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18-5話 VS?それとも、

「おい……起き抜けに飛び上がるな。そもそも貴様から言い出したのだろう。結婚をすれば解決だと。」

「いやいやいや、確かに言いましたけどね!?」


 そう、決戦前のゲーム三昧の時に話題に出したのは他ならぬ私自身だ。家を捨てることはできないと明言した彼に、捨てる必要などないのだと返したのは。

 だからって、いくら何でも動きが早すぎないか?


「性別を偽っていたことそのものに関しては多少なりとも難色を示した輩もいたがな。貴様自身が望んで行った扱いではないこと、家督を狙って犯行めいた真似をしているわけではないこと。呪いという第三者的な元凶が他にいたこと。何より貴様の兄、リュミエルが積極的にそれを補佐してたことからいくらでも言いくるめる道はあった。」

「まあそれだけ言い訳の抜け道があれば、ルイシアーノ様なら余裕でしょうね……。」


 唯我独尊傲慢男だが、能力面は対外含めて信頼が厚い。

 加えて言い訳にできるような材料は山ほどあるのだ。


「なんだ。貴様から言い出したくせに異論があるのか?」


 業腹だと言いたげに頬杖をつく男。

 いえ、確かに私から最初提案したことですけれど。


「鵜呑みにするの早すぎでは??というか私が寝ている間に何もかも勝手に始めて終わらせないでいただけません?」

「そうしろといったり勝手にするなといったりどちらなんだ。我儘な奴め。」

「俺様何様ルイス様に言われたくはありませんですね!?」


 違う。このままではルイスのペースに飲まれてしまう。

 意図して避けているのか?或いはそもそも私がそう言った理由を理解していないのか?

 訝しむ私の表情を見て、碧髪の少し下の眉間にシワが刻まれる。


「なんだ。貴様から言っておいて、嬉しくないのか。」

「順番が!おかしいんですよ!」


 起き抜けに爆弾発言を意図せずに聴いているこちらの身にもなってほしい。

 改めて居住まいを正し、寝台の上で彼と向き直った。


「ひとまず相談なしに勝手に進めてること自体に如何は今更問わないことにします。……実際この話の後で撤回を貴方がしようとしたらあらゆる手段を使って止めるでしょうし」

「怒った上でそれはこちらが怒られ損では?」


 形だけの結婚でも、それで彼を名としては縛れることは魅力的だ。形だけの婚姻は嫌だなんて言うつもりはない。


「だって、私が望んだのは答えですから。結婚を選んでくださったことはもちろん嬉しいです。でも、その前にルイシアーノ様。貴方は私のことをどう思っておいでで?」


 ……ただそれ以上に欲深いというだけだ。手に入れられるのならば名だけではなく、その心だって。

 だから、結論ではなく動機を求めた。私へ何の情もないとは思っていない。だから、それに名前をつけてほしいと。


 まっすぐ見つめてその意を問えば、ミツドリのはばたきほどの間を置いて小さく息が吐き出された。

 また煙に巻こうとしているのかと口を開きかければ、それよりも早く、彼の言葉が場を制する。


「愛している。」

「……──!」

「はぁ……。今更こうして認めるのは業腹なところもあるがな。それでも、嗚呼。貴様のその食らいつきには負けたさ」


 悔しそうな、けれども晴れやかにも見える表情を見て、私の中にじわじわと熱にも似た何かが降り積もっていく。


「俺の根幹から引きずり倒して変えておいて、今更呪いが解けたからと他に目を向けるような真似をされる訳を許す気はない。たとえ貴様がそのつもりがなかったとしてもだ。」

「ミラルドの時といい──もしかして嫉妬ですか?」

「悪いか。」

「気分は悪くありませんよ。……心臓には悪いですけれど。」


 そんなささやかな言葉ひとつで、寿命が一年は縮みそうだ。冗談まじりに呟けば嫌そうな顔をされた。


「例え関係性の名前が変わろうと、一つ別の感情が付け加えられようと、貴様が俺のものであることには変わらない。勝手にその存在を摩耗させることを、俺が佳しとすると思うなよ?」

「ああもう、本当に相変らずですね貴方って人は……!!」


 恥ずかしいような、愛を告げておいて暴君は変わらないのかと叫びたいような。盛大な溜息を吐き出せば、くつくつと笑いをかみ殺す音が聞こえる。


「何だ。愛を告げた後は恭しく傅くように、姫君のように扱うべきだったか?」

「いえ、そうされたら嬉しさよりも先に不気味さが来ると思うので結構です。」


 夢か発狂したか、もしくは吸精鬼(ヴァンプメア)による幻覚かと疑うところだ。


「はっ、貴様の打算とやらにまんまと陥ることに屈辱がないわけではないからな。これくらいの意趣返しは諦めろ。」

「愛の言葉を語るすぐ傍らで屈辱を感じるのは、貴方くらいのものでは?」

「どうとでも言え。……逆に言えば、それを飲み込んだとしても良いと思ったまでのことだ」


 寝台に置かれていた私の手を、彼らしくもない恭しい仕草で持ち上げた。

 まるで騎士が自らの姫君にするような仕草で、羽毛のような口付けが、指先へと落とされる。


「〜〜っ、な……っ!」

「なんだ?そんな顔を赤くして。いっておくが貴様があの日いきなり落とした爆弾はこんな易しいものではなかったぞ?」


 沸騰しそうになる私に、いつもの不遜さと少年らしい純粋な不敵さが混ざり合った笑みを浮かべるルイス。

 やられたという悔しさと、それ以上の歓喜と、それでも恋を抱きながらも尚対等でありたいという想いもあり。このままやられっぱなしでいてたまるかと、負けず嫌いの私が囁く。


「それはどうも。まさかルイスがそんな気障なことをしてくださるとは思わなかったもので。……でも、折角ならこれくらいしてくださっていいんですよ?」


 先ほど口付けを落とされた指で、彼の手を握りしめる。変わらずに在り続けたいという感情も、新たな形を得られた歓びも抱きながら。


 油断していた彼を力強く引き寄せて、その唇に食らいついた。

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