Ⅰ.悩める少女
高い木々に囲まれた薄暗い森を真っ直ぐ進む。ひやりと冷たく、湿った空気が身体を撫でた。
いくら進んでも目的の場所に辿り着かない焦りと恐怖。
私の足は次第に速度を落とし、やがて、止まった。
私が入ってはいけない森へと足を踏み込んだ理由は、願いを叶えてくれる魔法使いに会うためだった。
「げえ、次は鼻のてっぺん……」
洗濯用の桶に張られた水には、鼻の先を赤くした渋い顔の私が映っている。
年頃の子供の大半が悩まされるであろう吹き出物という存在に、私も頭を抱えていた。
どうにかして収穫祭までに治さなければ。
収穫祭とは1年に1度、村全体で行われる行事。
基本的に長老や偉いおじさんたちが祭りを進行していくけれど、祭りの最後を締めくくるダンスには村の皆が参加する。
ただのダンスなら私も好きだけれど、祭りではペアを変えながら円になって踊るから、隣の家のお兄ちゃんとも踊ることになる。
かっこよくて優しいお兄ちゃんと踊れるのは嬉しいけど、至近距離で踊るなんてまるで拷問だ。
「どうしよう、おでこのも治ってないのに……」
焦りは更なる赤い悪魔を呼ぶ。この負のループはいつ終わりを告げるのだろうか。
洗濯を終えたところで、昨日友達が言っていたことを思い出す。
「あの森に、なんでも願いを叶えてくれる魔法使いがいるらしいよ」
「でも入っちゃいけないって……」
「だからこそ信憑性が高いんじゃない!私ももっと可愛くして下さいってお願いしに行こうかなぁ。そしたら……うふふっ」
願いを叶える代わりに、魔法使いに何を奪われるかわかったもんじゃない。
けれど、他に選択肢はなかった。