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空手バックパッカー

空手バックパッカー外伝 映画の巨匠

作者: 冨井春義

拙作「空手バックパッカー放浪記」は私のホラ話を小説化したものです。


これから語るお話も同様にホラ話なので、あまり真に受けないで話半分で読んでいただきたいのですが、エピソードそれ自体は私が実際に体験した出来事を元にしています。


199X年のある朝、バンコクでのことでした。

その日はわりと早く起床したので、朝食を摂るために定宿である**innのロビー兼食堂に降りて行きました。


テーブルについて宿の女の子に朝食セット(アメリカンブレックファースト)をオーダーし、本を読みながらくつろいでいました。しばらくして運ばれてきた朝食についているオレンジジュースで喉を潤したころ。


ひとりの白人の初老の紳士がロビー兼食堂に降りてきました。

ジャングルにでも出かけるかのようなサファリルックに身をかため、顔中に白髪交じりの髭をたくわえています。

知性と教養そしてワイルドさを兼ね備えた面白い風貌の男性です。


私の姿を見留めると

「おはよう。ここに掛けてもいいかね?」と聞きます。

おそらくは一人旅なので、話し相手が欲しいのでしょう。


「どうぞ、お掛けください」私も暇なのでそう答えました。


席に着いた男性はすぐに宿の女の子に私と同じ朝食セットをオーダーすると、私に話しかけます。


「君は日本人だろ?ミフネが亡くなったな」

最近亡くなったミフネといえば、日本を代表する俳優・三船敏郎しかいません。


「ええ、亡くなりました。残念です」私がそう答えると


「君は映画が好きかね?私は日本の映画が大好きなんだ」


「そうなんですか?それは日本人としてとてもうれしいことです」


「アメリカ人の中には日本映画のファンは多いよ。もっとも大半のアメリカ人はアメリカ映画しか観ないがね」

男性は相好を崩して言いました。かなりの映画好きのようです。


「日本の映画監督としてまず挙げるべきはやはりクロサワだ。彼は世界の映画を変えた巨匠だよ。ミフネはクロサワの映画で輝きを得たスターだ」


朝食を食べながら・・ここから男性はとにかく饒舌に熱く日本映画のすばらしさを語ります。

とても長い話だったのですべては覚えていませんし、割愛しますが特に印象に残ったのは


「クロサワのマルチカム映像はたしかに素晴らしい。しかし、私がもっともすごいと思うのはオズ・ヤスジローだよ」でした。


「普通の映画ではカメラが役者を追いかけるだろ?オズの映画ではカメラは定位置なんだ。役者がカメラに近づいたり遠ざかったりするんだ。それが彼独特の味わいある映像の秘密なんだ」


いわゆる映画オタクです。語りはじめたら止まらないタイプです。

しかし私も映画は嫌いではないので、別に不快感はありません。


「へえ、そうなんですか。僕はそれほど考えて映画を見たことがありません。あ、でもこのタイを舞台にしたアメリカ映画がありますよね、あれ好きです」


「ほお?どの映画だね」


尋ねられた私は、答える代わりにその映画のテーマソングを歌いました。

日本ではかなり有名な替え歌で・・・


「♪サル~ゴリラ、チンパンジ~♪」


メロディは日本人ハリウッドスターの草分けである早川雪舟が出ていた映画『戦場にかける橋』の主題曲です。


男性はそれを聞いて大爆笑しました。


「Ha Ha Ha!・・それは日本語バージョンかい?日本語タイトルはなんというんだ?」


「クワイ河マーチです」


「OH!クワイガン・マージン?クワイガン・マージン!Ha Ha!なんという美しい響きだ。覚えておくよ」


こんなのがすごくウケたのが意外でしたが、とても楽しい会食になりました。

男性も楽しかったようで最後にこう言いました。


「ありがとう、日本の映画ファンと話ができてとても楽しかったよ。私はジョージだ。君は?」


「トミーです」


「ありがとうトミー。またどこかで出会ったら映画の話をしよう。では私はこれで失礼する」


そういってジョージと名乗る男性は宿を出ていきました。


・・・・・


数年後。


私は日本でテレビを見ていました。


映画『スターウォーズ』シリーズ4作目にあたる『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が間もなく公開されるというニュースです。

前作より実に16年ぶりに、ついに最初のエピソードが明かされるということでとても興味がありました。


監督でありプロデューサーである、映画の巨匠が自ら製作の意気込みを語る映像が流れています。


白髪交じりの髭を顔中にたくわえた、知性と教養とワイルドさを兼ね備えた風貌。


・・・あれ?この人は。。いや、まさかな。。


それからじばらくして公開された『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を観に映画館に行きました。


主要登場人物のひとりの名前に、私はびっくりしました。


前作ではルーク・スカイウォーカーの師匠であったオビ=ワン・ケノービの若き日の師匠の名前。


クワイ=ガン・ジン


バンコクの安宿で「クワイガン・マージン!Ha Ha!クワイガン・マージン!」と大喜びしていたジョージを思い出したからです。


・・・いや、しかし。。まさかな。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 旅には思わぬ出会いがある。と考えると肩書を気にせずに人と接するのも旅の良いことかもしれないのかなと思いました。
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