Life of line ~awakening~
初投稿です。よろしくお願いいたします。
人には特殊な能力を持って生まれる人がいるらしい。共感覚、直観記憶、霊視など様々だ。俺はそんなものどれも信じていない。目立ちたがり屋の小さな嘘が広まったんだろう。その程度にしか思っていない。あんなのTVで大々的に取り上げるなんて意味わからないだろ??
そう思っていたんだ。あれが視えるようになるまでは……。
◇
今日は超能力系刑事ドラマの映画三部作の最終章の公開日だ。この日を待ち望んでいた。もちろん一人だ。友達とみるのもいいが映画は静かに一人で見たいんだ。ポップコーンありでな!!
「行ってきます!!」
これから見る映画への期待を胸にドアを開ける。目に飛び込んできたのは、雲一つない青空、そこに輝く太陽、色のない住宅街を彩る木々。そして何より目立つのは……。
「なんだ……これ……。」
最近、東京に建てられたあのブルジュ・ハリファをも超える世界最長の建造物。全長約1200mの東京テラズタワーを貫くように一本の糸地面から空に向かって伸びている。
さらにそれだけではない。待ちゆく人々の頭のてっぺんからも蒼い糸がピンと空の果てまで伸びている。街の人たちは特に気にしていない様子だった。
何だか怖くなってドアを開けなおし家に戻った。玄関につながる廊下にはちょうど洗濯が終わり庭に洗濯物を持って移動している母がいた。母の頭にも糸がピンと張っている。
「結?どうしたの?忘れ物でもしたの?」
「違う!!ちょっと来てよ!!この糸みたいなものが急に!!」
ドアを開けて外の光景を見せるが母親はポカンとした表情をしていた。
「何言ってるの?というか早く閉めてよ恥ずかしい!化粧も何もしてないんだから!まだねぼけてんじゃないの?おっかしな子ね!」
と言いながら母は笑い始めた。
「っ!!」
リビングに行きテレビをつける。どのチャンネルに合わせても怪奇現象のかの字も見つからなかった。
やっぱり、誰にも視えてないんだ……。この糸……。
「どうしたの。急にテレビなんかつけて。映画はいいの?」
「いや……。何でもない……。顔洗い忘れただけ!」
アハハと苦笑いでごまかす。これが俺にできる精一杯の反応だった。
顔を洗って映画館に向かうが、何度目を擦ろうと、瞬きをしようと糸は消えなかった。
「マジか……。ほんとにこんなことあるんだな……。」
その日は映画を見て家に帰ってからすぐ寝た。夜ご飯はもちろん食べた。
◇
「やっぱ消えてない……。」
2階の自室の窓からテラズタワーを見たが糸は視えているままだった。
「寝てもダメか……。本格的に意味わからないぞこれは……。」
と言っても今日は月曜日だ。学校があるので顔を洗い、制服に着替え朝食を食べる。両親は共働きなので、俺が朝食を食べるときにはもう家にはいない。
「まぁ、考えても仕方ないか別に生活に害はないしな。」
俺は深く考えることはせずに学校へ向かった。そうはいってもやはり気になるので、登校中に色々検証してみることにした。
発見したことはこれだ。まず人によって個体差がない。別に女の子だからって色が違うとか、太っているから糸が太いとかそういうのはなかった。
次に犬や猫、カラスやハトなどの鳥、さらには虫にも糸が張っていること。びっしり糸が固まっているところを視て、何事だと思ったら蟻の行列だった。驚かすなよなもう。
電車に乗っているとき注意深く外を見渡したが、建物に糸があるところはテラズタワー以外に見つけられなかった。今度テラズタワーにも行ってみようかな。
電車を降り、高校に向かっている途中で、反対側の歩道から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「おーい!!ラブシーーー!!」
うるさい奴だ……。何も逆サイドの歩道から話しかけてこなくても……。
「うぃーーすーー。コック。おはよ。」
そう返事をすると、朝からうるさい奴もとい大熱 刻は走って横断歩道を渡ってきた。
