【冬の童話祭2020】ダノンくんと七色のペンのおくりもの
ダノンくんは、この冬、大好きなおじいさんの誕生日にペンをプレゼントすることにしました。
ダノンくんのおじいさんは、1月の寒い寒い日に生まれました。
それも雪がこんこんと一晩中降り積もる、真っ白の夜でした。
そんなおじいさんは、大きくなって絵描きになりました。
雪のような真っ白のキャンパスに、虹のような色とりどりの絵の絵の具を使って、動物や果物、お花畑、もちろんダノンくんのことをそれはもう上手に描くのでした。
ダノンくんの住んでいるところは、雪深い山の中。
あたり一面、真っ白な景色が広がっています。
それもあって、ダノンくんはおじいさんの描く絵からたくさんの色を学んだのでした。
さて、さっそくダノンくんはプレゼントのペンを探しに家を出ました。
おじいさんは何色が好きなのでしょうか。
道の途中で、キタキツネさんに会いました。
「やあやあ、ダノンくん。どこに行くんだい」
「こんにちは、キタキツネさん。おじいさんの誕生日プレゼントのペンを探しに行くんだよ」
「そりゃあ、良いね。おじいさんは何色が好きなんだい?」
「それが聞き忘れてしまって。キタキツネさんのおすすめの色は何色かな?」
「それはもちろんオレンジさ!この僕の体と同じ、温かいオレンジ色がおじいさんもきっと喜ぶと思うよ」
「ありがとう雪だるまさん」
「よかったら、ぼくのこの色を持って行ってよ。特別にプレゼントしてあげる」
キタキツネさんはそういうと、ポケットに入っていたペンに自分のかだらのオレンジ色を少しすくって入れました。
「おやまあ、ダノンくんじゃないか。そんなにうきうきして、何かいいことがあったのかな」
いつもわたしたちを明るく照らしてくれる太陽さんが声を掛けました。
「太陽さん、あのね、おじいさんの誕生日プレゼントにペンをおくるんだ。その色を探しにいくんだよ」
「なんとまあ、すてきなこと。それなら、わたしからもプレゼントをしようかしら。いつも素敵な絵を見せてくれるからね。わたしの赤を使って、これからもたくさんの美しいな絵をかいていってちょうだいね」
太陽さんはそう言ってほほ笑むと、優しい匂いと一緒にペンに赤色を注ぎ込みました。
ペンは、太陽さんのようにぽかぽかと温かくなりました。
「ありがとう太陽さん。おじいさんに伝えておくね」
「ああ、よろしくね、気を付けていくんだよ」
そうして太陽さんと別れて、ダノンくんは旅を続けました。
嬉しくなったダノンくんは、もっといろいろな色をおじいさんにおくりたいと思いました。
すると、空から声が降ってきました。
「ダノンくん、そんなに楽しそうにどうしたのさ」
「あのね、おじいさんの誕生日プレゼントにペンをおくるんだけど、キタキツネさんがオレンジ色をくれたんだ。とってもきれいなオレンジ色なんだよ」
「あら、よかったじゃないの。それならわたしも水色を贈るわ。キタキツネさんのオレンジ色と一緒に使ってよ。きっとおじいさんも気に入るわよ」
「ありがとう空さん。とっても気持ちがいいキレイな水色だね。素敵!」
ダノンくんは空にペンを渡すと、空はからだの水色を少しすくって入れました。
キラキラとさわやかな水色でした。
ペンを大事に抱え、さらに道を進むと、向こう側にブドウの畑が広がっているのが見えました。
近づいてみると、ブドウの粒はどれもぷっくりと膨らんでいて、みずみずしく食べごろです。
「あら、坊や。こんなところに何しに来きたのよ」
「おじいさんの誕生日プレゼントにペンをおくるために、色を探していたんだ」
「あら、とっても素敵じゃない。そうなら、ここに来たのも何かの縁だし、あたいの紫も一緒にあげるわ。今が旬で食べ時なのよ。頬張ったら、口の中いっぱいに果汁があふれて幸せな気持ちになれるわ」
「本当に!ブドウさん、ありがとう!僕の住んでいるところは雪ばかりでなかなか新鮮な果物がないんだ。おじいさんもきっと喜ぶよ」
ダノンくんは、ペンの先をブドウさんの体にやさしくつけて、みずみずしい紫色を少し分けてもらいました。
家に帰るまで、ペンからはブドウの甘い香りがしていたのでした。
ダノンくんはどんどん進みます。
するとどこかから、大きな声が聞こえてきました。
「おーい、僕くん。そんなに嬉しそうに、どうしたんだい」
「おじいさんのプレゼントにペンをおくるんだけど、いろんな色をもらったから嬉しいんだよ。あなたはどこにいるの?」
「ここだよ、ここ。僕くんを囲んでいる、大きな山さ」
「どうりで声がこんなにも大きいんだね」
