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異星人オークション

作者: はじめアキラ
掲載日:2021/04/20

「この部屋が、今日からお前の仕事場だ」


 俺がそう告げると、そいつはおどおどと丸い眼で室内を見回した。

 まるで筒のような形のつるっとした青い身体に、それぞれ腕が二本、足が二本。髪の毛の代わりに、背中に胴体と同じ色の青い触手を生やしたその顔の中心には二つの目があって、さらに大きく裂けた口が存在していると来た。地球人からすればどこからどう見ても化物としか思えないこの存在、正体はいわゆる異星人というヤツである。先日、俺が異星人オークションで競り落として来た存在だった。


「あの、ワタシは、此処で何をすれバ……?」


 内部翻訳された片言の日本語でおどおどと告げるそいつ。可愛くも美しくもないバケモノを飼う趣味なんぞなかったが、いわゆる“商売道具”を買ったと思えば我慢できる範疇だ。そもそもオークションには、こいつよりもっと醜い化物などいくらでもいたのである。巨大な玩具に見えなくもないだけ、コイツはマシというものだ。しかも、食事も排泄もなく、日光だけで生きていけるスグレモノである。


「俺が指示をするまで何もするな、喋るな、黙って玩具のフリしてろ」


 化物といえど、怯える生き物を支配できるというのはなかなかどうして気分がいい。会社では長らくペコペコ頭を下げるだけ、親にもガミガミ叱られてばかりで、学校時代でさえもスクールカースト最下層だった俺だ。産まれて初めて、誰かの上に立ち、命令できるポジションを会得できたのである。そのなんと、気分の良いものであることか。


「今日からお前を使って、俺は金を稼ぐんだ。お前、食ったもので“等価交換”ができる体質の異星人なんだろう?」


 そいつのぶよぶよとした触手をぐいぐい引っ張って弄びながら、俺は笑って告げた。


「ずっと楽して金稼ぎがしてぇと思ってたんだよなあ。……お前には、俺の夢を叶えてもらうぞ?」




 ***




 地球が、他の惑星と当たり前のように交流するようになって数百年。

 異星の科学技術を取り入れたことで、地球の文明は飛躍的に進歩したと言っても過言ではない。タイムマシンこそまだ開発中だが、長らく夢物語とされていた空を飛ぶソーラーカーも、空間を自由に転移できるワープブロックも、彼らとの交流を得てどんどん開発されていったのである。

 同時に、もう一つ地球が手に入れたもの。それが、“地球より下位ランクの異星人”を自由に奴隷にできる権利であった。

 どうにもこの宇宙は、“宇宙連邦”という銀河の中枢機関があり、そこが全銀河の生命体が住む星を管理して成り立っていたらしいのだ。長らく宇宙に出ることがなかった地球人はその存在を知らなかったが、地球も一応その枠組みの中に組み込まれていたらしい。そして、彼らによって地球は全ての惑星の中でウン十番目、くらいにランク付されていたらしいのだ。このへんのことは、俺もニュースでざっくり聞いた知識しかないのだけれど。

 宇宙連邦とやらのランク付は絶対だ。上位とされた、高い文明や進化の可能性を持つ星に、下位に星は絶対に逆らってはいけないというルールがあるのだという。幸いだったのは、地球がそのランクの中でかなり上位の方に位置づけられていたことと、地球よりもさらに上のランクの星に異星を侵略して我が物にしようとするような攻撃的な星が殆どなかったということである。

 地球は異星人達の来訪により彼らの存在を知り、技術を進化させ――下位の異星人という、新たな奴隷を得るに至った。これは、少子高齢化が進む国、特に日本のような国では大層歓迎される結果となったのである。奴隷なんて人権無視だ、という倫理観も――見た目が人間離れしたバケモノ、異星人相手では殆ど働かない。地球人ではないから、醜い外見だからという理由だけで、異星人達は地球で差別され、多くが奴隷としてコキ使われているのが今の現状である。

 なんせ、多くの異星人は、人間にできない数多くの仕事をこなすのに適しているのだ。例えば、放射能に非常に強い異星人は、汚染物質の除去や処分に非常に役立つし。熱に強い者は、マグマの吹き出るような火山での観測業務などを全て任せることができる。とにかく奴隷であるから、人件費なるものがかからないのも非常に大きい。今の地球人は、彼らの恩恵にあやかって文明を維持していると言っても過言ではないのだ。もっとも。


