された。


『やっと帰ってきた大事な家族を、自分の目の届かないところへ行かせるとでも?』


 馬鹿な私は、ここにきてようやっとお兄さまにとっての「妹」の重みに気がついたのだ。


 目の中に入れても痛くないというほどに可愛がってもらっていたのに、お兄さまがどんな気持ちを抱えていたのか想像したことなどなかった。そして覚悟のない小心者の私は、それ以来お兄さまを金ヅル扱いできなくなってしまったのだ。


『クララ、ずっと僕のそばにいておくれ』

『……もちろんよ、お兄さま』


 今更ながらに、大変なことをしでかしてしまったと手が震える。名前を呼ばれるたびに、胸が痛くなった。私を望んでくれるのなら、どこにも行かず一生隣にいたい。


 けれどお兄さまが大切にしているのは、「私」ではなく「妹」なのだ。私は血の繋がりなどない赤の他人。金目当てでお兄さまに近づいた恥知らずの紛い物。そもそも、望まれるはずがないというのに。


 家族になりたい。

 本当の、本物の、家族になりたい。そんな分不相応な願いが頭から離れない。


 お兄さまに事実を伝えて、謝ろうとしたことだってある。けれどどうしても踏み出す勇気がなくて、それならばと私は屋敷から逃げ出すことにした。不誠実なのは承知の上で、これ以上良心の呵責に耐えられなかったのだ。


 それなのになぜか逃亡計画は毎回失敗。逃げようとすればするほど、お兄さまの束縛は強くなる。これ、詰んだのでは?



 ***



 お兄さまと屋敷に戻ると、執事さんが見知らぬひとたちと揉めていた。私たちの姿を目にして明らかにほっとしたところから察するに、どうにも無下にできない相手らしい。


「一体なんの騒ぎだ」

「冬至祭だというのに婚約者であるわたしの娘をほったらかし、どこの馬の骨ともわからぬ女を連れ回しているとは。まったくお前の気がしれんな」

「これはこれは。家族水入らずの団欒に割り込むとは、まったく無粋なことをなさる。それに再従姉妹(はとこ)殿との婚約など了承した覚えはないが?」

「ふざけるな、お前はわたしに従ってさえいればいいんだ!」


 よくわからないが、とりあえずこのひとたちはお兄さまの親戚ということか。それならば、一応の礼は尽くすべきだろう。例えお兄さまとの関係が友好的なものではないのだとしても。習いたての淑女の礼をとれば、彼女は私に近づき、お兄さまから見えないようにドレスの影で足を踏みつけてきた。


「まったく、薄汚い野良犬ですこと。もう十分に贅沢を堪能したでしょう。痛い目に遭わないうちに、さっさと屋敷から出て行きなさいな」


 すごい、すご過ぎる。伯爵家に引き取られてきたときに覚悟していたいじめを、ここにきて受けることになるとは。ようやっと私に向けられた悪意にしみじみ感動していると、追い討ちがかけられた。


「お父さま、怖い。わたくし、彼女にいきなり睨まれてしまいましたわ。せっかく仲良くしようとご挨拶しましたのに」

「あれ、挨拶だったの? 本気で?」

「ひどいわ!」


 ついうっかり失言してしまった上、繰り広げられる一人芝居にもはや突っ込む気力もわかない。もういっそこのまま、彼女に私を追い出してもらえばいいのではないだろうか?


 嫁と小姑の仲が悪いというのはよく聞く話だ。お兄さまの結婚に合わせて私が家を出て行けば、失踪するよりも自然な形でお兄さまから離れることもできる。


 そしてお兄さまは、私のような得体の知れないみなしごではなく、身元のしっかりしたひとと新しい家族を作ればいい。偽物ではない、血の繋がった本物の家族を。


 そこまで考えて、胸がじくじくと苦しくなった。やっぱり私は自分勝手だ。散々自分から離れようとしていたくせに、いざ追い出されそうになると不安で仕方がない。うつむいていると、お兄さまにぐいっと引き寄せられた。


「クララ、大丈夫だ。何も心配することはない」

「お兄さま……」

「言いがかりは許せないな。クララのつぶらな瞳が、君を睨んだりするわけないじゃないか」

「まったく何を言うかと思えば。その娘に騙されているのではありませんこと?」


 こちらは叩けば埃がでる身。困ったように笑うだけで精一杯だ。


「そもそもぽっと出の君に再従姉妹(はとこ)であると言われても。君の父と僕の父が従兄弟(いとこ)という話もどこまで信用していいものやら。やれやれ、両親が亡くなってから急に親戚が増えて困ったものだよ」