親がプロの料理人であり本人も料理人志望だからコックというあだ名がつけられた。まさしく筋肉とはコックのための言葉でありそのせいでサイズが合わず改造した学ランに赤髪が相まって極道のような面構えだが、優しい奴ではある。
「おはよう!今日も気が抜けた返事どうもありがとな!!」
「お前が暑苦しいだけだわ!逆サイドから話しかけてきやがって。」
「いいだろ別に!てか知ってるか?今日転校生が来るらしいぞ。メギャンが言ってたから間違いない。女らしいぞ!!」
「何!?メギャンもやるな!!そいつが美人だった時の作戦立てるぞ!!」
「当たり前よ!持つべきものは美人好きの友だな!」
そんな雑談を交わしているといつの間にか他の生徒たちはいなくなっており、HR開始3分前のチャイムが聞こえてきた。
「やばい遅刻だ!!コック!!急げ!!」
「うっそだろ!!お前と話してるといつもこうだ!!」
「こっちのセリフだ!!まずいぞこのままじゃ転校生の自己紹介に遅れる!!」
「そうなったら俺たちの作戦が……」
俺たちは急いで学校へ向かった。
◇
「「っセーフ!!」」
ガタンとドアを開けると同時に思わず心の声が出てしまった。こいつと一緒のこと言うのなんか嫌だな。
「お前らギリギリすぎ。もっと早く来いよ。」
担任が苦い顔をしながらそう言ってきた。
「「こいつのせいです!!」」
「「お前!!人のせいにするなよ!!」」
「はい、もういいから席につけ。仲いいのはいいことだ。」
「まぁ、それは……。なぁ?」 「あぁ。」
「それは否定しねーんだな。」
担任は今度は笑いながらそう言った。
自分の席に着くと隣から声をかけられた。ボサボサの青髪にでかい丸渕眼鏡をかけたイケメンで、俺のもう一人の悪友。渕目 銃だ。あだ名は名前からとってメギャンだ。我ながらかなりダサいと思う。だがそれがまたいい……。
「おはよう、ラブシ。仲良しコントお疲れさん。」
爽やかな顔がまたウザいが、圧倒的情報収集能力で色々な情報をいち早く俺たちにお知らせする半分ネットストーカーみたいなやつだ。こんな奴だからかイケメンなのに全くモテない。分けろそのイケメン!!
「うるせーよ。コントやった覚えはねぇよ。メギャンの存在の方がよっぽどコントだわ。」
「どうだか。それより見てなよ、間違いなく転校生が来るよ。女の子のね。」
「疑ってねーよ。お前の情報だけは外れた事ねーからな。」
「はい、じゃあ出欠取るぞ。」
「1番 藍糸 結」
さっそく呼ばれた。コックやメギャンは苗字を色々変換した結果ラブシと名付けたらしい。なんかエロそうで嫌だが定着してしまったのでもう遅い。なんだよラブシって、ラブホみたいじゃんか。愛に言い換えるとかセンスねぇなぁ本当に。
「あーい」
返事をしてからボーっとクラスを見渡してみた。当たり前だけどクラスのみんなにも糸はあるし、ボーっとしてるからって視えなくなったりもしない。
「36番 和奏 音」 「はい。」
そうしていると最後の子まで出欠が終わった。
「よし。休みなしと。えーと今日は転校生がいるから紹介します。じゃ、入って来て!!」
あまりにも担任がサラッと言い放つのでびっくりしてしまった。一瞬遅れてクラスがざわつき出す。
「男の子かな?女の子かな?」 「かっこいいといいよね。」 「かわいい子来てくれ!!」
「女の子なのになぁ~無駄な期待しちゃって~」
とメギャン。
ガラリと教室のドアを開けて入ってきたのは、紫髪のとてもスタイルのいい美人だった。クラスのみんなその美しさに声も出なかったらしい。俺もその子に一瞬で目を奪われてしまった。
だがそれはほかのやつらとは違い、決して美人だからでもなく、スタイルが良いからでもない。少なくとも他の人たちにはあるものが彼女には無かった。
「あ……。なんで……??」
その女の子には糸が視えなかった。
その女の子は黒板に名前を書いた。カツカツというチョークの音だけが教室内に響く。
流凪 命
「流凪 命です。よろしく。」
彼女、流凪 命はこちらを見て少し微笑んだ……………気がした。
2話も出てるのでよろしくお願いします。