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SLAP ASSEMBLE

SLAP03

作者: macjiro

 家賃を払わないと、部屋を追い出されるんだよ、知ってた?

 学生用の下宿だから、もうちょっと勘弁してくれるかと思ってたけど、それとこれは別なんだって・・・。

 困っている人は助けないといけないって、そう言われていたんだけど、これは違うのかな。

 部屋に置いてあった荷物は全部処分して、未払いの家賃に回すって、持ち出せたのはバイクと鍵とヘルメット、それとかばんがひとつ、中にはタブレットPC、スマホともろもろ、あ、財布も入ってた一応。

 友達にDM送ってみたけど「自業自得www」みたいなのしか帰ってこなかった、みんな冷たい。

 だいたいみんな僕が新しいゲームとかアイテムを手に入れたらチヤホヤしてたじゃないか、なのにちょっと助けて欲しいと言おうとしたら、手のひらクルーだよ。

 友達の家に片っ端から行ってみたけど、どこも入れてくれない、それどころか居留守を使うし、電話は着拒、DMもブロックされてるwww。


 どこにも行くところがなくて、ガソリンも尽きかけてる、結局海に来て、ボーっとしてた。

 水着のリア充がはしゃいでいる、梅雨明けって出たんだっけ?どうでもいいけど。


 なんで、僕はこんな目に遭ってるの?

 世界は欲しいものにあふれていて、僕は経済の法則に従ってお金を使っていただけだよ?

 なんだか叫びたくなったけど、すごく喉が渇いていたからやめた。

 暑い、何か冷たいものが欲しい、僕はフラフラとカキ氷の幟が出ている店に吸い寄せられた。


 ここにも、リア充がたくさんいて、みんな楽しそうにしていた、店主らしいおじさんが、愛想笑いしながらチラッとこちらを見た、僕はかばんの財布の中身を確かめた、六十二円しか入ってない・・・。

 カキ氷機の横にはクッキーの空き缶が置いてあって、そこにはキラキラとコインやお札が山になっていた。

 僕は、氷よりそっちの方が必要だと思った、お金があれば、またゲームに課金して、友達もブロックを解除してくれる、それに飲み物だってカキ氷だって買える・・・あれ?

「ご注文は?」

 財布の横にあったのは赤いラインの入ったカスタムガンだった、僕はそれを手に取って、おじさんの方へ向けた。

「そこのお金をください」

 おじさんは僕の拳銃に気がついてギョッとしたような顔をした。

 それから店の奥に向かって声をかけた。

「さっそく出番だよ!」

「・・・ちょっと待って、今頭キーンって・・・」

 奥の方は少し薄暗いので、まぶしい外から入ってきた僕には返事をしたやつはよく見えなかった。

 リア充たちはまだ気がついていないのか、楽しそうに氷を食べている、むかつく。

「うちは食い物しか出さない店だよ、あんたお金を食うのかい?」

 おじさんはカキ氷用の皿にコインをジャラジャラと乗せた、そして氷用のシロップをかけ始めた、イチゴだ、どっちかと言うと僕はメロン味が好きなんだが。

「ほら、取れよ」

 おじさんは左手でそのイチゴ味のコインを差し出した、僕は受け取るために拳銃を降ろそうとした、その時、右手が作業台の下で黒い棒状の何かを掴んでいるのが見えた。


 たぶん、それはショットガンだろう、12番ならエラダマでもすごい衝撃だろうな、下手をするとどこかの骨が折れるかもしれない、実弾なら確実にボロ雑巾のようになるだろう。


 この瞬間に僕は自分が強盗で、奪おうとしているものは自分の生命と釣り合うものではないことに気がついた。

 身体が動くのを拒否している、なんでこんなくだらないことしているんだ。


 僕とおじさんの睨みあい(僕は目を見開いたまま、ただ呆然としていただけだったが)は数秒で終わった、店の奥から出てきた大男が、真後ろに立っていた。

「はい、そこまで・・・おじさんもういいよ」

「・・・任せて大丈夫なんだな?」

「うん、本職にまかせてよ」

 僕は目だけを動かして後を見た、数センチ先にスナブノーズリボルバーのマズルがあるのが見えた。

「高そうなテッポーだな、でもどうせ、それ弾が入ってないんだろ?」

 図星だったので、僕は何も言えなかった、どれだけ精度の高いレースガンでも、弾が出ないことには何の意味もない。


 店の裏に引き摺り出された僕はもう何も出来なかった、聞かれるままに大男に、朝からの現状を話した。

「・・・おまえ、バカだな」

 なぜか、その言葉で僕は声を出して泣き出した、もう自分でも何をどうしていいかわからない。


 大男は呆れたように僕を見ていた。

「レースガンを持ってるくらいだから、シューティングは好きなんだろ?」

 僕はしゃくりあげながら頷いた。

「・・・こんなことはめったにない、自分でもなんでこんなことを言い出すのか不思議なくらいだよ」

 大男は腑に落ちない、というような顔で僕を見た。

「でも今おまえを引き渡したところでたいした金にはならん、それより、オレの手伝いをしてもらう」

 大男が次に言った言葉が、唐突に子供のころ、父親から言われた言葉に重なった。

「困っている人を助けるのが、オレたちの仕事だからな」

「困ってる人、友達やみんなを助けてあげられる人になるんだよ」

 少し違っていたけど、意味は同じだった。

「おまえ、おれのバックアップをしろ」


「終わった?」

 おじさんが店から出てきた、手に握られているのはペンキで黒く塗られた箒だった。

「まあね、こいつうちの新入りになったから、よろしく」

 僕がショットガンだと思ったのはこの箒だった、おじさんは箒をゴルフのようにスイングさせながら言った。

「そうかそうか、でも用心棒代は払わんよ」

「残念だな、せっかく捕まえたのに」

「まあ、さっきの氷はおごってやるよ」

 ・・・僕は腹黒い大人達にだまされているのかもしれない。


 学校は休学した。

 家賃は取られないかわりに、大男と同居して、家事全般をさせられていて、仕事になれば行き当たりばったりの指示で走りまわされる。

 数日前は寝ようとした途端に起こされて、隣家に押し入ろうとした少年を追いかけた。

(大男は勢いだけはすごかったが、射撃はデタラメだった、結局、僕が三人とも足を撃って取り押さえた)


 今日は昼間から女二人組みの強盗を捕まえて、その後焼けるような道路で遺失物探しをした。

(女たちは大男が偽証したせいでただの窃盗になった)


 人使いは荒いし、これが人助けなのかよくわからないが、結構楽しい。

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