見るとあたり一面、若々しい緑色の山が広がっていました。
「それなら、わがはいの緑色もオススメさ。どんな絵を描くにしても緑は大活躍さ。それに今がいちばん緑が濃い季節なんだ。特別にプレゼントしてあげるよ」
「わぁい!山さん、ありがとう」
そうすると、山さんは大きな大きな体をゆさゆさと風に揺らしてたくさんの葉を落としました。
ダノンくんはその中からいちばん大きくていちばん濃い緑色を見つけて、少しだけ色をゆずってもらいました。
「ありがとう山さん。おじいさんははよく景色を書くんだ。きっとこの緑色を気に入ってたくさん使ってくれるよ」
「ほほほ、渡すのが楽しみじゃな」
山さんはそう言うと、大きな笑い声でダノンくんを見送りました。
ダノンくんはうきうきでさらに道を進んでいきました。
すると、向こう側から、しょっぱい潮の匂いがしました。
「くんくん、なんだかお料理で使う塩のようなにおいがするぞ」
そこに大きな大きな海がありました。
ダノンくんは、おじいさんの絵でしか海を見たことがありませんでした。
「わぁ、これが海かぁ。本当に海は青いんだね。そして不思議なにおいがするんだね」
大きく深呼吸をしていると、ざざーざざーと音がして
「なかなか見ない坊ちゃんね、あなたはだぁれ」
ときれいな声が海から聞こえてきました。
「ぼくはダノン。いまおじいさんの誕生日プレゼントにペンの色を探しているんだ。初めて海を見て、こんなにいい匂いなんだって深呼吸をしていたところだよ」
「あら、海を気に入ってくれたのね、嬉しいわ。それなら、記念に海の青をあげるわ」
海さんは、太陽にキラキラと体を輝かせて、風に体を震わせて、いくつもの青いしぶきを作りました。
ダノンくんはその中から、いちばん海の匂いが濃いキレイな青色を選んで、少しだけ色をもらいました。
「海さん、ありがとう。海ってこんなにもキレイなんだね。また遊びにきてもいいかな」
「ええ、もちろんよ。今度はおじいさんも一緒にいらっしゃい」
海さんは大きな体を揺らして、手を振って、ダノンくんを見送りました。
「よし、5色も集まったぞ。きっとおじいさんも喜んでくれるはずだ」
うきうきしながら、帰り道を戻っていきます。
でも、あたりはすっかり真っ暗。
ずいぶん遠くまできてしまったので、見慣れない道にダノンくんは急に心細くなってきました。
「はやく、おうちに帰らないとみんな心配しちゃう。それに、おじいさんの誕生日が終わってしまう」
ダノンくんは、泣きそうになりながら道を進みました。
「おやまあ、こんな小さな子供がこんな時間にどうしたんだい」
鈴が鳴るようなシャンシャンとした声が真っ暗な夜空から聞こえます。
「おじいさんの誕生日プレゼントのペンに入れる色を探していたら、こんなに遅くなってしまったんだ。あたりは暗いし、足元は見えないし、心細いよ」
泣きそうな声で答えました。
「なんとまあ。それなら、あたしのこの色を持っていきなさい。暗い夜道でも光になって照らしてくれるよ」
そう聞こえたと同時に、空からキラキラした光が降ってきて、ペンにすっと入り込みました。
それはなんと明るい黄色なのでしょうか。
見上げると、真ん丸で大きなお月さまが顔をのぞかせていました。
「お月さま、ありがとう。おかげでおじいさんも喜ぶし、ぼくもおうちに帰れるよ」
「そりゃあよかった。何かあったら、また月を探してね。いつでも夜道を照らしてあげるよ」
お月さまはそう言って明るい顔をにっこりとさせて、目をつぶりました。
お月さまの光り輝く黄色のおかげで、ダノンくんは迷うことなくまっすぐにおうちに帰ることができました。
おうちではおかあさんが誕生日ケーキを焼いていて、おばあさんがマフラーと手袋をプレゼントしていて、お父さんが薪を暖炉にくべていました。
「ダノンよ、遅かったじゃないか。心配していたんだぞ」
「おじいさん、お誕生日おめでとう!
おじいさんのために、たくさんの色が入ったペンをおくるよ。みんなが色をわけてくれたんだ。キタキツネさんのオレンジ色、太陽さんの赤色、空さんの水色、ブドウさんの紫色、山さんの緑色、海さんの青色、そしてお月さまの黄色。全部で七色もあるよ。これでまたたくさん絵をかいてね」
ダノンくんのプレゼントにおじいさんは大変喜びました。
だって、七色のペンなんて世界にたったひとつですもの。
おじいさんは七色のペンんでたくさん絵をかいて、ダノンくんはおじいさんの絵からたくさん世界のことを学びました。
真っ白な雪国に、たくさんの色のおくりものをしたのでした。