12-1話 試験と補講
さて、セレモニカの儀が終われば次は何があるか?
残念ながら学生にとって逃れられない本分というものがある。そう、試験勉強だ。
「ソルディアは最低限の単位を取らないと進級や卒業はできませんからね。真面目に授業を聞いていればそこまで難しい内容ではありませんが……。」
さぼり魔や勉強が苦手な生徒がいればもちろん鬼門ではあるが、幸いにも今代のソルディアの面々は皆真面目な者たちばかり。
実技面ではカーマイン先生に教示されている内容の方が数段技術的には上だし、学力面でもさほど懸念点はなかった。
ただ一点。
「問題があるとすれば、ユーリカの昨年分の単位をどうやって補填するかですね。」
「す、すみません……。」
「いえいえ。ユーリカが悪いんじゃありませんよ。本当に!」
今年二学年として編入してきたユーリカは、本来は昨年履修するはずだった単位を丸ごと取得していない。
幾つか二学年の履修時間とは被らないタイミングで、一学年の授業があるものは履修しているようだが、それですべてをまかなうことは出来ない。
「ヴィジットの場合は特例だからな。ソルディア内の業務を単位として代替するか、別途個別に試験やレポートを提示してその提出をもって単位に変えることになる。」
「成程。そのソルディア内の業務というのは私たちも手伝ってよろしいのでしょうか。」
「無論だ。仮に単独での任務を必修の条件とされようと、最低でもワタシは彼女につくことになる。監督役としてな。」
カーマイン先生がついてくれるのなら安心だ。本来ヤンデレとしての恐ろしさを発揮した場合一番隣に置いておきたくない存在だが、現状の先生の関心は九割方兄に向いているので。
「なら良かったです。ちなみにそういった依頼はもう来ているのですか?」
「……そうだな。魔法生物学のエラルド教諭より承っている。」
そこで言葉を区切り、しばしためらうように視線を泳がせた。
先生がこうやって私たちに葛藤を見せる機会は多くない。どうしたことかとユーリカとそろって見上げれば、咳ばらいと共に説明をされる。
「依頼自体はさほど難解なものではない。魔の森にいる魔獣から血液サンプリングを五種採取することだ。できれば異種が望ましいが、難しい場合は同種の別個体でも構わないと。」
「魔の森……、あの学院のそばの森ですよね?勝手に立ち入らないようにとお話を聞いていますが、入っても大丈夫なんでしょうか?」
「一般生徒は特別な許可がなければいけませんが、私たちソルディアの面々は事前にカーマイン先生にお伝えするのと、二人以上での入森でしたら大丈夫ですよ。」
魔獣の討伐の精霊任務もあるくらいだ。無論入っていいエリアとダメなエリアについては上級生ないし顧問があらかじめ話をする必要はあるが、他の生徒に比べれば明らかに緩かった。
そもそもゲームでは学院で受けた魔物の討伐依頼を魔の森で果たすみたいなものもあった。その時に同行をソルディアのメンバーに依頼して、その結果好感度が上がったり……。
……。
「初めてとなるとまだ勝手も分からないでしょう。ユーリカがよろしければご一緒しましょうか?」
「えっ、いいんですか!?」
こちらの提案にあっけなく目を輝かせる少女に、少しばかり罪悪感が芽生える。
無論この心優しき少女の助になりたい気持ちもあるが、それと同じくらいに、こう。ルイシアーノを誘って好感度が上がるのも嫌だという極めて個人的な私事情があったもので。
もしかしたら考えすぎなのか?と思いつつもあの日の彼女の輝かんばかりの瞳が忘れられないもので、少しばかり浮かべる笑みが曖昧なものになってしまった。
「ええ、勿論です。私もおおよその魔獣対策は覚えていますし、心配でしたら後はハイネ先輩でも誘っていきましょうか。」
◆ ◇ ◆
さて、ルーンティナで古くからあることわざの一つに、”いかなる魔法も、最後は因果の前に沈む”というものがある。
現代風にいえばそうは問屋が卸さないとか、月に叢雲花に風というべきか。
物事はそう簡単にうまいこと運ばないという意味だが、今のこの状態はまさしくというべきだろう。
魔の森の前で準備をする面々。ユーリカの依頼一つに対し、ソルディアメンバー五人勢揃いの大判振舞いだ。
流れとしては単純なもので、ハイネ先輩にユーリカが声をかけて快諾されたところをミラルドが見て、ボクも行きたいですと主張。
これに二人が快諾をした後、ユーリカが「ここまで来たらルイシアーノさんもお誘いしませんか?」と言い出した。
私とハイネ先輩は複雑な反応をしてしまった自覚はあるが、ミラルドがそれを意にも介さずそのままルイスへと提案。
「全く。魔の森とはピクニックに行くような場所ではなかろうに。」
「否定はしませんが、そうおっしゃるのなら無理についてこられる必要はありませんよ?」
「あのミラルドの別の用事がない限りは逃がさんという天然のらくらに勝てるやつがいると思うか?」
「なんですかのらくらって。」
真っ先に予定を聞いて特にないがとルイシアーノが言ったのをいいことに、ミラルドがいつもの笑顔でルイルイも行きましょうよを連発したわけだ。
「えへへ、だって折角の森ですよ!いろんな動物さんも出るかもしれませんし、いっぱいの人で行けば発見も多そうじゃないですかぁ。」
「はぁ、俺も暇ではないのだがな。」
「……本当にお嫌でしたら、うまいこと周りには言っておきますよ。」
盛大な溜息を吐き出すルイスにだけ聞こえるよう、声を潜めて伝える。
先日のハイネ先輩に問題を起こした彼らの事後処理で、放課後の時間帯の多くを割いているという話をフレディから聞いていたもので。
大勢で行く時点で好感度も何もあったものじゃないだろうからそこはもはや気にしていない。どちらかというと彼の体調の方が心配だった。
が、その心配もその後返ってきた表情に引っ込む。
「いやなんですかその嫌そうな顔。」
「一体何を企んでいるんだと思っただけだ。貴様が俺の心配をするなど、明日は雷雨か?」
「しっつれいですね!?!?」
従者としても仲間としても心配をするのはおかしな話でもないだろうに、この言いざまだ。
それだけ嫌味を言えるのなら大丈夫そうですねと言い捨てて、出発しようとしている前の面々の元へ向かう。
何でこんな面倒な男を好きになってしまったのやら。内心で大きく肩をすくめた。




