10-5話 役割分担と爆弾発言
私がハイネルートで経験した記憶があるのはノーマルエンドとハッピーエンドの二つ。友人からヒントをもらい、事前にヒロインのステータスを上げていたこともあってバッドエンドを見たことはない。
彼の過去が一番仔細に書かれていそうなバッドエンドルートをやっていなかったのは痛恨の極みだが、ないものは仕方がない。今はある情報で整理をしよう。
「噂で聞いた話では、学院入学当初に貴族学級の人人からやっかみにあった話でしょうか。ソルディア入りした時には貴族階級出身ではないからということで、随分と陰口や、ひどい時にはいじめられたりしていたようです。」
スチルで見た時にはバケツで上の階から水を掛けられたり、わざと転ばせて笑うなどの陰湿なものが多かった。ゲームで見たと言う事実を伏せて伝える。
「そんなことをされてたんですか!? ひどい……」
「……その先輩たちってまだ学院にいるんですか?」
「どうでしょう。そこまでは聞いてないです。」
アザレア先輩の従者の話もあるし、ソルディアに入ったハイネ先輩がその後逆襲して追い出している可能性も十分にあるが、確定できる証拠はない。
そもそも私がそれを知っているのは、ゲームでそういった話が出ていたからだし。
「後は有るとすれば奴の生家絡みか。オリエンタル商会は先代までは貴族の間では評価も高かったが、代替わりしてからの十数年はそうでもないと聞く。そこにも何か要因があるかもしれん。」
「そうすると、二方向から調べていく必要があるでしょうか。」
「……いや。方針としては主に三つだな。学院路線と貴族路線。それに加えてハイネ本人から聞き出すとしよう。」
「先輩から?」
殴り合った後すぐにそんな選択肢が出てくるとは思わなかった。息を呑むと「言っておくと俺はやらんぞ。」とご丁寧にも言い足された。ですよね。
「かと言ってシグルト、貴様が行けばどうせ俺の指令だと向こうも勘付くだろう。その点で一番警戒されてないとすれば……ミラルド、貴様が行け。」
「いや、至極当たり前のようにお二人も巻き込んでいくおつもりで??」
仮称、ハイネ先輩の性根を叩き直そうの会。
元々どうにかできないかと検討していた私や今回喧嘩を売られて怒り心頭のルイシアーノ様はともかく、目の前で喧嘩を繰り広げられていた二人にまで当たり前のように仕事を割り振るとは。厚顔にも程がないか?
「あ、ボクは大丈夫ですよ〜。やっぱりソルディアの仲間ですし、仲良くできた方がいいですもん。」
「はい。私もこんな風に喧嘩をしてそのままは悲しいですから……。出来ることがあるのなら、是非手伝わせてください!」
けれども水を向けられた二人は寧ろ積極的な姿勢をこちらへと見せてくる。その表情のどこにも、厭う色は見えない。
思わず目頭をこっそりと抑える。これまでの一定の冷たさを保ってきたソルディアの組織に慣れていた身としてはあまりにも暖かい。
地味に感動していた私の反応などてんで気にせずにルイシアーノが指示を飛ばしていく。
「なら先ほども言った通りミラルドはハイネ本人から聞き込みだ。無理に聞き出そうとして心証を損ねる必要はない。だが質問をした時に妙な反応をした箇所があったらそれは仔細に伝えるように。」
「はぁい!」
「俺は学院内の調査をする。爵位とソルディアの立ち位置さえあればそれなりに情報も手に入るだろう。」
「えっ、それだと私とユーリカの二人で商会の調査をすることになりますよ?私もユーリカも商会に伝なんてありませんが、少々難しいのではありませんか?」
てっきり私たち二人が学院内の調査を行い、ルイシアーノが商会の情報を集めるかと思っていた。
赤髪の少女も同じ気持ちだったようで、同意を示すように何度も頷きを繰り返す。
「商会にただ二人で立ち寄れと言うつもりはない。それで会える者など高が知れているからな。今度の休みに商会へ向かっていただくよう、後で母上に頼んでおく。貴様ら二人はその侍従……侍従見習いの方がいいか。その身分に偽って着いて行け。」
「なるほど?でもそれならルイシアーノ様が行ったところで変わりませんか?」
「はっ。オリエンタル商会は貴族との折り合いが悪いと話をしたばかりだろう。子息として知られている俺が着いていくよりも、貴様らが母上の侍従見習いとして向かったほうがまだ、率直な意見を収集できるだろうよ。」
「なるほど……?」
ユーリカが首を縦に振るのは変わらないが、声色には幾らか納得が混ざっている。
……実際ルイシアーノ一人で外に聞き込みに行かせたら、何をしだすか分からないしな。本人に聞かれたらまた金の瞳で睨まれそうなことを考えながらも、私も隣の少女と同じように頷いた。
フェルディーン侯爵夫人を巻き込んで申し訳ない思いもあるが、
「畏まりました。それではルイシアーノ様がお話を通し終えたところで、一度私までお伝え頂いても?夫人とある程度の打ち合わせは必要でしょうから。」
「構わん。母上にもそう伝えておこう。」
軽い確認を済ませていたところで扉が開く。向こう側には白衣を着た女性の姿。どうやら治癒術師が来たようだ。
本格的な治癒術をかけるとなれば、これ以上ここに残るのは邪魔だろうと腰を浮かす。
「では、私たちはこれで。」
「後でもうちょっと詳しいお話しましょうね〜。」
「何かできることがあったら言ってください。」
「ああ。……そうだ、シグルト。」
廊下へと出たところで、半開きの扉の向こうにいる主の声に振り返る。金の瞳は殊更愉快そうに細められており、この上なく嫌な予感を想起させた。
「当日は“シグリア”の姿で行ってもらうことになる。重々承知しておけよ?」
「…………、…………は?」
待ってそれどう言うことですかと言い募る前に扉は無常にも閉まった。
「……わぁ、もしかしてシグリアちゃんの姿がまた見れるんですかぁ?」
「……??」
楽しみですねぇとのんきに微笑むミラルドと、何の話か何も分からずにキョトンとした顔のユーリカ。その視線は気づいているが、反応はできずに肩を震わせる。
「……あんっの、横暴野郎!」
強く握りこぶしを形作った。
後で意図やら何やら聞き出させてもらうからな!覚悟しておけ!!




