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閑話1-2

「シグルトとルイシアーノさまです?確かにここ最近はとても仲良しですよね」

「あっれぇ!?」

「ほらな、だから言ったろ!」


 夜のうちに窓拭きの清掃を行なっていたエイリアの溌剌とした言葉に、思わず困惑が滲む。フレディはフレディでそれ見た事かと背中を叩いてドヤ顔をしてきた。


「は、いや仲良しじゃありませんよ!?最近は『何だ貴様熱の間に記憶でも飛んだのか?クインディアヌの叙事詩が前以上にあやふやになってるではないか』って鼻で笑ってきやがりましたし!」

「クインディアヌスはまだ分かりやすいだろ。カーツとカーヌとカサリアくらいしか似てる名前がないし」

「十分分かりにくいべ……」

 この屋敷で学んでいる二人も似たような壁にぶち当たったことがあるのだろう。フレディには後で叙事詩を覚えるコツを聞きたい。いや今はその話ではなくて。


「そもそも何で私とルイス様が仲良しなんて話になるんですが、本当に……」

「え、だってお前と話す時のルイシアーノ様、明らか前より生き生きしてるし。」

「だべ。」

 なー、と顔をあわせて頷き合う二人は息がぴったりだ。よほど二人の方が仲良しなんじゃないか。


「やっぱ花精霊(フロール)感謝祭(フェスティア)効果じゃねえの?色々問題は起きたけどさ、帰ってきてからルイシアーノ様明らかに丸くなったし」

「んだんだ。わっち……っと、わたしもそう思います」

 二人の言葉は分からなくもない。実際あれから丸くなったとは思う。ほんの少しだが。


 ねちねちと嫌味を言う時も人前ではなくなったし、場合によっては執事長を介するようにもなった。モラハラパワハラはそうして人前でお前はダメなやつだと言い続けるのが要因でもあるから、成程確かにそこはまともになった方かもしれない。


「あそこでやったことなんて祝福の配達人の話をして後で憤死しそうなタイミングで当て擦られたのと誘拐犯に喧嘩売ったのとルイシアーノ様に喧嘩を売ったのくらいなんですが」

「いや、喧嘩売りすぎだろシグルト」

 年末の市の大安売りでもそんな売り方はないぞと首を横に振られる。おかしい。


「でも、それなら誘拐犯にもルイシアーノ様にも同じ軸で喧嘩を売ったのが良かった……とかなんですかね?」

「あー、エイリア的にゃどっちも平等に見たからちょっとは聞く耳持ってやるかって?」

「だす……じゃなかった。ですです。」


 成る程。単純にルイス個人に喧嘩を売っていたわけではないと伝わったわけか。……やはり鈍いな?あいつ。

 お喋りをしているとエイリアの手が分かりやすく止まる。そのままじゃ仕事も終わらずに眠れなくなってしまうからと、雑談ついでに分担することにした。


 夏の陽気が少しずつ近づいている昨今、水に浸した布巾を絞るのが以前よりも辛くないのはとても助かる。

 そう言えばこの世界、四季が当たり前にあるけれど……それこそ日本で発売したゲームの世界だからで納得してしまっていいのだろうか。

 理論として、数が最も多く基盤ともされる四大元素(火水風土)の精霊たちの担う季節がそれぞれ異なるからと言われるけれど。


「でも、なんでそんな話になったの?ルイシアーノ様とシグルトが仲良しだって」

「なんでだっけか。」

 話のきっかけというのは得手して忘れ去られがちなものである。かく言う私も発端を思い出すのに窓半分を磨き上げるだけの時間を要してしまうくらいには。


「ええ……っとあれですよ。私の家族仲はどうなのかって」

「ご家族……前にシグルトのお父さん?は見ましたけど、真面目そうな方ですよねぇ」

「あ、それはオレも思ったな」

 その言葉に腕の動きが止まる。真面、目??


 ────いきなり娘にお前性別転換魔法を使って男としてフェルディーン家の従者になれとか言い出す父親が、真面目??


