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魔族だけどダンジョンに行きたい!  作者: 北緯45
第一章 クォール神殿遺跡
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第八話 決意

 アシュレイは恐怖を感じていた。


 それは自分よりも遥かに上の実力を持った、強者と対峙した時に抱くものとは違い、どちらかと言えば、自分の経験や知識上には当てはまらない、予想を遥かに上回る、理解不能の敵を相手にしているような気分になったからだ。


「貴女、よく食べるわね」

そふゅでふか(そうですか)?」


 自分に向けられるその瞳は、一向に翳りを見せる様子もなければ曇ることもなく、より強く輝きを増しているようにも思えた。


「何かのコンテストとかに出たことはなくて?」

なひでふね(ないですね)


 並の人間であれば、とっくに限界を越えているはずだった。

 ざっと計算すれば、すでに50人分以上に相当する菓子を食べたというのに、ルシアの食欲は一向に衰えを見せる気配が無い。


 自分が作ったものを素直に喜んで食べてくれるルシアに、初めのうちは好感を抱いていた。

 もっとも本当の狙いは、菓子攻めにされたルシアが苦しむ様子を見るためだったのだが、逆に自分が振り回され、おちょくられているように思えてくる。


 リスのように頬を限界まで膨らませたルシアを見ているうちに、アシュレイは憤りを感じ始めていた。


「残念だけど、お終いよ」

「えー!」

「だって、材料がなくなったんだもの。みんな貴女が食べちゃったから」

「!?」


 その言葉を聞いたルシアは焦った。

 時間を出来るだけ引き延ばすことを目的にしていたのだが、これ以上は望めそうにないからだ。

 

 アシュレイは、ほっと息をついた。

 ようやく次の計画へと進むことが出来るからだ。

 ほんのお遊びのつもりが、かえって泥沼に足を突っ込んでしまった。


「アシュレイ様」

「あら、何かしら?」


 声を掛けられたアシュレイは、そそくさとカーテンの向こう側へと姿を消した。

 一人取り残されたルシアは、迫りくる人生最後の瞬間を想像し悲嘆にくれたが、諦める気などなかった。

 

 この場から脱する手段が皆無だとしても、希望を捨ててはいけない。

 何が起こるか分からないのが、この世の常なのだから。


「ちょっとお邪魔が入ったみたいだから、出かけて来るわね」


 ひょいとカーテンの隙間からアシュレイが顔を覗かせた。


「貴女のお仲間かしら?まあいいわ、ちょうどモヤモヤしてたから気分転換して来るわね」


 ルシアは絶望の中に光明を見い出した。

 同胞であるクルセイダー達が自分を探しに来た、そう思ったからだ。

 

「その前に、ご挨拶してもらおうかしら」


 アシュレイがそう言うと、台座の周りを取り囲んでいた紅いカーテンが床に落ち、隠されていた部屋全体の光景がルシアの目に飛び込んできた。


 首の無い巨人の上半身が、正面の壁から生えているように見えた。

 

「我らが神、クォールの依り代よ。素敵でしょ、とっても」


 言葉を失ったルシアを満足げに見ながら、さらにアシュレイは追い打ちをかけた。


「この後どうなるのか、ゆっくりと考えてみてね。じゃあまたね、ルシア」


 アシュレイが去った後、ルシアは心に決めた。

 拾い食いは二度とやめよう……と。

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