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閑話4

 さて、セレモニカの儀では面倒なことをしてくださったハイネ先輩だが、閉じ込め事件を境に不穏さはなりを潜めていた。


「シグルト。陳情の件、対応だ。」

「あ、はい。今行きます!」


 相変わらずルイシアーノやアザレア先輩に対しては塩対応が目立つとはいえ、私には着実に(けん)がとれてきている。

 故に日々の仕事は私とハイネ先輩。ルイスとアザレア先輩の組み合わせで動くことが主となっていた。


 ソルディアは学院内に存在する組織だが、トップに君臨するよりは、独立した特殊組織といった方が立場は近い。

 学院には別途生徒会もあり、生徒からの相談の大半はそちらへ集まっている。


 では、ソルディアは精霊行事以外やることがないかと言われれば、それも否だ。

 生徒からあげられる陳情のなかでも魔法が絡むものへの対応はソルディアが行う仕組みとなっている。魔力に秀でた者が集っていることと、時折精霊絡みの問題も起こりうるので。


 構内に点在している魔法石の管理もその一つだ。

 魔法石は精霊石のように自ら魔力を持ちはしないが、規定の魔力を込めることで継続的に活用できる。

 現代で考えるなら電池が魔法石、自ら発電とメンテナンスができて半永久的に電力として使えるのが精霊石というべきか。

 魔法石は比較的安価だが、定期的に魔力を込めたり劣化している際には交換をする必要がある。


 今回の陳情でも東棟の四階に設置されている魔法のランプの明かりが不安定になっているという話だった。私たちはその確認へと向かうのだ。


 季節は夏へと移り変わり、からっとした陽気にじんわりと汗をかきながら廊下を歩む。

 沈黙も数か月続けば慣れるもの。最近は本当にぽつぽつとではあるけれど、ハイネ先輩の方から話題が出ることも多い。


「……シグルト。発動(リモータル)の習得は順調か。」

「うぅん……理論としては学びましたし、練習はカーマイン先生に見てもらっているのですが、同調(シンクロ)寄りになってしまって。」


 セレモニカの儀では私とアザレア先輩の相性の関係で行うことがなかった発動(リモータル)

 年の終わりのプロムナードでは自らのうちに宿っている精霊を再び大樹(アーラ・カーン)に還すことになる。


 その時に発動(リモータル)をしないと精霊との契約すら途切れてしまい、結びなおす羽目になってしまうらしい。今年の終わりまでに使えるようになっていれば良いので焦る必要はないのだけれど。


「そうか。着実に鍛錬を重ねろ。(なんじ)は優秀だ。さほど苦労はしないだろう。」


 面と向かってそういわれるとくすぐったさもある。

 ハイネ先輩は貴族さえ絡まなければ勉強で分からないところを教えてくれたり、偶に精霊行事の準備で遅くまで残っている時に差し入れをしてくれたりと気遣いを見せてくれる、いわゆる良い先輩といえる人だ。

 私と同じ下位貴族学級や一般学級では率先して困っている生徒に声をかけており、上級生や同級生の中でも評判が良い。



「(ルイスやアザレア先輩との関係も改善できるならしたいですけれど……。)」

 下手に(やぶ)をつつくと態度も頑なになるので、迂闊に触れられない。

 今はこちらも良い後輩を演じつつ、彼が孤独にならないように周囲との橋渡しをしていくのが無難だろう。


「そういえば、クラスの子がハイネ先輩に先週お世話になったというお話を聞きましたよ。」

 ということでよい後輩としての種まきをひとつ。悪口の伝達は人としてもコミュニケーションとしても悪手だが、良かったところを良かったといわれて気を悪くする人はそういないはずだ。


「世話……?」

 心当たりが思い当たらないような声を上げる。多分ハイネ先輩としては当たり前のことをしただけなのだろうけれど。

「ええ。魔法解析学のグレゴリー先生、偶にすごい難しい課題を個人に当てるじゃないですか。」

 学院では担当科目ごとに教諭が決まっており、授業も教諭の特色が出る。

 わし鼻が特徴的なグレゴリー先生は分かりやすい授業をしてくれるいい先生だ。ただし、時折無作為に選んだ生徒に非常に複雑な課題を出すということで恐れられていた。


「嗚呼。あれくらいさしたる手間はない。一年相手だから教諭も加減してただろう。」

 言われれば否定はできない。頭の柔らかさは必要でも、分かってしまえばなんてことのない答えだったけれど。

「そうだとしても、してもらった子は嬉しかったんだと思います。とても嬉しそうに話していましたから。」

「そういうものか?」

「ええ、それにやっぱり勉強に慣れていない子はその応用こそが難しいですから。そこを先輩に教えてもらえたというのは励みになったと思いますよ。」

「…………そうか。」

 帰ってきたのは短い返事。

 それでも普段より若干高い声音に私は瞳を細めた。



 ◇ ◆ ◇



「そういえばグレゴリーから妙な課題を先日出されたな。引っかけが多い問いだったがそれ以外は単純なものだった。

 あんな単純な問題に苦戦するやつの気がしれんな。余程の間抜けか知識不足の愚か者に違いない。」

「(なんで今それを話題に出したんだこの大馬鹿野郎!!!!!)」


 執務室に帰ってきた時、扉を開けてすぐの会話。あまりにタイムリーすぎて思わず叫びそうになる。

 いや、その感想を持つのはお前の勝手だが何故よりによってこのタイミングで口に出す。

 喉の先まででかかった喚き声を続く二人の会話に飲み込んだ。


「そも、二年以降だとあの難度の質が高まるというのは本当ですか?」

「ええ、グレゴリー先生の突発問題は難題が揃っていますから。」

 アザレア先輩との会話の最中だったらしく、羽根ペンを滑らせる先輩がルイスの言葉に同意する。


「あくまで一般の方にとってはという前置きはあるかもしれませんね。私やルイスのように魔法学を以前より習っている方からすれば、一年の延長と感じるかもしれません。」

 アザレア先輩がまさか裏切るとは。いや、私たちの先ほどの会話を知らないし、事実を述べているだけなのだけれど。

 だが隣にいる家族嫌い偏見マンがどう取るかといえば。


「はん、環境が人を左右するというのはよく言ったものだな。どうせ学院に入った段階で無学な者などそれまでろくなコネもなく入学した者どもだろう。つまづくのも道理だ。」

「……なんだ。環境が人を左右するから、下の者は永遠に下だとでも言いたいのか。」

 地を這う声が隣から聞こえてくる。


 ────圧が強い。圧が強いです先輩。

 無言ながらも絶対零度の視線。気の弱い人が真っ向から浴びたらショックで倒れてもおかしくない。だがルイスの図太さは折り紙つきだ。


「なんだ、文句でもあるのか。或いは俺が間違ったことを言ったと?」

 金の瞳を鋭く黒と交錯させ、火花が散る。

 そう、言葉としては間違ったことを言ってない。しいて言えば先輩が気にしすぎているところはある。それはそれとして。


「いえ、今のはルイス様が悪いです。」

 主に間が最悪だ。

 お前なんでよりにもよって同じ話題で問題解けなかったやつのことをこき下ろしてるんだ。


「はぁ!?シグルト、貴様どちらの味方だ!」

 どっちの味方でもない。

 あえていうならばヤンデレの敵だ!

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