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05 姉弟の絆

「ヒィっ!」


5歳児の後ろに張り付く、お転婆な姉上…。


(そんなに、怯えるなら…始めから、こんな場所に来なければ良いのじゃ…)


「姉上!姉上の魔法が無ければ先が見えません!」


急に大声で話すモラフに怯える姉上…。


「私の魔法…今休憩中!!」


これは…駄目だな。恐怖が、お嬢様の心を支配してしまった。


(さて…どうしたもんか?)


5歳児のモラフは15歳の姉上の恐怖心を、どうしたら

消せるのか考える。


(そうじゃ!)


モラフは芋虫とバッタの話しを始めた。0歳児の懐かしい思い出だと、笑いながら話しをして行くのだが、ドレアは、話が進むに連れて難しい表情に変わって行く。


「あのバッタの子孫が、中庭に居るかも知れませんよ!一緒に探しましょうよ姉上。」


恐らく、ドレアの恐怖心は無くなったのだろう。小刻みな震えが止まっている。そして屋敷から拝借してきた細身の剣を抜き、剣先を実の弟に向けた。


「何で…何で!産まれた時の記憶が残っているのよ!普通なら憶えていないものよ!」


(しまったなのじゃ!)


0歳児の時の記憶など、殆どの者は覚えて居ないだろう。しかも鮮明に憶えているなど、まずありえない。


ドレアは距離を詰めながら、剣先を近づけてくる。


「悪魔だな!そうだ。お前は悪魔だな!私の弟に何をした。返せ…私の弟を返せ!!」


薄暗い洞窟内で、鋭い突きの連撃がモラフに襲いかかる。騎士学園に進学を決めた理由が分かる。既に父上のダンドールを超えた剣術だ。


「姉上!本物ですよ!僕は本物のモラフです!」


「嘘をつくな悪魔め!返せ!返せ!私の弟を返して!」


鋭い突きの速度が更に増す…これ程の連撃を繰り出せる剣士が、公爵家の領内に居るとは思えない。


(止む終えないのじゃ!)


入口で渡された短めの剣を抜き、連撃を捌こうとするモラフに悲劇が襲う。


(何故…刃が無いのじゃ?)


勢い良く抜き出すモラフの剣には、刃が無かった。


「何ですかコレは!」


「何ですか…じゃない!何処に5歳児に刃を持たせる姉が居るのよ!格好だけよ!冒険者気分って事よ!」


その後も、「返せ!返せ!」と涙ながらに鋭い突きを繰り出すドレア。弟的には嬉しい限りなのじゃが…。


(儂は本物のモラフじゃ!)


反撃の術が無い。元々、ドレアを攻撃するつもりはないが、剣が邪魔だ。ジリジリと後退して行くモラフの背後に冷たい感触が服越しに伝わってくる。ドレアもモラフの背後に居る異様な者に気が付いた様で、剣を持つ手が止まっている。


振り返るモラフは固まってしまう。自身の倍以上の大きさの骸骨がモラフを抱きかかえ様としていた。


「ケッケッケッ!久しぶりの餌だ…。」


「ウギャー!!!!」


姉弟は、走った!全力で走った。洞窟を抜けて走った!

少し明るくなった空を気にしないで走った。毎日、鍛えた脚力を存分に発揮し走った。途中で足が縺れて、転びそうになった姉の手を握り走った。これ程、走れる5歳児は居ないだろう。互いに手を握り、助け合い。屋敷を目指した!


「居ましたぞ!クレア様。」


駄目な門番が、屋敷に向かって走って来る姉弟を発見した。クレアはダンドールに抱えられる様に門の前で、我が子の姿を見て、涙を流している。


「ハァハァ…姉上…大丈夫ですか?」


「だ…大丈夫…モラフごめんね!」


(謝れる人になられましたか!お嬢様。)


門の前で地べたに座り込む姉弟は、少し仲良くなった様に見えた。


「あなた達!何処に行っていたの!どれだけ……心配したと思っているの!」


涙ぐむクレアに姉弟は、深い罪悪感を感じてしまう。

ダンドールは何も言わないが‥…怒っているのだろう。

姉弟は互いの目を見て頷く。


(そうじゃ…正直が1番じゃ!)


「パパ…ママ!ごめんなさい。モラフが私の部屋に来て…僕を娼館に連れて行けって…私の首をしめたから…私、怖くて外から見るだけって言ったのだけれど、モラフが興奮して…中に入ろうと我儘になって…それで遅くなってね…ごめんなさい。」


「5歳児が娼館?」


無口だったダンドールが、大きな口を開けて固まった。


逆に、今度は母クレアが冷静だった。

「分かるわよ…ドレアの気持ち。モラフは私の胸の吸い方が……そっち寄りでしたから。」


「そっち寄り?」


固まったダンドールが、クレアの大きな胸に首を曲げて、直視しながら再度固まった。


「その歳で…娼館通いった〜、やるでねぇか若旦那!」


(黙れ!バカ門番…そもそも、お前らの仕事が雑だから儂が窮地なのじゃぞ!)


「ね!モラフは娼館好きだものね!」


「好きだよ!姉上。」


姉上を守る為に自身を犠牲にする5歳児…


その日から、モラフの部屋の扉には、それはそれは豪華で重厚な鍵が取り付けられた。


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