――まあ、化物なんぞに感謝してやるつもりもねーんだけどな。


 俺のように考えている人間は、きっと少なくはないだろう。そうでなければ、いくら公で開催されているとはいえ、異星人を売り買いするオークションがあれだけ盛り上がることなどないのだから。

 万年金欠の俺がオークションに参加し、この青い筒のような異星人をゲットできたのは多くの幸運が重なった結果だった。俺の金欠の理由は、賭け事ですぐ大金を使い切ってしまうからなのだが――この時は、少しだけ当たりを引いたことで、普段よりちょっとだけ多く金があるタイミングであったのである。

 同時に。この異星人の価値を知る人間が、極端に少なかったというのが大きい。他の異星人と比べて不人気であったために、比較的安価で競り落とすことに成功したのである。

 つまり。食わせたものと同等の価値あるものを吐き出すことができる、という体質を持ったこいつを、である。


「俺が、お前にやって欲しいことは一つ!俺が持ってきたモノを食って、それを同等の金として吐き出せ。お前の惑星は、宇宙連邦とリンクしていて、宇宙の基準価格ってやつをしっかりインプットされてるんだろ?」

「は、ハイ。そうデス……」

「世の中、金が正義だ。金がある奴は何をやっても許される。……クソ真面目に働いて、うぜえ上司に怒鳴られて、あくせく小金稼ぐなんざ馬鹿のやることだ」


 ああ見てろよ、と俺は舌なめずりをした。

 一生懸命働いていたのに、ちょっと数字が上がらないだけで俺に怒鳴り散らした元・勤め先の上司。ちょっと賭け事が好きで、借りたお金を返さなかっただけで人を罵倒して離れていった元カノ。そして、親の金を使ってちょっと遊んだだけで、馬鹿息子と人を詰ることしかしなかった馬鹿親ども。あいつらをようやく、見返してやる時が来たのだ。

 こいつを使って、あれもこれも換金してやるのである。

 もうお金がなくて、馬鹿にされる生活とはおさらばするのだ。




 ***




 そいつにわざわざ、名前をつけるということはしなかった。トレース星の人間だと言っていたので、そのまま“トレース星人”と呼ぶことにしていた。まあ大半の場合、それさえも口に出さず“お前”だの“この馬鹿”だのとしか言わなかったのだけれど。

 そいつは大きな口に、要らないものをばんばん投げ込むと、どんどん金にして吐き出していった。大抵さほどの金額にならなかったが、親のところからこっそり持ち出してきた骨董品の類などは時々万単位の金になるので、俺は上機嫌で遊び回ることができたのである。


「おい、この皿はいくらになる?」

「ピコピコ……一万二千円、デス」

「よしよし、いい値段行くな。さっさと食え」


 こんな具合だ。どんな恩もけして忘れない、実に義理堅い星人である――オークションではそんな紹介しかされていなかった異星人。こいつの特性をブローカーをしている仲間からこっそり聞けていたのは実に幸運なことだったと思う。

 俺の好きなものは賭け事だが、子供の頃から得意なものはその実“万引きとスリ”だった。親の財布からこっそり金を抜けたのも、これらの特技あってのことである。ただ、現金を盗めればともかく、商品は手に入れることができたとしても換金する段階でどうしてもリスクを負うことになる。学生時代、本屋から盗んだ漫画数十冊をまとめてネットオークションにかけようとして、警察に捕まりそうになったことがあるのだ。

 その点、トレース星人の換金はいい。ネットさえも介することなく現金を手に入れることができるので、面倒な奴らに目をつけられる心配もない。俺は自分の私物から親の私物、それに万引きなどであっちこっちから盗んできたものをトレース星人に換金させることにより、楽をしてお金を稼ぐことに成功していた。もう、誰かに命令されてコキ使われるような仕事をする必要もない。好きなだけ趣味の賭け事に費やすことができるし、美味しいご馳走も買い放題というわけだ。異星人の奴隷様、万々歳である。


「ご、ご主人サマ、ワタシを、日向に連れて行ってくだサイ……日光がなけれバ、飢えて死んでしまいマス……」

「うるせえ!メシが食いたかったらそこにあるもの全部換金してからにしやがれ、ぶっ殺すぞ!」

「ひ、ひい!」


 まあ、少々生意気で、時折口答えをすることだけが問題だったが。こいつは自力ではゆっくりとしか動けないし、力も俺よりずっと弱い。太陽の光の当たらないダンボール箱に詰めてやれば、すぐに泣き叫んで許しを請うのである。それが、実に爽快だった。金を稼ぐのみならず、この奴隷は俺のストレス発散にも実に役立ってくれていたのである。