「わたくしたちが信用できないとおっしゃるの?」

「僕は目に見えない血の繋がりとやらよりも、僕自身の目で見たものを信用しているだけだよ」


 それはつまり、お兄さまは私自身を信用しているということなのだろうか。何よりも嬉しいはずのお兄さまの言葉が、私の胸を鋭く刺した。



 ***



 揺さぶりをかけてきたのは、やはり向こうの方だった。冬至祭は絶対にこの屋敷で過ごすと言い張ったあげく客間を占領した彼らは、朝が来るなり私を泥棒扱いし始めたのだ。


「ペンダントを彼女に盗られたのです。あれは母の形見。どうぞ返してくださいませ!」

「まったく、手癖の悪さはやはり育ちゆえのものか。お前もこれでわかっただろう。卑しい平民は、どれだけ世話をしてやったところでその性根は変わらんのだ。家族ごっこなどやめて、お前にふさわしい娘と早く結婚しなさい」


 芝居がかった言い回しでお兄さまにしがみつく女と、これまた鼻につく言い回しでお兄さまに説教する女の父親。


 自作自演ではあるが、効果的なやり方だろう。母親の形見とやらが屋敷のどこかから見つかった後は、謝罪の代わりにお兄さまとの婚約を求めてくるつもりに違いないのだ。


「おはよう、クララ。君のために冬至祭の贈り物を用意していたが、喜んでもらえたかな?」

「……え? はい、お兄さま。どうもありがとう」

「ところで、僕への贈り物は見当たらなかったようだけれど?」

「あ、あの、先日、決められないまま帰宅してしまって。ある程度見繕っていたので、お店に行けば今日中に用意できるかと」


 昨日逃げ出しそこねた上一緒に帰宅したから、私はお兄さまへの贈り物を用意できないままだったのだ。ありえない失態にしどろもどろになっていると、お兄さまが微笑んだ。


「じゃあ、僕からリクエストしてもいいかな?」

「私に用意できるものなら」

「ああ。簡単なものだから心配しないで」

「ちょっと、わたくしのことを無視するなんてどういうおつもりかしら!」


 確かに。冬至祭の朝は、贈り物の中身で盛り上がるのが常だけれど、形見の品をなくしたお客さまの前でする会話ではないだろう。


「ああ、君のペンダントをクララが盗んだだって? まったく、面白いことを言うものだね」

「まあ、信じてくださらないのね。でも、探せばきっと見つかるはずよ。それでも、『ありえない』とおっしゃるのかしら」

「ああ、もちろんだとも」


 不思議なほどの自信に満ちて、お兄さまが同意した。信じてくれるのは嬉しいが、一体どうするつもりなのだろう。


「お兄さま、お部屋を確認してもらうの?」

「そんなことをする必要はないよ」


 お兄さまの合図で使用人が部屋に持ち込んできたのは、昨日、再従姉妹さんの胸元で輝いていたペンダントだった。


「廊下に落ちていたのを、家の者が見つけていたんだ。留め金がうっかり外れたのではないかな」

「そんなはずは! だって昨日確かに暖炉に放り込んだのに」

「……まったく、こちらが『勘違い』で済ませてやろうとしているというのに、わからないひとだな」


 失言に気がついた再従姉妹さんが慌てて口をつぐむ。なるほど、他人の屋敷で大切な物を盗まれたあげく、嫌がらせでボロボロにされたという方向に持っていく予定だったのだろう。まあ確かに、警備のしっかりしている私の部屋にペンダントを放り込んで、私に盗まれたと主張するよりは成功する可能性が高そうな気もする。


「大伯父から、君たちのことを聞いたことがないというのは妙だと思ってね。少々調べさせてもらったよ。どうやら、何人かいる従叔父(じゅうしゅくふ)のうちのひとりのようだね」

「だから、親族だと言っているだろう」

「親族ねえ。色々とやらかして多額の借金を抱えたあげく、雲隠れ。縁を切られているそうじゃないか」

「そ、それは!」

「今さら現れたということは、借金を払うあてが出来たということかな。たまりにたまった利子も含めてね」

「助けてくれ、血の繋がりがある親戚が炭鉱送りになってもいいというのか!」

「そもそも自分達がちょっかいをかけてきたんだろう。クララを巻き込んだりしなければ、見逃してやるつもりだったのに」


 再従姉妹さんたちがお兄さまにすがりつくが、お兄さまは使用人に命じ、ふたりを容赦なく外に放り出した。


「僕は血の繋がりに愛情を感じたことなんてないよ」


 きっぱりと告げるお兄さまの横顔は、今まで見たことがないくらい冷たく寂しいものだった。



 ***



「クララ、遅くなってしまったね。朝御飯にしようか」

「お兄さま……」


 今回は相手が自分から墓穴を掘ってくれたけれど、似たようなことはこれからも起こるだろう。そのときに、私の生まれを突かれればややこしいことになる。これ以上、お兄さまに迷惑はかけられない。私は覚悟を決めた。


