09 5歳児の弟子
「モラフ様〜!また…お会いしましょう。」
馬車から手を振るコマ。カミラ夫人が気を失い一時は、どうなるかと思ったが…何とか回復してくれた。
馬車が遠ざかるのを、見守る公爵家の面々。本当に濃い食事会だった。
「どうだモラフ!仲良く出来そうか?」
仲良くなれるのだろうか?お見合い中は良い感じだったが、食事会があれでは希望は薄いかもしれないな…。
「どうですかね?インパクトは残せましたが……」
其れから…1週間程が過ぎた。
特に真新しい事は無いのだが、使用人のココとレミアが
良くドレアと話しているのを見かける。
(よう分からんが、仲良くしとるのじゃ!)
仲良く見えるが、恐らく使用人の2人はドレアに毎日、
秘密をバラされるのではないかと、内心ビクビクしているのだろう。
「若旦那!今日も稽古ですか?」
素振りをするモラフに、槍を持つ中年男性が2人近づいてくる。……駄目な門番達だ。
「もし、良ければ相手しますぜ!」
駄目な門番の1人(…名はゴンタだったかな?)が、槍を振り回しながらアピールしている。
(ふむ…5歳児でも対人戦の感覚は養わなければな…いざって時に動けんからな。)
「お願いするよ!ゴンタさん。」
ゴンタはモラフの反応に嬉しそうに近づいて槍を構える。(う〜ん…隙だらけじゃぞ!ダンドール様や警備事情を、疎かにしてはなりませんぞ!)
「若旦那!剣と槍では間合いが違うんだぜ!」
……………!
「母ちゃん!!!」
木陰で寝て居たゴンタが勢いよく、飛び起きる!
「いてて!」と額を押さえながら辺りを見回すと相方のマサエモンが、若旦那と一緒に門で何か話しているが…
ゴンタは自身に何が起こったのか…覚えていない様だ。
「若旦那は、まだ5歳なのに本当に立派だなぁ!あのゴンタが一撃で伸びちまうなんて、オラびっくりした。」
ゴンタ本人は、自分が5歳児に負けたのが信じられない様だ。
ゴンタはベルモンド公爵家の領内にある小さな村の出身だ。都会に出て一旗揚げようと、意気揚々とこの街に来たらしいが…自身が思っていたよりも都会の風は冷たかったそうだ。しかし偶々、街に居たダンドール様が、良い体格をしているなと屋敷の警備に誘ったそうだが、何故、旦那様が1人で街に居たのかは不明だ。
「若旦那!さっきは油断しただけでい。次は…」
…………!
「母ちゃん!!!」
勢いよく飛び起きるゴンタ。背後からの奇襲は見事に見破られ、また伸びてしまった様だ。
「ゴンタさんは…警備に向いてないですよ!」
5歳児の、その言葉はゴンタのプライドを圧し折ってしまうには、十分な威力があった。
俺は、ここが駄目だと…故郷の皆に合わせる顔が無い!
ゴンタはプライドを捨てた。5歳児に必死に土下座をするゴンタ。親と子程の年齢差は有るだろう。
「お師匠様!この駄目なゴンタに剣を……剣術を教えて下され!ゴンタの一生のお願いです!」
土下座から伸ばされた腕の先に……娼館の割引券がヒラヒラと風で揺らめいている。
(ふむ…強くなるのに年齢は関係ないのじゃ!)
「ゴンタ君!割引券の期限は?」
「1年!」
(1年か…結構長いのじゃ…。この身体が何処まで成長するか分からんが…目的は有った方が良いだろう。)
「ゴンタ君!僕は君を弟子にする!」
割引券を受け取り、服の中ヘ忍ばせるモラフ。もしかしたら、モラフは6歳で娼館に単独突入する気かもしれない。
そして…この駄目な門番ゴンタは、これから先に起こる…悲しい戦争の中で…。
ベルモンド公爵家に、この人あり!
「狂い咲きのマッドピエロ・ゴンタ」
と呼ばれるのだが…
今はまだ、誰も知るよしはない。