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4-8話 徹底抗戦

 目の前にはヤンデレ、手首には枷、出入り口にもヤンデレ。あれ。もしかして私絶体絶命なのでは?


 これがか弱く心優しいヒロインだったならここで諦めて全てを受け入れていたかもしれない。それを責めることは誰にもできなかろう。

 だが私はヒロインでもなければか弱くも心優しくもない。ここで降伏するつもりは毛頭なかった。


「……シグリアちゃん?」

「なるほど。いえ、確かに兄の発言からしてやばいとは思ってましたが、やはり一番厄介なのは貴方のようですね」


 周囲に積まれているおもちゃの中から、パステルカラーの輪投げの棒にも似ているものを手に取る。

 強度と持ちにくさに不安はあるが、剣の代わりだ。日頃の鍛錬の成果をまさかこんな場面で見せる羽目になるとは思わなかったが。

 その(きっさき)と呼ぶには太すぎる先端を真っ直ぐと彼女に向ける。鬱蒼(うっそう)とした笑みを浮かべるアーノルド夫人へ。


「あら、リュミエルさんが(わたくし)のことを?」

「ええ、ソルディア信者で息子に似てないヤバい人だと」

 今更猫をかぶる必要はないだろう。初手からエンジン全開で吐き捨てる。もっとも、心臓はばくばくと激しい音を鳴りたててはいたが。

 私にだってこの行動が悪手の可能性があるとはわかっている。それでも少しでも彼女の動揺を引き出せればまだ突破口も見つかるのではないかという期待があった。


 ……が、それはどうやら挫かれたらしい。彼女はその口元のたおやかな弧を揺らがせることなく、くすくすと笑い声すらたてる。


「うふふ、メッド……上の息子は(わたくし)には全然似ていないのよ。あの子は朴念仁なあの人に似てしまったみたいでね。」

「上の息子ですか。なるほど、その人が貴方に似ていないと聞いてホッとしましたよ。心底。」

 兄の友人はまだまともな枠そうだ。この母親(ヤンデレ)(ヤンデレ)と比較してだとあまり救いではないかもしれないが。


「でも、そのおかげでリュミエルさんやシグリアちゃんが我が家と縁が出来たのだもの。あの子の孝行には感謝しないといけないわ。」

「……はぁ。それはどうも。とはいえ私はそろそろお暇したいのですが。これ、外していただけません?」

 これ見よがしに鎖のついた片手を持ち上げる。地味に利き腕の右なのが厄介だ。


「ええ、勿論。シグリアちゃんがミラルドとの婚姻を受け入れてくれるのならいつでも。」

 予想通り、お話にならない返答だ。これ見よがしに息を吐き出す。

「まったく、子は親の鏡だとよく言ったものですね。ミラルドのあののんきさは天然ではなくて養殖だったとは」

 腹の探り合いは少しでも弱気になった方が負けだ。意識して丹田とつま先へと力を込めて凛と立つ。


「ようしょく?ボクお仕事ついてませんよ」

「ちょっとすみません、気が散るので黙ってていただいても?」

「はぁい!」

 元気に手を挙げる少年に多少なりとも意気がそがれたのは、うん。許してほしい。ようしょくと聞いて要職を思い浮かぶそのセンスは何なんだ、いや、この世界よく考えたら牧畜はしていても魚の養殖は確かに話に聞かない。そして今はそんなことを考えている場合ではないぞ、私。


 さて、ここで私の勝利条件を確認しよう。

 ・結婚の約束をしない

 ・アーノルド家から脱出する

 基本的にはこの二点。非常にシンプルだ。


 結婚については今の時点で絶対にするつもりがないと固辞の姿勢は維持しているし、こちらを無理やり腕力で押し倒そうとでもしたのなら多少の痛い目は覚悟してもらう所存だ。こんな輪投げの棒もどきでも、みぞおちに入れば痛いだろう。

 一方でアーノルド家からの脱出については、正直なところ劣勢だ。ただ逃げるだけなら武器代わりになりそうなものをとっかえひっかえして逃げていけるが、やはりこの手錠が邪魔だ。鍵を今この母親が持っているのならいいのだが。


「……アーノルド夫人、先ほど父は帰ったと仰いましたが、私を置いていくことについては何か?」

「ええ、婚約の取り決めについては、貴方の一存で好きに決めてよいそうよ。」

 心配していたとか、急用ができたとかそんな表層上の言い訳すらしないのか、いっそ清々しい。

 何らかの罠にはまったのか、或いは真実を隠されているかは明らかではない。とはいえ脅しに使うようなこともしていないのだから、あの人はあの人できっと無事なのだろう。


「──はぁぁ……。仕方がありませんね。すぐさま挙式をとか言われたら断固お断りしますが、婚約という形でしたら。」

「本当に!?」

 童女のような無垢な笑みを浮かべてはしゃぐその表情は、なるほど確かにミラルドの母親なのだろう。念を押すように手錠を掲げてみせる。

「た、だ、し。この鎖を外してもらってから。書面を記すのはそれからにさせていただきますよ。」

 当たり前だが、本当に当たり前だが婚約するつもりなど微塵もない。彼女が、或いはミラルドが意気揚々と手錠の鍵を見せた瞬間攻撃を食らわせて奪い取るつもりだ。そのまま逃げさえすれば、後はこちらのものだろう。


 こちらの思惑に気づいてはいないのか、そのまま無邪気に踊り出しそうな母親。こうして見るとミラルドは心底母親似なのだろう。悪いところばかり生き写しやしないか?

「ふふ、ふふふ。嬉しいわ。ミラルドと結婚してくれるのね!?」

「婚約、です。私もミラルドもまだ幼いですから。今この場で成婚を決めることは致したくありませんので。」

 口約束だけだと分かっていてもそこは譲れない。後で下手に揚げ足を取られても厄介なので。


「あら、大丈夫よ?シグリアちゃん。」

 この状況の何一つたりとも大丈夫ではありませんが?反射的に返そうとした口は、続く朗らかな言葉に今度こそ完全に凍り付いた。


「だってうちのミラルド、つい最近精通したんだもの!」

「…………。……は、い?」


 いや、お前は一体何を言っているんだ?

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