 金回りが良くなり、良いマンションに住むことができるようになれば。お洒落にも気を使えるし、金の匂いに惹かれた女も簡単に引っ掛けられるようになる。二十八歳にして俺はちょっとした小金持ちとなり、極めて順風満帆な人生を送るようになっていたのだった。

 問題は、そうやって俺のところに来る女の中には、俺の金だけを目当てにするような“ハズレ”もちょいちょい混じっていたわけだが。今日マンションについてきた女もそのひとりだった。俺に取り入って、高級ブランドのバックを買って貰おうという魂胆がスケスケ、それでいて足を開いてご奉仕する気もないケバ女。喧嘩になるのは、当然の流れだったと言えよう。ゆえに。


「は!てめえみてえに、金のことしか考えてないクソ女!こっちから願い下げなんだよ!とっとと死ね!」


 酔っ払った勢いで俺は、女をトレース星人の口に投げ込んでいたのである。女は悲鳴をあげて、あっという間に口の中に消えていき――カシャカシャピン!といういつもの音とともに、お金となって吐き出されたのだった。

 その額、十万五千円。

 恐らく女が身につけていた高級なブランドバッグや服を含んだ金額であろうが――俺は、人間も換金できるという事実に驚いたのだった。


――もしかして、人間を食わせたら……今までよりもっといい金稼ぎができたりすんのか?


 以来。俺は、女を連れ込んでひとしきり楽しむと、そのままトレース星人の口に放り込むということを始めるようになる。時には女のみならず、男や子供、老人も騙して連れ込んでは投げ込んだ。そして、そのたびに吐き出される額の差を面白がりつつ、さらに効率的な金稼ぎに邁進するようになったのである。なんといっても、人を連れ込んで食わせても、証拠が一切残らないというのがいい。トレース星人に食わせた人間は、どうやら最初からこの世界にいなかったもの扱いになるらしく、俺が連れ込んだという事実さえ発覚することがなくなるからである。

 やがて、人間達を食わせて金稼ぎをするうち、俺はひとつの疑問が、頭にこびりついたように離れなくなるのである。

 つまり――“俺”は、一体どれくらいの金額の価値のある存在として、宇宙連邦の基準に定められているのだろうか、ということだ。

 今までの人間達は、それぞれ服装や性別、年齢などでピンキリの額であったが――平均すると一人二万円程度。少なくとも、万単位を下ったことは今まで一度も見たことがなかった。

 これだけ上手に金を稼いでみせる俺である。今までにない高い金額がつくに違いない。俺は自信満々に、トレース星人の身体に触れながら尋ねたのである。


「おい、お前。“俺”はお前で換金するといくらになるんだ?」

「ピコピコ……百円、デス」

「は?」

「百円、デス」


 俺は、耳を疑った。こいつは今なんて言った?今までどの人間を食わせても、一万円以下になったことはなかったのに――よりにもよって、天才的な商才を持つこの俺をたった百円と言ったのか、こいつは?


「ふ、ふざけんな!俺がそんな安いわけがあるか!ナメてんのか、おいっ!?」


 俺がキレて、トレース星人に掴みかかろうとしたその時。にゅうう、とそいつの両手が、俺の腰に絡みついていた。つるん、と俺の足が磨いた床で滑っていく。そして。


「え」


 気づけば、俺は。頭から、トレース星人の口の中へと落下していたのだ。

 最後に頭をよぎったのは、異星人オークションでのトレース星人の説明だ。受けた恩をけして忘れない、義理堅い性格――それはつまり、受けた恨みも忘れないということではないだろうか。


「お前みたいなヤツ、ワタシから言わせれば……百円の価値も惜しいゾ」


 くぐもった声と共に。

 俺の意識は、ブラックアウトしていったのである。




 ***





「さあさあ皆さん御覧じろ!今回は面白い、新種の異星人を発見しましたのでご紹介いたします!

 この全身、札束みたいなへんな鱗にまみれた醜い異星人……恐らく、最下層ランクの惑星の実験体か何かだったと思われますが!どうにも、地球人の記憶をインプットされているらしく、面白い話をするのです。

 俺は元々地球人だったとか、金持ちだったとか、トレース星人に食われたとか……一体なんの話でしょうねー?

 何にせよ、檻に閉じ込めて飼うのに丁度いいサイズ!ペットとしていかがでございましょう?

 それではオークションスタート!価格は百円からでございますー!」




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