キラキラ
みなさん、はじめまして。
私はキラキラした女性の目が好きでしてね。
女性って、好きなものを見ると、本当に嬉しそうに目を輝かせるでしょう?
だから、私はついつい彼女たちにいろいろ買ってあげてしまうのですよ。
ナンパされた。
びっくりした。
高校を卒業して、この春から大学生になって。
たしかにオシャレには力を入れたし、自分でもあか抜けたなって思ったりもしたけど、まさか自分がナンパされるなんて。
しかも、めっちゃイケメン!
いや、いけないいけない。
イケメンだからって、良い人とは限らない。
むしろ、じゃないパターンが定番なんだから。
これでほいほいついてってら、男の人がいっぱいいて、とか、もしくは、変な壺を売ってきて、とか、そんな感じになる!
うん!きっとそう!
昔っから、お母さんにも危なっかしいって言われてたし、小さい頃に、チョコにつられて知らないおじさんについていきそうになって、両親にめちゃくちゃ叱られたらしいし。
ま、あんま覚えてないんだけど。
なんて言ったら、そういうとこだよ!って、また叱られそうだな。
「あの……?」
あ、やば。
急にお茶に誘われて、びっくりして固まったままだった。
いや、ここは無視だ。
ちょっとでも返事したら終わりだと思え!
「ホントにすみません。
突然、声をかけてしまって」
ムシムシ!
「いかがでしょうか?
あちらのホテルのレストランのディナーをごちそうしますので、少しだけ、お話しませんか?」
え!?
あそこって、めちゃくちゃ高いとこじゃん!
興味ある~!
いや、ダメだ!
無視しなきゃ!
「……ダメ、ですよね。
そうですよね」
お?諦めるかな?
「ホントにすみません。
あなたが、亡くなった妻にあまりにも似ていたもので」
「えっ!?」
あ、返事しちゃった。
「わ~!
すごい夜景!!」
結局、ついて来ちゃった。
「ふふ。
キラキラしてて綺麗でしょう?」
「はいっ!
とっても素敵です!」
「あ、料理が来ましたよ。
いただきましょう」
「すごーい!!」
出てきた料理は本当にすごかった。
もう、すごいしか言えない自分が憎いと思えるほどすごかった。
「お口に合いますか?」
「はいっ!
こんなに美味しいもの、初めて食べましたっ!」
「ふふふ。
大げさだなぁ」
「ホントですよ!」
なんだか、ちょっと楽しいかも?
本当にレストランに連れてきてくれたし、物腰も柔らかくて、良い人そうだし、何よりイケメン!
それに、亡くなった奥様に似てる、とか言われたら、気になっちゃうよね。
さっきから、すごいにこにこしながら見てくるし。
「あ、あの、私の顔に、何かついてますか?」
さすがに気になっちゃって、照れ隠しに、そんなことを聞いてみた。
「いえいえ、ホントにキラキラした目で夜景とか料理とかを見られてて、とても素敵だなと思いまして」
ハズっ!
聞かなきゃ良かった。
やば。
きっと真っ赤だ、私。
「ふふ。
照れてるあなたも素敵ですよ」
ちょっと!
そのイケメンスマイルやめてよ!
追い打ちにしかならないから!
「私はキラキラしたものを見るのが好きでしてね。
亡くなった妻も、よくこのレストランに目を輝かせてました」
「あ、そうなん、ですか」
「……あなたを見た時はびっくりしました。
出会った頃の妻が現れたようで。
彼女も、あなたのようにキラキラした目をしていたんですよ」
「い、いや、私はそんな……」
そんなこと、言われたことないし。
「分からない者には分からないんですよ。
分かる者だけ分かればいい。
そして、私にはあなたの魅力的なキラキラした目が分かる」
「そ、そんな」
いや、マジで照れる。
「まあ、分かるのが私だけなら、もっと嬉しいんですがね」
えっ、と、どういう、こと?
「良かったら、またこうして、私と食事をしていただけませんか?
妻の幻影を追ってあなたを見つけたのは確かですが、今は、あなたのそのキラキラした瞳に夢中なのです」
きゃー!
