03 0歳児の努力
「ばぶぅ〜!」
(フフフ!お嬢様や…儂を舐めるでない!)
転生して3か月程の月日が流れた。この日、モラフは初めて、お転婆令嬢からのイタズラを自力回避したのだ。
「あ!」
芋虫を鼻穴に詰めようとした瞬間、赤ん坊のモラフの首がクイッと右側を向いた。左頬に乗ってしまった芋虫は
暗闇に押し込まれそうになった恐怖を免れた事を、喜んでいた様だ。
しかし…初めてイタズラを回避されたドレアは、悔しそうにモラフの顔を見ている。
その悔しそうな表情を、横目で見たモラフは「キャッ」
と少し高い声が出た。
(その顔は…悔しいのじゃろうな……悔しいのだろ!)
ドレアは、左頬の芋虫を取り上げ、窓から力いっぱい投げ捨てた。
(すまんのう…名も知らぬ芋虫よ!儂も先に進まねばならんのじゃ!)
部屋を悔しそうに、飛び出したドレアが数分後に、また
戻って来た。
(そのイタズラパターンは、もう知っておりますぞ。お嬢様!)
バッタを半開きの手の平に、捩じ込もうとするドレア。
しかしモラフは小さな拳を握り、胸の方へ腕を動かした。
「ばぶぅ〜!」
(どうじゃ!儂は感じるのじゃ、筋肉が神経と繋がる…この連動感を!儂は成長しておるのじゃ!)
握り潰されるのを回避したバッタはモラフの腹の上に居た。バッタと目が合うモラフ。
(バッタ殿…行くのじゃ!もう捕まってはならぬぞ!そなたの脚力なら…この広い世界も、なんのそのじゃ!)
バッタは、「がんばる!」そう言う感じで、めいいっぱい飛び跳ねた!
「痛い!」
バッタの全力ジャンプが、覗き込んでいたドレアの額に直撃する。額を押さえながら、バッタを捕まえたドレアは、芋虫と同様に窓から全力で投げ捨てた…。
(バッタ殿……どうかご無事で!)
「今日のモラフは嫌い!」
「おぎゃー!!」
(暴力は、いかんのですじゃ!お嬢様や、理不尽な暴力は敵しか生まれませんぞ!)
モラフの、モチモチの頬を指で摘み…上下にグリグリするドレア。痛がるモラフを見て、笑顔が溢れる。
「こら!ドレア。公爵家の娘が頬を痛めつけてはいけません!痛がる者を守るのが公爵家の努めですよ!」
クレアがナイスタイミングで、暴力を止めてくれた。
「ドレア…明日から、学校が始まりますよ!準備は大丈夫なのかしら?…爺やはもう手伝ってくれないのよ!」
「弱虫爺やが居なくても大丈夫だもん!」
そうか…儂は居ないのじゃな。長い夏休みが終わり貴族学校が明日から始まる。お嬢様も明日からは忙しくなるのじゃろ。公爵家の娘だ。他の人達から見られてしまうのが、幼子には窮屈で堪らんじゃろうな。
しかし、公爵家に産まれたからには、全てを熟さならければ認められん事もある…頑張るのじゃ、お嬢様!
クレアに抱かれたモラフは、お嬢様を心配するのだが…その公爵家の長男だと本人は自覚しているのかは不明である。
「くぁ〜!」
唐突にアクビをしてしまうモラフ。
(失礼したのじゃ!)
クレアは、お昼寝の時間ねと一緒にベッドに横になってくれた。
お腹を擦ってくれるクレアの手は、それは気持ちの良いものであった。
(すまんのじゃ、クレア様。儂はようやく…首がすわる事が出来たばかりじゃ…必ず、お嬢様を1人前の令嬢にして見せますのじゃ!)
ベッドの中で、クレアに誓いを立てるモラフは必死に身体を動かした。
「あら!」
努力が実った。初めて寝返りが出来た!
(クレア様!やりましたぞ。一歩前進しましたぞ!)
寝返りをうつモラフは「キャッキャッ」とベッドの中で手足を動かしている。
「あん…この子ったら…私のオッパイばかり触るんだから!お腹空いたのかしら?はい…どうぞ。」
柔らかな物を近づけられたモラフは、寝そべるクレアのそれに喰らいつく。
(ダンドール様、すまんのじゃ。生きる為に必要な行為なのじゃ!)