「えっ、一体なんでそんな風に!?」

 衝撃としては先ほどのルイシアーノと仲が良いと称されたのと然程(さほど)変わらない。思わず廊下に声を響かせる。


「え、だって男爵っていうのに結構堂々振舞っててさぁ、なぁ?」

「はい。侯爵家の当主様にも丁寧に御礼を申し上げて、でも一歩も引かないでシグルトさの治療をお願いされてましたし。……うちの母っちゃや父っちゃだったら多分あんな真似出来んかったと思うで」

「訛ってる訛ってる」


 えっ、そんなお父様存じ上げませんわ。

 脳裏にガーンとショックを受けたお嬢様顔のシグリアを投影させることで、咄嗟に口からお嬢様言葉を出さずに済んだ。危ないところだった……。


「回復されたのを確認してから、ちょっとは会話したんだろ?」

「ええ。ですがどうしてそんなに早く回復されたかで祝福の配達人の話をしたら、あっけらかんと」


 ──あ、もう“彼奴”が手を回してたのか。

 ──ならもう心配ないな、シグ。


「……と言って安心されたように仕事へ戻られましたね。」


 もともと忙しい中合間を縫って来られていたとは後から聞いた話だけれど、それでももう少しくらい心配を見せてくれてもいいのではないだろうか。

 窓際の(さん)にこびりついた汚れを拭き取るために、布巾を握る手に力を込めた。


「ふぇ……なんつったらえ゛ぇか分からね゛っずけど……。けほん。来た時の心配が嘘みたいな呆気なさですね。」

「だな……?よっぽどその祝福の配達人?のことを信頼してたとか」

 二人とも祝福の配達人についての知識は屋敷で仕事をはじめてから、花精霊(フロール)感謝祭(フェスティア)へ参加した時に小耳に挟んだ程度のこと。

 当然、あの贈り主がその歌語りの張本人とは知らないはずだ。その正体については尚のこと。


「あ、……ぁぁ〜。そうかも知れません、ね。」

 だが、その言葉で一つ思い出したことがあった。


 昔はよく焦った姿も見せていた父。それが次第にどっしりと構え出したのは、兄が規格外のことをなす度にだった。

 入学初年度は、いやそれ以前から手紙が届く度に慌てふためいていた父。それもあれだけ回数が重なれば落ち着きもするのだろう。


「また元凶は(あそこ)か!!!」

「うぉっ!?!?」

「ぴゃい!?しししシグルトさ、急にどした!?」

 反射的に叫んでしまったせいで二人を物凄い驚かせてしまった。申し訳ないと頭を下げれば、首を横に振られる。


「いや、オレは/わっちは良いんだけれど……」


 そう呟いたのが耳に届いたのとほぼ同時に、肩に温かな感触。だというのにそれを感じた瞬間背筋がぞわりと震えた。自分の身体がゼンマイ仕掛けになったような心地だ。

 ぎこぎこぎこ、と油をさしていない箇所を無理やり動かすようにゆっくりと。振り返ったところでその主を見た。


「……シグルト。こんな夜に一体何を叫んでいらっしゃるので?」

「ビ……ビアトリクス女中長」


 ひっ、と小さい声を漏らす。

 時刻は夕食も終わり人によっては眠る支度を整える頃合いだ。そんな時間帯に、それも幾度となく騒いでいるとあらば……。

 かちゃりと眼鏡をあげる音が響いた気がした。


「ええ、ええ。分かっておりますとも。同僚との会話が盛り上がることは良くあることですし、特に貴方がたは若いですから。大声を出してしまうこともあるでしょう。……ですが、ここは由緒あるフェルディーン家であり、貴方がたは、その使用人、お分かりですね?」

「は、………はい」


 思わずその場に正座をしそうになるが、以前それをしたらみっともないとピシャリと言われたことを思い出す。

 着いてきなさいと顎を引く仕草をされるのにだいぶ遅れた動作で歩き出した。後ろでフレディとエイリアが手を合わせているのを感じる。


 これもそれもあのチートのせいだ。

 いや大声出したのは自業自得だけど。

 九割九分は八つ当たりだと自覚しながらも、明日確定した眠気とルイシアーノからのいびりの原因に向かって、脳内の飄々とした笑顔に思い切り蹴りを入れるのであった。

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