「ちょ、ちょっと御手洗い行ってきます!」
「ええ、どうぞ。
……ごゆっくり」
「ふふ。
よく効く睡眠薬ですね」
「うう~ん」
「おや、気が付かれましたか?」
「えっ!?」
うそっ!
わたし寝てたの!?
「ここは?」
「レストランのホテルの部屋です。
この建物は中層階を販売してましてね。
私はここに住んでるんです。
この階は私のフロアなので、ご心配なく」
「か、階って」
このフロア全部この人のものってこと?
どんだけお金持ちなの!?
え、ていうか、私この人の部屋のベッドで寝てたの!?
あ、でも、服はそのままだし、何かされたわけでも、なさそう。
「あ、別に何もしてないですから、安心してください。
靴だけはさすがに脱がせてもらいましたけどね」
「あ、はあ」
扉の方を見ると、私の履いてたパンプスが揃えて置いてあった。
「すみません。
汗をかいてしまったので、シャワーを浴びてきますね。
あなたはもう少し休んでいてください。
出たら車で送りますので」
「あ、はい。
ありがとうございます」
な、なんか、めちゃくちゃ良い人じゃない!?
「あ、他の部屋は散らかってるので見ないでくださいね~」
「あ、は~い」
そんな照れ笑いも可愛い!
やば。
私、けっこう気になって来てるかも。
う~ん。
ダメって言われると、気になっちゃうよね~。
この部屋の、シャワー室の向かいにある扉が。
部屋の入口とシャワー室以外には、そこしか扉がないから、きっとここが散らかってるっていう扉だよね。
……気になる。
めっちゃ気になる!!
たぶん、あの人のことを気になっちゃってるから、余計なんだと思う。
ダメ、とは思いつつ、扉の前に立ってみたり。
シャワーの音が聞こえる。
あ、鼻歌。
かわいっ!
うーん、本格的にダメだな、私。
イケメンで完璧な彼のダメな部分も見てみたいだなんて思っちゃってる。
知らない部分を知りたい、なんて、それってもう……
そんなことを考えてたら、私は扉のノブに手をかけてた。
ダメだって言われてるのに。
でも、ダメって言われると、余計見たくなるよね。
鶴の恩返し的な?
え~い!
もう開けちゃえ!
「…………え?」
部屋は薄暗かった。
そこにあったのは、壁一面に並べられた棚だった。
その棚は、天井近くまであった。
何かがたくさん並べてあるけど、暗くてよく分からない。
それと、部屋の真ん中に簡単なベッド?
なんだろう、ベッドっていうか、何かの作業台みたいな。
「……見たらダメだと言ったのに」
「ひゃっ!」
びっくりしたー。
気が付いたら、彼が後ろに立ってた。
「あ、ご、ごめんなさい。
気になっちゃって、つい」
「いえ、いいんですよ。
いずれ、お見せするつもりではいましたから」
あれ?
「怒って、ないの?」
「怒ったりなどしませんよ。
そんなことをして、あなたのキラキラした瞳を穢したくはないですから」
やさしっ!
てか、ハズっ!
「ああ、暗くてよく見えませんよね?
いま電気をつけましょう。
よく見てみてください」
「あ、はい…………ひっ!」
そこに並んでいたのは、瓶に詰められた大量の目玉だった。
液体に浮かぶいくつのも瞳。
それが天井近くまで伸びる、壁一面の棚に、ずらりと並んでる。
なぜだか、その目玉がみんな、こっちを向いてるような気がした。
真ん中の作業台は、血のようなもので薄汚れていた。
「ええと、私の妻は、ほら、あれだ。
あれが最初のコレクションだよ。
どうだい?
とってもキラキラしてるだろう?
君に似てると思わないかい?」
「………あ……」
私はもう、なんの言葉も発せられなかった。
「ああ、そんなに恐怖に顔を歪めて。
それでも、その瞳はキラキラしたままなんだね。
本当に素晴らしい!
君は本当に綺麗な目をしているね」
忘れな草様作
七海糸様作
ご高覧いただき、ありがとうございます。
おや、お読みくださったあなた。
あなたの目も、とても綺麗ですね。
今夜あたり、あなたに声を掛けに行こうかな。




