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8-5話 情報整理と取捨選択

 ワルツが終わったことにも気がつかずに、気がつけば立ち尽くしていた私の腕をミラルドが引く。


「……グリアちゃん?あ、シリアちゃんでしたぁ。どうかしましたか?」

「ミラルド、あそこの隠し扉はどこに繋がっているかは分かりますか?」


 給仕の男が出て行ったそこを指差す。他の扉のようにテーブルでバリケードがあるわけでもない。頻繁(ひんぱん)に出入りをする心配がない扉なのだろうか。だからこそ逆に怪しい。

 ホールの端へと戻りながら尋ねてみれば、ぱちぱちとアメジストが瞬いた。それから、その指が左右の方角を確かめるように動く。


「あそこですかぁ? ええっと、向こうがお料理の場所で、向こうが休憩の場所って言ってましたから……書斎とか、公爵様のお仕事の場所があるところかなぁ。」

「そんな場所に繋がる扉もあるんですか?ここ。」

「前にラジティヴのおばあ様があるって言ってました。パーティーの時には他の人が入らないように鍵をかけておくんですって。」


 そんな場所に入り込んでいった、毒やら地下について話をしていた者。

 ………うん。明らかに怪しいな。


 本来なら一度ルイスと合流をして向かうべきだろうが、予定の時間よりもまだ時間がある。せめて行き先だけは把握しておかねば、厄介なことにもなりかねない。

 しばし逡巡(しゅんじゅん)してから決断する。


「……ミラルド。私はあちらの様子を(うかが)ってきます。潜り込んでいった人がいたので、関係がないか探りに。その間にメッドさんに言伝を頼んでもよいですか?」

「そうなんですか? じゃあ、ボクも行きますよー。」

「……遊びじゃないんですが。」


 あっけらかんと返ってきた答えに目が細まるが、ミラルドも譲らない。


「分かってますよぉ。大事なお仕事なんですよね。でもボク、魔法もいくつか使えますし、お兄様に何かあったらお手伝いするようにって言われてますから!」

 ね?と笑みを前面に出される。……似た笑みには覚えがある。兄が絶対に前言を撤回しない時に見せる顔だ。溜息を吐き出せば、にっこりと再び笑みを向けられた。


「それにね、」

「それに?」

「シグリアちゃんは可愛い女の子なんですから、一人で行ったら危ないと思いますよ?ボクは男の子ですから、ちゃんとエスコートしてあげなきゃ。」

「んっ、」


 思わず奇妙な声が口から耐えきれずに零れる。乙女ゲームの攻略対象が女性に言う台詞(セリフ)としては百点満点だ。ちょっとグッときてしまった私がいた。

 それはそれとして私自身が言われることには気恥ずかしさのような、奇妙な違和感のような。そんな感情も捨てきれない。

 結果、口元をもごもごと(うごめ)かす。


「シグリアちゃん?」

「……シリアです。……はぁ。そこまで仰るのでしたら着いてきても構いませんが、お兄様に伝言は残しておいてくださいね。」

「はぁい!」

 元気よく頷いた銀の髪の青年は、近くにいた給仕にメモを言伝(ことづて)る。


「……ああいう発言はもっと可愛らしい子にされた方がいいと思うんですけれども。」


 少し離れた場所で待つ私は、どことなく落ち着かないまま呟いて自らの耳たぶをこねた。


 /////


 人目を避けて入り込んだ通路。入り口こそ人一人が通り抜けるのがやっとの細さだったが、すぐに広々とした空間へと合流する。

 調度品の置かれていない通路は質素なもので、公爵家の中でもここは私的なゾーンなのだろう。ルイシアーノの屋敷を思い出す。


「普通の廊下ですね。入り組んでいないのは助かりますが……。」

 だが、一本道でもない。先に入り込んでいるはずの人々はどちらへと向かったのか。


「ミラルド、この屋敷に地下室はあるのですか?先ほどの人たちがそのようなことを言っていましたが。」

「地下室ですかぁ?」

 手短に先ほど耳にした会話を説明する。


「もし湖と地下が何らかの形で繋がっているのでしたら、彼らが狙うとしたらそこではないかと。ミラルドはこの精霊行事に何度か参加されているのでしょう。何かご存知では?」

「えっとね、湖はこのお屋敷の近くにあるでしょ?パーティーの最後にお庭に出て、そこで魔力を注ぐんです。」

「え。」

 では地下室というのはなんだったのか。もしや儀式とは無関係? 毒とか物騒な言葉を口にする無関係な人が別に潜り込んでいると思いたくない。


 こちらの懸念に気がついたのか、あっ、でもねとミラルドが言葉を続ける。

「地下はあると思います。そこにおっきな……でも上の湖よりはちっちゃな湖?があるんです。」


 拙い説明ではあるが、つまり地下には通常の湖とは別に小さな“見立て”用の湖が存在している。

 物質的には別のものだが、縮尺の同一化、同質の水、水温の均一化、そして同じ精霊の加護を与えることで()()()()()()ものとする。そうすることで湖の水の純度を調整しているのだと。


「だから、地下に行くのは意味があるんだと思います。」

「成る程……その理論でいくと、地下の湖が(けが)れたら、地上のあの広大な湖も只ではすみませんね。重要なお話をありがとうございます。」


 ならばやることは明確だ。地下へと続く道がこの先どの部屋にあるかを探ればよい。

 先ほどの男の魔力を探す手もあるが、精霊への信仰心を持たない者だ。どれだけの魔力を持っているかも分からない。

 起きうるかもしれない違和感にいち早く気がつける聴力と、屋敷の構造を把握する探索術。必要と思われるのはその二つだった。


「ミラルド、聴力強化の魔法は使えますか?」

 以前は操られていたとはいえ、三年前にはすでに生理的変質魔法を使えていた子ども。ポテンシャルとしては十分のはずだ。

「はぁい、普通のなら使えますよ。」

「十分です、では貴方はそちらを使って、何か妙な音が聞こえたら教えてください。──」


 瞳を閉じて深呼吸する。

 探索術は魔力的コストが高く、通常では術者から半径数メートル程しか探れない。それでは広大な屋敷全体を探ることは不可能だ。

 だが私はソルディアの一人、精霊と契約を結んだもの。同調(シンクロ)を使って精霊の力を引き出せば、不可能はない。己が内に脈づく精霊の力を確かに感じながら、廊下の壁に手を当てる。


この場は我が息づく地フーダマティンアルバラスティン我が手中(アヤディ)我が胎内(ララファム)


 探索呪文を発動させれば、途端に脳内を縦横無尽に走る情報の山。平面的、立体的、魔術的に屋敷の構造を形作っていく。

 膨大な処理を脳が拒絶しそうになるのを、即座に築年数や劣化箇所などの不要情報を切り捨てていくことで留めていく。


 無事に屋敷の全体の立体的な構造は把握できた。それともう一つ。脳を酷使した疲労で身体が崩れかけるのを、ミラルドが肩を支えることで留まる。


「シグリアちゃん、大丈夫ですかっ。顔色悪いですよぉ?」

「……ええ、これくらいなら歩いている内に治ります。行きましょう、ミラルド。」


 それとここではシリアです。律儀に訂正を追加してから、地下へと続く道があった方角へと駆け出した。

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