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01 お転婆令嬢に弟が出来た日

「爺やの…弱虫!弱虫爺や!」


ベッドに横たわる老人に、綺羅びやかドレスを着た少女が老人の腕を両手で必死に引っ張っている。


「止めなさい!ドレア。爺やはね…疲れたのよ。」


「そうだぞ…ドレア!爺やを休ませてあげなさい!」


2人の大人は、横たわる老人から少女を引き離す。


薄く目を開く老人。口が上手く開かない。誰が見ても、直ぐそこまで…迎えが来ているのが分かるだろう。


(声も出んか……。クレア様にダンドール様が…わざわざ来てくれたのに……横の…ままでは執事失格じゃ…。)


この老人は長年、このベルモンド公爵家に仕えた。執事として家事から執務全般を仕切ってきた。戦争も体験した、半世紀以上、ベルモンド公爵家の歴史を見てきた。


(クレア様…もう少しで…出産が控えておるのに…儂が迷惑をかけて…すみませんのじゃ…。)


大きな、お腹を擦りながから悲しい表情のクレアの肩を掴み寄り添うダンドール。


「爺や!剣術稽古は非常に楽しかったぞ!私の負けは認めんがな!」


ダンドールは横たわる老人を見ながら涙を浮かべ笑っている。


(ダンドール様……これだけは…言わせて下され。アンタは剣術の……才能が当家歴代最弱じゃ……どうか…争い事に巻き込まれんように………。)


「爺やは弱虫!アタシの剣でボッコボコだ!」


クレアに掴まれながらも、横たわる老人を叩こうとするドレア。


(本当に……お転婆な…お嬢様じゃ…確かに、剣の…腕は眼を見張る才能がありますな……ダンドール様とは真逆ですじゃ…しかし…今は…平和な世じゃ…お転婆は辞めてクレア様の様に…美しき女性になりなされ!)


全身の力が抜けて行く老人。もう意識も無さそうにみえる。


(お嬢様……美しく…なりな……され……)


その日、ベルモンド公爵家に長らく仕えた執務は、天寿を全うした。


モラフ・ニコライ 享年89歳・死因は、お嬢様の落し穴にハマり頸椎損傷からの寝たきりでの老衰死。


春の嵐が吹き荒れる中で、モラフは息を引き取る。

大声で泣き叫ぶドレアの声をかき消す様に、屋敷内の大きな窓達に激しい雨が襲いかかっていた。


其れから1か月と少しの月日が流れた。


「おぎゃー!!」


「旦那様!おめでとう御座います。元気な男の子ですわ!」


知らせを聞いたダンドールは、急いで妻クレアが居る部屋に入る。


「大丈夫かクレア!」


ベッドの上で赤子と寄り添いながらダンドールを見るクレア。


「貴方…そんなに大きな声を出したら赤ちゃんが、びっくりするでしょ!」


そんなにデカい声だったかと妻と赤子に謝るダンドールの後ろから更にデカい声が響く!


「え?男の子!!やったぁ~弟が出来た!」


泥だらけの姿で登場したのは長女のドレアだった。


(相変わらず…お転婆じゃ!)


ん?…………はて?今の声は儂じゃよな?


モラフは目を開き周囲を見ようとするが、上手く動く事が出来ない。


(儂は死んだはずじゃが……この天井は間違いなく長年仕えたベルモンド公爵家の模様じゃ………いや、儂は死んだのじゃ。間違いない!)


使用人の静止を振り切り、泥だらけのドレアが近づいて来る。


「やい!弟よ。泥団子食うか?」


赤子の朧気な視界に、只々汚い泥団子が入ってくる。


(何じゃ…ドレアお嬢様の声に、この汚い土の固まりは?)


「こら!ドレア。赤ちゃんに泥団子は、まだ早いの!」


(この声はクレア様じゃ…それに優しい叱り方をするのもクレア様じゃ!)


クレアはびっしりしている赤子を自身の胸に抱き寄せる。


(何じゃ…この気持ち良さは…埋もれそうになるわい!)


クレアは、ゆっくり赤子を抱きかかえて起き上がる。


赤子の目線が部屋中を見渡せる角度になる。


(儂は死んだはずじゃが…ダンドール様にドレア様…ん?後ろの2人は儂が採用した使用人のココとレミアではないか!もしかしたら儂が死んだ後に…いや芽は潰したのじゃ革命何か起こる訳が無い!)


「皆に、挨拶できたかな?」


耳元からクレア様の声が聞こえてくる。


(間違いない…儂を抱えてくれたのはクレア様じゃ!)


「自分が解るかしら?」


クレアはベッドから起き上がる。すぐさま使用人の2人がクレアに手を貸す。


「ありがとう。」


「さあ貴方が私の息子よ!」


姿見鏡の前に現れた人物に驚く赤子。


(あの赤子は…………………儂じゃ!)


「おぎゃーーーーーー!!」


これは…可怪しいぞと精いっぱい周りに叫び知らせるのだが、残念ながら周囲には「おぎゃー!!」としか伝わらなかった。


「あらあら…自分の姿を見て泣くなんて……」


長年仕えた執事のモラフ・ニコライは……。


何故か、ベルモンド公爵家のダンドール・ベルモンドの長男として生まれ変わっていた。

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