Judgment Day, The Bereaved Child Thinks
いつもと同じ、目覚ましの五月蠅い音が鳴る。こんな音では普通起きれないが、いつもと何かが違うのかな。まぁ、違っててもあんまり関係ないけどね。
「…ん、朝から誰ぇ?」
早朝から電話なんて最悪な人間も居たもんだな。多分、イルカか伯父さんだろうけど…。
「はぁい?誰ですかぁ?」
『あ!やっと起きた!今日は早朝から見回りでしょ?さっさと着替えていつもの場所に集合ね!』
…人の話を聞かずに切りやがった。こっちの話くらい聞いてくれても、バチは当たらないと思うんだけど。
いちいち着替えるのも面倒なので、寝間着のままで行こうと思ったが、撮られて辱められるのも癪なので、着替え始める。今日は腕の奴は要らないかな、なんて考えるのも久し振りかな。
「よう、起きてるか?」
「武藤さん…。起きてますけどね、部屋に上がるんだったら一言掛けてくれます?」
「ま、良いじゃねぇか。先に一杯引っ掛けさせてもらってるぜ」
相変わらずこの人は…。働かなくて良くなってから、いつもこの調子だ。前までだったら、もうちょっと真面目だったのにな。
「じゃ、呑み終わったら出てってくださいよ」
「分かった分かった。約束は守るよ」
そう言って帰った記憶が無いのは、気のせいでは無いだろう。いずれにしても、早く行かないと間に合わなくなってしまうので、見逃す以外に選択肢が無い。そういう意味では狡猾だと思う。
「じゃあ、行ってきます」
「気を付けろよ」
早朝の空気は美味しいと言うか、喉が灼けるような感覚を覚える。流石に秋だから、背筋まで寒気が入る事は無いが、それでも肌寒い事には変わりない。
「おう、白ちゃん。今日は早いねぇ」
「おはよう、八百屋の店主さん。今日は急用なんですよ」
「白ちゃん、コレを持っておいき」
「ありがとう、魚屋の店主さん。お昼に戴きますね」
商店街の人達に挨拶してから、いつもの広場に行く。呼び出した筈のイルカが予定時間に居ないが、平常運転なので気にも止めない。
「あ〜!白ちゃん待った?!」
そんな声が聞こえたのは、予定から40分後だった。人を待たせておいて、一言目に謝らないのは、流石と言うべきか平常と言うべきか。
「で、見回りってどこのだっけ?」
「今日は無間の丘辺りだね」
「じゃあ帰り際に用事済ませるか」
「ふぇ?」
「あぁ、いや。独り言だよ」
そう、独り言。
―無間の丘
「見た所異常な事は無さそうだけど…」
相変わらず何も無い更地だ。ここがあの『審判の場』だとは、誰もが知る由もない。多大なる被害の出た、第一次世界大戦の次に死者が多かったと、後から知った。
「こんな所に、人なんて寄り付く訳も無いか…」
大戦後未だ、掘り起こされていない骨が見え隠れする。それでも、見えているのはほんの一握り。政府も機能を止め、自分達の力だけで生きて行く事となった。私達の街は、海が近く平原が広がっている為、自給自足がまだ出来ているが、最早修正不可能とまで追い込まれた街も少なくは無い。
「よし、確認終わり」
「本部に連絡した?」
「うん!やっぱり気のせいだったみたいだね」
「はぁ…、不確定情報で人を動かさないで欲しいね」
「ははは、まぁそれが上層部だよ」
「じゃあ、行きますか」
「どこに?」
「お墓参り」
―西鍵島軍人墓地
「…」
静かに手を合わせ、黙祷する。その墓は無機質に並び、冷たく鈍い光を放っていた。
「…ッ」
審判の日。世界の存続が決定した日。しかし人は、その限りでは無かった。不必要な人間や、自分勝手な人間。その全てが、同種の争いで消えた。
そこに、彼らも居た筈なんだ。消えるべき人間じゃ無かった筈なんだ。でも消えた。何故か?それは神が、人の心を読めなかったからだ。全てが神のせいだとは言わない。だが、世界を護らない神なんて、今ここには必要ない。
ここに必要なのは、他を救い己も救う、偽善の具現だ。
「私は…、無理だからね。でも、誰も…分からないんだもんね」
世界に必要なのは彼らだ。生き残った世界を、偽善で固められるのは彼らだけだ。人を導いて行ける、そんな人間が居た筈なんだ…。
「…大丈夫だよ、―――。いつかきっと、会えるから」