Ⅴ.綺麗になった
遂に迎えた収穫祭当日。
私は1年ぶりに収穫祭の衣装であるディアンドルに袖を通していた。
袖の膨らんだブラウスにリボンで締め上げる緑色のボディスを重ね、踝程の長さのスカートには浅い青色のエプロンをつける。装飾は少ないけれど、シンプルさが私好みの衣装だ。
「ぐぐぅ、苦し……」
相変わらずお母さんのリボンの締め方は呼吸すら困難にしそうな程だ。今年は夕方のダンスまでに慣れておくため、朝から衣装を着ることになった。
慣れていることも最後となれば感慨に浸る材料になる。
いつも通り彼の家のドアノブに手を伸ばす。
すると触ってもいないドアが勝手に開き、その先には彼が立っていた。
いつもなら出迎えなんて絶対にないのに。
「おはよう」
そう言う彼はいつもと違う、魔法使いらしい格好をしていた。
質の良さそうなシャツに黒いベストとズボン。首元はしっかりとネクタイで締められている。そして、その上から羽織られた滑らかな生地の黒いローブと先の尖ったつばの広い帽子。
思わず魔法使いみたい、と呟くと彼は、最初からそうだけど?と得意げに笑った。
部屋の中は相変わらず本とインクの香りで満たされている。カウチソファの背もたれに止まっていたズースは、私を見ると翼を広げて挨拶をしてくれた。
「じゃあ早速、魔法をかけるよ」
彼の細い指が私の鼻に優しく触れる。
「眩しいだろうから目を瞑って」
そう言うと彼は逆側の手で私の目を瞑らせた。
目を瞑っていてもわかる、眩しい光。
気だるそうだけれど、優しい声が私の耳に届く。
「もういいよ、目を開けて」
静寂に包まれる中、ゆっくりと目を開ける。目の前には鏡を持った彼が微笑んでいた。
そこに映る私は、いつもの私ではなかった。
私の鼻どころか、肌には吹き出物ひとつない。
それ以上に驚いたのは、見覚えのないベロア生地に林檎のモチーフが付いたチョーカーと、綺麗にまとめあげられた髪だった。
驚きを隠せない私を見て、彼は口を開く。
「綺麗になった」