11 キレる夫人とマグロ
「うわ〜〜~ん!」
地べたに倒れ込み泣き叫ぶ、魚屋の次男カツオン。
身体に似合わない、大きな木剣を振りかざしてモラフ目掛けて突進して来たのだが…遅い。難なく躱し、カツオンの脛をチョンと小突いたら倒れてしまった。
呆気ない。
「勝者、熟女大好きボーイ!!」
自分より大きな少年を、呆気なく倒したモラフに観客から拍手が起こるのだが…その中から変な声が聞こえてくる。
「熟女良いぞ!」「熟した戦いありがとう!」
この声は…ゴンタとマサエモンだ。
ゴンタの声援に煽られた観客達から熟女コールが起こり出した。沢山の熟女コール…客の熟女さん達は、どんな気持ちで、この歓声を聞いているのだろうか?
「見たかクレアよ!あの熟女は、なかなか良い動きをするではないか!将来が楽しみな熟女だぞ!」
自身の領地に未来があると、手を広げ嬉しそうに語るダンドールに冷めた表情をするクレア。
(どうしたクレアよ。そんな冷めた表情をして…)
ダンドールとクレアは結婚して16年が経つ…
表情だけで、妻の気持ちなど分かってしまうものだ。
「熟女発言か?気にするなクレアよ!お前の熟女関連は順調そのものよ。我は幸せだぞ。年々熟す、そなたの身体を1番近くで見れるのだ!その狸の目の様な垂れ具合は我を熱くさせる。今夜の酒のツマミは、お前の狸にしようぞ!ハッハッハ。」
最後までダンドールの話しを聞いたクレアは立ち上がり
赤い花柄の刺繍が入った白いドレスの乱れを直す。
「あ!クレア様。」
レミアが持っていた日傘を手に取り、瞬時に畳み込むクレア。
「ドスン!」
近くに居た誰一人…反応出来なかった。
衝撃音に気が付いた時には、体格の良い男性が宙を舞っている。ダンドールだ!
浮かんだダンドールの腹部に無数の日傘の突きが襲いかかる。為す術もないダンドールは苦悶の表情をしながら
地面に叩き付けられた。
その後も、傘突きがダンドールの腹部に襲いかかる。
哀れな公爵の姿を目撃した民達は、助けたいのだが……
駄目だ!隣りの鬼姫の殺気が凄すぎる。
もう…大会は辞めないか?優勝はクレア様で良いではないか!
民達は公爵を見捨てるしかなかった。
「垂れてね〜よ!私の胸を狸で例えんじゃね〜よ!!」
執拗なまでにグリグリ突くクレア。
触らぬ神に祟りなし!
「聞いてんのか?あ!馬鹿公爵が!」
来賓席にダンドールの姿が無いまま剣術大会が進んで行く。
(パパって本当に学習しないんだから!ママの鬼スイッチ…まだ分からないの?)
地べたで気を失うダンドールに呆れた表情で視線を向けるドレア。
(まあ…私は3歳位で気がついたけどね!)
「ワーーーーー!!」
2回戦も勝ち上がり、準決勝まで駒を進めたモラフ。
「さあ準決勝第一試合!無傷で勝ち上がった熟女大好きボーイと弟の仇は兄が取る!魚屋の長男マグロンの対戦です!」
(ふむ、あの者の兄殿か!)
無言で大剣を構えるマグロン。顔も無表情だ。
(無心か?読み辛いのじゃ!)
掛け声も無く、大剣を振りかざしモラフ目掛け突撃してくる。
(速い!……だが、まだまだじゃ!)
マグロンの振り下ろしを難なく躱し、木剣の柄で腹部に突きを入れる!
無表情で脇腹を押さえる。声もださずにモラフを見ているのだが、次第に小刻みに震えだしてその場に倒れてしまった。
審判が確認するのだが脈はあるが、目を見開くその顔は無表情、問にも無言。この少年は…マグロ男だった。
熟女コールが起こるなかで、マグロンは何も言わずにモラフを見つめていた。
意識はあるのだろうか?
同じくダンドール公爵も何も言わずに、地ベタに這いつくばっている。
意識はあるのだろうか?