「お兄さま、私、本当はお兄さまの妹ではないんです」


 知らんぷりをして家族ごっこを続けていたかった。でもそれではダメなのだ。私の発言に、お兄さまがウインクを返す。


「ああ、知っているよ。それで、今日の予定なのだけれど」

「……知って、る?」


 お兄さまの言葉に頭がくらくらしてきた。先ほどのペンダントのことといい、お兄さまは一体どこまでお見通しなのだろう。


「お腹が空いているときにややこしい話をしても、疲れるだけなんだけれどね。仕方がないな」


 動揺する私が食事どころではないと気づいたのか、朝食を食べながら今までのことを話してくれた。


「もともと僕は結婚願望がなくてね。それなのに周囲からの圧力がすごいから、『あの子みたいな可愛い子がいるなら』と返事をしていたんだ。それがいつの間にか、生き別れの妹探しになったみたいでね」

「まるで他人事みたい」

「完全に他人事だよ。お茶会を取り仕切っていたのは、この国に僕を縛り付けておきたい上司だし」


 結婚でもしないと、お兄さまは簡単に出奔しかねないと思われていたのだろうな。


「結局、『あの子』というのは誰なの?」

「かつて妹のように可愛がっていた女の子だよ。話に尾ひれがつくのはどこの世界でもよくあることだろう?」


 肩をすくめてみせるお兄さまだけれど、きっと噂が噂を呼び、話がどんどんかけ離れて行くのを楽しんで見ていたに違いない。お兄さまは、そういうひとだ。


「君は本当に『あの子』にそっくりだね」


 優しい目をするお兄さまに、もやもやが胸いっぱいに広がっていく。一体「あの子」というのは、どんな女の子だったんだろう。



 ***



 食事が終わった後、残されていた「あの子」の肖像画を見せてもらった。つぶらな瞳が印象的な、ぷるぷるふわふわの可愛らしい犬だった。


「犬! まさかの犬!」

「僕のそばを離れず、どんなときも一緒にいてくれる優しい妹だった。家族仲がいいとは言いがたかったからね。なおのこと、大切な存在だった。専用のクッキーが大好きで、しょっちゅうねだられたものさ」


 つまりあの美味しいクッキーは犬用だったと。


「妹なのに先に年を取り、おばあさんになって虹の橋の向こうに行ってしまったんだ。僕を置いていくなんてひどいだろ? 君を見ていると、どうしてだか懐かしい『あの子』を思い出すよ」


 遠くを見つめるお兄さまは、柔らかく微笑んでいる。


「……お兄さま、『あの子』みたいに可愛い妹じゃないけれど、許されるのなら私がずっと隣にいるわ。それなら、寂しくなんてないわよね?」

「ああ、そうだったね。僕には、君という新しい家族がいる。君と一緒にいると、毎日が面白いことだらけで退屈する暇もないよ。愛しているよ、僕の可愛いクララ」

「もう、お兄さまったら、また気軽に『愛してる』なんて。まるで、プロポーズみたい。いつか、勘違いされて刺されるわよ」

「おや、僕と家族になるのはご不満かな?」


 お金目当てで生き別れの妹を演じていたみなしごが、本当の家族を手に入れたのだ。不満なんてあるわけない。ただ、ちょっとびっくりしただけだ。そういえば、枕元に置かれていた冬至祭の贈り物も、指輪だった。お兄さま流のわかりにくい冗談なのだろうか?


 首を傾げていると、なぜか唐突にお姫さま抱っこをされる。


「クララ、君に拒否権はないよ」

「どういうこと?」

「僕は最初に言っただろう。『冬至祭の贈り物は、僕からリクエストしてもいいかな?』と。君は、『私に用意できるものなら』と答えたじゃないか」


 完全にはめられた。


「おや、クララ。疲れたのかい。まったく、君は昔から散歩に行くのはノリノリなのに、途中でぜんまいが切れたかのように動かなくなるんだから」

「ちょ、私は人間だから!」

「いやいや、本当にそっくりだよ。悪いことをしているときに声をかけると、笑ってしまうくらい肩が跳ねるところとか、バレバレなのに必死で隠し事をしているところとか。ちょっとおバカなところ最高に可愛いよ」


 それは全然誉めていない上に、「おもしれー女」枠ですらないのでは? いくら妹として可愛がっていたとはいえ、わんこと一緒にしないでいただきたい。


「ところで、これは一体どこに向かっているのかしら」

「ああ、城にいる上司の元へ向かう直通の通路が屋敷の地下にはあってね」

「は?」

「せっかく、クララが本当の家族になったのだから、まっさきに報告しようと思ったんだ。そうそう、クララに伝えていなかったんだが、僕は王家の」


 孤児として生きてきた危険察知能力がびんびんになって告げている。これ以上、踏み込むな。耳をふさげ。今ならまだ間に合う。


「すみません、伯爵家のことに立ち入り過ぎました」

「ちゃんと全部知って欲しいんだ。家族じゃないか」

「家族でも、お互いのプライベートに関しては踏み込まないのが優しさではないかしら!」

「いやいや、家族には全部知っておいて欲しいんだ。我が家の裏の事情までね」


 すみません、これ以上は耐えられないんでやっぱり溺愛はどうか勘弁してください。

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