影法師
[自覚]
一人じゃどこにも行けないんだ。
オレはキミの影法師だった。
足裏がくっついていた。
そのことに疑問はなかった。
口裏さえ合っていた。
不思議に声も似ていた。
同じ動きしか許されない。
オレは成り変われない。
本当はオレじゃなくボクだって主張したかった。
[諦観]
オレはキミだ。オレはボクだ。
オレは君の下僕さ。
どこにでも付き従い、離れられない。
キミは光。オレは影さ。
誰とも喋らない。
オレの世界は狭い二人法師だよ。
[欠落]
キミは急に云った。「付き合わせて悪かった」と。
オレは「気にするな」と云った。そしてふと気付いた。
キミをなぞるだけだったオレの口が自由に動いていた。
「オレの後をついてこなくていいんだよ」
そう抜かしたキミは影になった。
ボクは光を欠いたんだ。
[空白]
ボクはキミにしかなれないのに。
どうして置いて行ったんだ。
ボクが喜ぶと思ったのか。
キミだってボクだっただろう。
なら分かるはずだろう。
ボクはキミの背中にずっと寄りかかっていたんだ。
[R/Light]
二人法師で良かったのに。
二人法師が善かったのに。
今さら光に成れないよ。
今さら光に慣れないよ。
冷たい影に手を伸ばした。
コンクリートの感触。
[Shadow]
暗い明かりしかないんだ。
ボクは所詮キミの影なのさ。
いきなり光になれなんて横暴じゃないか。
キミはもう返事をしない。
ボクの口をなぞるだけ。
キミの後は着いて行けない。
キミの跡は継いで行く。
ボクは独り法師の影法師。
オレはキミの影法師だった。