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7-3話 理由があろうと無茶は無茶

「さて、シグの頼みだし本題に入ろうか。精霊からの託宣内容と任務(クエスト)について説明しよう。」

 どこから持ってきたのか、簡易黒板の前に立ってチョークを手にした兄がかつんと板をたたく。


「みんなは反精霊信仰団体、《ヴォルクス》について聞いたことはあるかな?

 授業では三年の後期に習うことになるけれど、この組織は精霊信仰に対しての反意を示しており、ルーンティナ国内でいくつかの反社会的行動を行っている。」

 アザレア先輩とルイスは聞いた覚えがあるのか難しい顔をするが、一つ上のハイネ先輩と私は首を横に振る。


「まあ犯罪者集団くらいに思ってくれればいいよ。向こうには向こうの理念があるけれど、それは今回の主題じゃないし。」

 話を戻そう、そういって兄が黒板に描きはじめたのは邸宅らしい建物と楕円。そこから延びる矢印の先は、木のイラスト。


「精霊からの託宣の内容はこうだ。『悪意ある何者かが大樹(アーラ・カーン)の存在を脅かそうとしている。』それで独自に調査を魔法騎士団として行った結果、その《ヴォルクス》の構成員がとある公爵夫人が開くパーティーにもぐりこんでいることが判明したわけだ。」

「……?そこまで分かっているならばなぜ、騎士団は捕縛に動かない。」


 ハイネ先輩が私たちの疑問を代表して問いかける。良い質問をしてくれた、と言わんばかりにリュミエルは満面の笑みでうなずいた。


「参加者の大半は表向き、高名な貴族や高官の者だ。その中で誰がその犯人かもまだ分かっていない状況。確たる証拠を見つけるか、あるいは現場そのものを抑えない限り、現時点で摘発(てきはつ)しても効果は薄い。」

「……ちっ。」

 しれっと貴族への不信感を(あお)るようなことを先輩に言わないでいただきたい。リュミエルへと念を込めてにらみつければウィンクが返ってきた。


「パーティーの警備にうちの小隊ももぐりこむことは出来たけど、あくまで警備の一環であって、自由に動けるわけじゃないんだ。」

 あっ、察した。

「……つまり私たちの役目はパーティへの潜入と場のかく乱になりますか?」


 ミラルドの時のようにとまでは口にはしないが、兄には伝わったようだ。鷹揚(おうよう)に首肯を返される。


「さすがにそれは厳しいだろう、リュミエル。ソルディアに所属している者については国の中枢に近いものほど伝わっている。」

 いくらか落ち着いたカーマイン先生が口をはさむ。それは確かに。王女殿下は当然ながら、ルイスも高位の貴族だ。参加者の中には顔見知りの者もいるだろう。


 そうすると消去法で私とハイネ先輩が一緒に潜入をすることになるか。……いやだな。貴族嫌いの先輩と貴族だらけの空間に行くとか。トラブルを起こすかどうかハラハラしながら向かう羽目になりそうだ。


 だがこの男を甘く見てはいけない。

 満面の笑みを浮かべながら、数段ぶっとんだことを言い出した。


「うん、だからちょっと何人か女装してパーティにもぐりこんでほしいんだよね。グリンウッド辺境伯の娘さん方ってことで話は通しているから」

「どうして????」


 執務室に広大な宇宙が広がった錯覚すらある。いやどうして女装??



「とりあえず貴様の兄は正気なのか?一度頭を切り開いて治癒術師に見てもらったらどうだ。」

「ソルディア所属の精霊に愛されてる兄に対して頭おかしいんですよって指摘できる人は限られてるんですよね。残念なことに。」


 口にしてからそういう話ではないなと我に返るが、これが錯乱せずにいられるか?否。


 一番文句を言ってくれそうな兄の友人(メッドさん)が神妙な面持ちで視線をそらしたままだし。

 申し訳なさそうな顔を見るに、どうやらこれは兄の思い付きではなく元々その想定で来たようだ。

 学校を卒業しても尚、兄に付き合ってくれている人がさじを投げるレベル。もはや強制イベントと思ってあきらめた方がいい気もしてきた。


 とはいえあきらめの悪い精神が未だ息をしているもので。苦虫を嚙みつぶしながら尋ねる。

「……リュミエル兄、ひとまず申し開きから聞きましょうか。なぜそのような無茶な発想に?」

「ふむ、理由としては主に二つかな。」

 あっけらかんと二本の指を立てて説明をする。


「まず一つ。今回開かれるパーティーは多くの者が招待されるものとはいえ、開催者は公爵夫人。参加する人の身分もある程度は問われることになる。

 かといって忍び込むのはばれた時のリスクが大きいとなれば、ソルディアの身分を隠して参加客の誰かになりすますのが順当だ。協力してくれそうな人のうち、第三者に顔が割れていないのがグリンウッド辺境伯の娘さんたちでね。」

「……まあ、そうだな。辺境伯は表に出ることはほとんどなく顔も知れ渡ってはいない。その娘たちに対しても同様だが……。」

 貴族事情に明るいルイシアーノが嫌々ながらうなずいた。位が高ければ高いほど、貴族ってお互いのことをよく知っていそうだものな。うち(クアンタール家)はそういうのとはほぼ無縁だけれど。


「逆にこちらがなりすましている時に、ソルディアの一員だと誰かに気づかれるのも困るだろう?

 人というのは印象を服装で覚えるものだ。凛々しい青少年が着ないようなきらびやかで愛らしいドレスを着れば、衆目を集めこそすれまさかそれが偉大なるソルディアのメンバーだなんて思われるわけがないだろうからね!」

「おい、魔獣退散の呪文はこいつに効くと思うか?」

「やめておいた方がいいと思いますよ。うっかり跳ね返してきそうですし。」

 堂々と失礼なことを言っている自覚はあるが、言われている当の本人はどこ吹く風だ。


「なるほど。そういう理由でしたらわたくしは参加できなさそうですね。大人しく学院でプロムの準備をして待つといたしましょう。」

 潜入の仕事をまさか国の第三王女にさせるわけにはいかない。やり取りを見守っていたアザレアが鈴の音のような声で口角を緩ませる。

「そうですね。王女殿下には栄えあるプロムの最後を華々しく飾っていただければ。グリンウッド辺境伯の娘もお二人ですから、お仲間の方をお二人ほどお借りさせていただくことになりますが。」


 恭しく一礼をしたリュミエルが、そのまま私とルイスの肩に腕を回す。おい待て、まさか。


「ということで頑張ろうじゃないか、ルイシアーノ殿、シグルト!!」

「───……暗がりで(ヴァラム)目を光らせるもの(・オルエク・アイ)、牙持つもの(・オルエク・タスク)、飢えたもの(・オルエク・ハグ)

 再び(アラウダ・)暗がり(イダ・)へと舞い戻れ(オッフォレン)……」

「ルイス様!?どうどう!!」

 ちょ、本気で魔獣退散の呪文とか唱えないでいただけませんかね? 気持ちは本当痛いほどに分かりますが!

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