11-1話 根本回帰
「ハイネ先輩。少しいいですか?」
無事セレモニカの儀も終わったホールの控室そばの廊下。そそくさと帰ろうとした先輩の腕をつかみながら問いかける。
未だ賑わいも衆目の注目もあるが、控室そばの通路は他者の気配がほとんどない。
「……何だ。感謝と謝辞は後ほど改めて述べるつもりだが。」
「それは別によいのですが。ルイス様も今回の演舞で大分すっきりされたようですし。それよりも、結局どうしてルイシアーノ様に蹴りを食らわせたのでしょう?そこはちゃんと分かってないのですよね。」
「ミラルドは。」
「全体の前では分からないと。ですがその後……。」
◆ ◇ ◆
時は戻りセレモニカ開始前、私とミラルドは会場を出て学院の応接室前にいた。
セレモニカの儀は本来学院の生徒限定での催しになるが、此度は少々趣向を変えている。
生徒の親族のうち、特に春や冬の精霊と相性が良い者を招集したのだ。彼らにも合唱へ参加してもらうことで、より精霊の活発化・鎮静化に繋げるため。
…………という名目で、かつての事件の首謀者たちを罠にかけるためだ。
ルイシアーノとハイネ先輩が乱闘したという噂がプラスに転じてか、ルイスからの報せに然程疑われることもなく招待された人々。
学院の生徒のうち、身内が誰もオリエンタル商会をここ十年に渡り使っておらず、他の商会の縁人でもない。
更にはかつて退学することになったアザレア先輩の従者の何らかの関わりがあった者は学院内で一人か二人。
その身内のうち、事件の起こった年には既に青年と呼ぶべき年齢となっていた者たちをまとめてピックアップしたところ、男女合わせて二十人にも満たなかった。
「さて、今この中には容疑者がいて、私たちはこの中から犯人と呼ぶべき存在を探す必要があります。」
「ですねぇ。ボクは何をしたらいいんでしょうか?」
本番ではハイネ先輩に忘却魔法の効果を打ち消す指輪をはめることで罪を詳らかにするつもりだが、今はまだ彼は何も知らない身。
ミラルドはふわふわとした銀の癖毛を揺らしながら首をかしげている。その顔に向かって、先日のルイシアーノに負けず劣らずの笑みを浮かべた。
「同調はもう使えますね?それと生理的変質魔法も。今から私が彼らの意識を混濁させるので、彼らに対してこちらの問いかけに偽りが言えなくなるようにしてください。」
口にした内容があまりに外道?サテナンノコトヤラ。
無関係の大半の人々には申し訳ない気もするが、一番これが手っ取り速いし何より確実なもので。
何より今回は王家からも特命任務として取り計らいを受けている。
取り扱いの許可が厳しい生理的変質魔法についても、対象を限定することで許可済だ。
「うわぁ、なんだか特殊任務みたいでわくわくしますねぇ。」
「実際特殊任務ですからね。では、突入しましょうか。」
/////
身辺警護の意識からか、来訪していた彼らの中には防護魔法の機能を備えた魔法石を持ち歩いている人々も見受けられた。
「齧れ毒林檎・喉を潤す蜜の味……ボクたちの質問、聞いてくれますか?」
「「「「……はい。何なりと。」」」」
「よし、成功ですね。」
だが、汎用の防護魔法程度では同調で精霊の加護を受けた魔法を防げるはずもない。
今の私たちはさぞや悪人面をしているんだろうなと思いつつ、少し楽しくなってきたことは認めよう。
この質問に対して分からなかったり、否定をした相手は素直に解放してあげるから許してほしい。混濁魔法で虚ろな顔をしている彼らに、優しく問いかけた。
「……さて。貴方たちの中で数年前、オリエンタル商会会長の子女に、狼藉を働いた者はいますか?」
「「「「────……。」」」」
口々に聞こえてきた返答を耳にして、しばし天を仰ぐ。
一人いれば御の字だと思ったが、複数人いるが??しかも別々の生徒の関係者から出てきたが???
「……うん、はい。じゃあ一度魔法を解いてください。こっちは捕縛して……ミラルド、待機場所に連れて行ってもらっていいですか?私は混濁魔法を解いた後、残りの方に怪しまれないよう説明します。」
そう言って部屋に隠していたロープを取り出し、幾人かの手首を後ろ手で縛っていく。まさか防犯としてフェルディーン家で習った捕縛術がこんなところで役に立つとは。
「はぁい。ここの人たち、結局本番は参加しないんですっけ?」
「完全無関係な方には途中から参加いただくことを検討していましたが、全員何かしらの関係はありそうですからね……。セレモニカ開始と同時に事情聴取のため騎士の派遣をお願いしましょう。」
「そうですねぇ。メッドお兄様やリュミエルさんとは別の人たちが派遣されてるんでしたっけ?」
「ええ。とはいえ状況は十二分に王家を通して共有されているようなので、そこは心配なさらず。」
春と冬の精霊たちは自らを鎮め盛り立てる儀式の前に余計な邪魔が入るのを厭うだろうか。そうだとしたら、ヤンデレ予備軍ばかりを選びに選んでソルディアのメンバーとした自分たちを悔いてくれ。
手早く準備を済ませていきながら、そういえばと思い出したことを口にする。
「そういえばミラルド、本当にシドウ先輩は何もおっしゃっていなかったのですか?」
他の面々は当事者だったり従者だったりフラグ持ちだったりと無関係とは言い難いが、ことミラルドは完全に巻き込まれただけの立場だ。
その立場をもって押せば、直接的な話ではなくともなにかは聞き出せると思ったのだが。
「うぅ~ん。……シグちゃんに嘘はつきたくないなぁ。一応お話はしてくれましたよ?でも、この事件には関係なさそうなお話だったんです。」
「関係ないかどうかは分からないでしょう。どんな話だったんです?」
何せ先輩の妹さんが巻き込まれた事件と先輩本人への嫌がらせの主に関連性がありそうだったのだ。ここまで来たらミラルドの話とやらも絡んできておかしくはなさそうだ。
「ナイショです。どうしても聞きたいっていうんだったら、ハイちゃん先輩から聞いてください~。これが終わって、絶対知りたい!ってシグちゃんが言うのなら教えてくれると思いますよぉ。」
けれどもミラルドもなかなかに頑固だ。普段だったらすぐに頷きそうなものを、ここまで隠されるのは何かあるのかもしれない。
「──分かりました。ミラルドが大丈夫だというのなら、信用します。でも、全部終わったら聞き出すつもりはあるので、止めないでくださいね。」
フラグの回収が足りなくなって後日再びヤンデレ化とかごめんですからね!!




