13-2話 知りたくなかった前提話
「ということで来ましたよちゃっちゃと知ってること全部吐き出してくれませんかこのチート兄貴。」
「あっははは!そろそろ来るかと思ったけど開幕から活きが良いね!」
兄に割り当てられた騎士団の執務室。
入るや否や私がやったことといえば、リュミエルが座っている席まで歩み寄ったかと思えば机に乗り上げて胸ぐらをつかむことだった。
発動や強化魔法もかくやの速度。傍らに控えていたメッドさんも反応できなかったのだろう、困惑しきった顔で私と兄を見比べている。
「リュミエル、おい。今度は何をしでかしたんだ。」
「え!? そんな俺に原因があると確信した言い方するなんて。」
「違うのか?」
「まあ違わないけど。」
「……リュミエルのい、弟。一撃なら殴って構わないぞ。この場で揉み消す。」
「いいんです? では遠慮なく。」
当然茶番だ。本気で殴るつもりはない。殴りたいけど。
兄もそれをわかってか、いつものように肩を震わせて爆笑するだけ。むしろやり取りに黙っていられなかったのはこちらの同行者の方だ。
「待て待て待て!オマエたちリュミエルに何をするつもりだ!?暴力を振るうなどと、ワタシの目の前でそれを許すわけがなかろう!」
「チッ、……何故学院のソルディア顧問がここに?」
「さすがにソルディアですべき対応の為の来訪とあらば、同行するといわれたら断れないもので……。そんなに心配されずとも、私が殴ったところで完全に防御した上で指をさして爆笑するのが兄ですよ。カーマイン先生。」
「そういう問題ではなかろう!?」
兄限定モンペ、間違えた。ストーカー、でもない。カーマイン先生の言葉に私とメッドさんは揃って肩を竦めた。
このままの流れを続けたら後に引くレベルで話題にされそうだ。さっさと本題に入ろう。
「今日来たのは他でもありません。先日魔の森で封印が解かれた吸精鬼、ドロディスについてです。兄さんは彼について、封印が解ける以前からその存在を認知していたと伺いましたが。」
「本当にまた何をしでかしたんだお前は!?」
私の言葉にメッドさんのアメジストの瞳も一層鋭くなる。色彩はミラルドと同じだというのに、こうしてみると全く異なるのが見て取れる。
私たち三人からの追及の目線を受けてなお、朗らかに私と同じ色彩をした男は微笑んだ。
「ああ、思ったより封印が解けるのが早かったね。まあ《ヴォルクス》の信徒や君たちの影響がなくとも後五年は保たなかっただろうから、その点はシグたちを責めないで上げてくださいね、先生。」
「元々責めるつもりはないが、いや。……キミは予めあの存在について知っていたようだが。他に一体何を、どこまで知っているんだ?」
「本当ですよ!というか、あの魔族が私に呪いをかけてたとか聞いたんですが、まさかそちらについても御存じで?」
「呪い?……まさかリュミエル。以前話していたあの認識の件。」
次第にヒートアップしそうになる詰問。それを制止したのもまた中心にいる人物だった。
パン!と小気味よい音を立てて叩かれた手に、一瞬私たちは揃って目を瞬かせる。
「はいはい、落ち着いて。心配しなくとも俺が現状吐き出せる情報は共有するつもりはあるからさ。でもその前に。このまま話して平気かい?もし必要なら二人を下がらせても俺は構わないけど。」
「はい?なぜ下がらせる必要が……。」
ここにいる二人──メッドさんとカーマイン先生を見る。
いずれも私からすれば、兄の件さえ除けば頼れる大人ではあるが。同時に彼らに話すことが躊躇われない内容だってありはする。ヤンデレ乙女ゲームとか転生とか性別認識変換魔法とか。
「……正直に言えば、開け広げなく話した場合正気を疑われそうで不安はあります。この緊急時に何を世迷いごとをと言われてもおかしくありませんし。」
「その点だけかい?それなら大丈夫大丈夫!二人とも俺との付き合いでその辺の耐性は十分だろうし!」
「反省と謝罪をしろ!!!」
殴るのは止めようと判断して三分も経たない段階で再び殴りたい気持ちになってきたぞ?
というかこの二人、一体どれだけ兄に迷惑を被っているんだろうか。一度家から正式に謝罪の菓子折りを贈るべきかもしれない。
大体。前世やら記憶やらがどうか変わってくるというのか。今回の、吸精鬼とやらと──。
背中にひやりとしたものが唐突によぎった。
これまで無意識に考えないようにしていたが、まさか。いや、そんな。
「……リュミエル兄。」
「うん?」
「これは私の予想なのですが……もしかしてあの滅茶苦茶、吸精鬼野郎、」
一度息を吸い込んだ。
他の選択肢は残されていないかと足掻きたい気持ちも出てくるが、前世の記憶とつぎはぎをすれば、おのずから選択肢は絞られてくる。
「……隠し攻略対象ですか?」
聞き馴染みのない言葉に大人二人が顔をしかめるのが気配で察される。だが説明はおろか、視線を向ける余裕もない。頼む、違うといってくれ。
しかし、現実は無常である。
「その通り!」
「ぐっ!!!!」
精神的に受けたダメージは先日の森での一戦以上。その場にへたり込んだ私に、慌てて二人が声をかけてくる。
大体なんで兄がそんな情報を知ってるんだ。ゲームをやったことはないんじゃなかったか!?
もうここまで来たら一から千まで吐き出せ!!聞きたくないけど!!




