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8月2日

『お嬢様……?お嬢様!?気を確かに!!』

『あ……あぁぁ……ああああああ!!!』

『なんなんだこれは……お嬢様の体から出てきた光の球が散らばっていく』

『執事!これに乗れ!早く、あの魔女の元へ!!』

『魔女だと?そんな怪しい人の力なんて借りることなんて出来るわけがないだろう!』

『だが、彼女……"刻界の魔女"ならお嬢様を救う方法を持っている!』

『"刻界の魔女"……待っててくださいお嬢様。必ず私が、貴女を元に戻します!そしてその時に改めて言わせてください。"愛しいメリー"と……』


「マジすか……」

テレビの画面を食いるように見つめ続けながら、ポロッと言葉を溢す。

夜も更けきった深夜1時26分、私は好きな漫画が原作のアニメーション作品を視聴していた。

"イカロス〜REVERect chronicle〜"、異世界に住む一国のお姫様と執事には互いに恋心を持った両思いの2人だが、ある日を境に彼女の心は場所、時間、時空を超えて飛び散っていく。

空っぽになってしまった彼女の心を元に戻すため、執事はお姫様の付き人によって、"刻界の魔女"が住む『現代』へと次元を渡る。

だが、彼女が提示したお姫様を救う方法は彼の心を抉り続ける茨の道であった……というのが、大まかなあらすじである。


アニメは普段見ることはないのだが、ここまでのめり込んだ漫画作品はこれまでなかった為、期待をしていたのだが完全に予想を裏切られた。安定した作画、完璧な脚本、耳へ自然と入るBGMやキャラクターの声。たった一話で私の心を完全に鷲掴みされたのだ。

それを踏まえて私の口から出た言葉は、

「すご……かったぁーー!!」

十文字にも満たない言葉だが、そこには重厚で膨大な情報が詰まっていた。

横長ソファに寝転びながら身悶える。

その時お供にしようと思っていたお茶と肴(スナック菓子)は全く減っていなかった。

私は浮ついた気分で袋に入っている肴をつまみ出す。そしてそれを口に運ぼうとした時、お菓子を摘んだ手を掴まれた瞬間、指先がじんわりと温かくなった。

「全く、寝てないと思ったらテレビ見てたのか。こんな時間にスナックなんて食べてたら肥えるよ、貴音」

「びっっ………くりするじゃないの。お帰り冬次くん。今日もお疲れ様。

人身事故で電車が遅延するなんてついてないね。折角だしご飯作ろうか?」

「いや、帰るついでにお惣菜を買ってきたから大丈夫だよ。流石にこの時間に作ってもらうのは申し訳ないから」

そう言いながら彼はソファ後ろにある椅子に座り、袋からパック詰めされた食べ物を取り出していく。

「でもお惣菜少なくない?しょうがないわね、一品作ってあげちゃう!」

「いや、本当に大丈夫だって」

「だーめ。一日中頑張ってこれだけしか食べないなんて、いつか熱中症になっちゃうよ!今あるお惣菜でも食べながら待ってて」

テレビのチャンネルをニュースに変えた後、髪を後ろに纏めてエプロンをつけながらキッチンへ向かう。

彼が買ってきたものは海藻が入ったサラダと鴨肉のソテー。

冷蔵庫の中はあまり充実してはいなかったが、ゴーヤと卵、そして絹ごし豆腐が入っていた。

よし、ならアレにしようかな。

フライパンに油を引いて、ある程度熱が出てきた辺りで半月切りにしたゴーヤを炒めていく。そしてゴーヤが柔らかくなった辺りで卵と豆腐を入れて、スクランブルエッグのようにかき混ぜていく。豆腐は多少崩してしまっても構わずに、卵がいい感じになったところで火を止めて、お皿に盛り付けていく。

「出来たよ〜、ゴーヤチャンプルー!」

盛り付けたゴーヤチャンプルーを冬次くんの座る席に差し出す。

彼はありがとうと言いながら、出来立てのそれを口に運ぶ。はふはふと言いながら時間を掛けて喉元をと通らせる。

「美味し〜い……やっぱりレンチンより出来立ての温かさが一番だよ」

「ふふ、良かった」

やった!褒めてもらえた!

「でも良いのかな、こんなに幸せで。僕、近々死んだりしないかな」

彼は笑いながらそう言った。

私は暖かかった肝が少しだけ冷えた気がした。

だがそんな素振りは一切見せず、彼の額に軽くデコピンをする。

「そんなこと言わないの。君が私を置いて逝っちゃうなんて、許さないんだから」

「大丈夫だよ、言ってみただけ。

貴音は僕が守るよ。あんな君の顔はもう見たくないから。うんと幸せにしてあげる」


そんなことを話しながら、テレビを観ながら時間を潰す。


「ねぇ冬次くん、明日と明後日休みなんでしょ?よかったらどこかに行かない?」

「そうだねぇ……。じゃあプールにでも行ってみる?」

「プール!行こ行こー!学校の宿題も終わったし、もう自由だー!」

「本当に!?早いなぁ」

「ふふん、あの程度の量はなんて事ないわ」

私は彼の腕を持つ。

「さ、一緒にお風呂入って色々考えよ!今日は冬至くんと一緒に入りたかったから待ってたんだよ」

「待って待って待って!まだ作ってくれたご飯が食べ切れてないから」

ああ……幸せだ……。

恋というものがここまで心を動かす魔物だなんて思っていなかった。

だから……、

"────に───よ────売女────"

こんな思い出なんて、さっさと消えてくれれば良いのに。


テレビのニュースは、冬次くんが被害に遭っていた電車遅延についてのトピックだった。

次話、8月4日

明日は多忙のため、お休みいたします。

申し訳ないですが、二人は今、各々自由に動いております。

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