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魔族だけどダンジョンに行きたい!  作者: 北緯45
第一章 クォール神殿遺跡
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第五話 リバハレ

 マグナの額にロゼは手を当てていた。

 紫色の仄かなベールがマグナを包み込む。


 属性診断(アテテュード)

 

「マグナさんの属性は間違いなくニュートラルですね、残念ですが闇属性強化魔法をかけても、期待できるほどの効果は望めないようです。出来うる限りダンジョン内の魔物を支配するように努めてみますが、万が一に備える必要がありますね」


 人間であるマグナにとって、神殿内は危険地帯だった。

 魔族であるロゼやセクタがいても、魔物の敵意が彼に集中してしまうことは避けられなかった。


「すみません、僕がお荷物になってしまって」

「気にしないで下さい。ほとんどのダンジョンは魔力を根源にしていますから当然のことです」


 弱気になるマグナへ、ロゼは仮面を手渡した。

 白と黒でデザインされた、目の部分にだけ切り込みの入った無表情の仮面。


「これは?」

「私達魔族も生まれつき魔力が高いわけではありません、それに必ずしも同族が味方であるとも限りません。そのため強力な魔力を封じ込めた魔法具に頼ることになります、この仮面はそのひとつ。これを付ければ神殿内のほとんどの魔物は、マグナさんにやすやすと手出しはしないでしょう」


 ロゼはマグナに微笑みを見せた。


「魔法具ですか、そんな大事な物を借りるわけには」

「大丈夫ですよ、スペアですから」

「そうですか、スペアということであれば遠慮なくお借りします。本当に助かります」


 物珍し気に仮面を見るマグナを、ロゼはじっと見つめていた。


「なるほど、紐を頭の後ろに結んで固定するのか、かなり密着しそうだから息苦しくならないかな?」


 ロゼがマグナに手渡した仮面はスペアではなく、長年彼女が使い続けていた愛用の品だった。

 間違えたのではなく、あえてそれを渡したのだ。

 慌ててはいけない、とロゼは自分に言い聞かせていた。


 いつ何時も自分と苦楽を共にした愛用品が、若き青年の手に今はある。

 辛く苦しい修業時代から身に着けていた仮面には、自分の汗と涙、その他諸々が深く染み込んでいた。


 よく見ればマグナは、人の中でも美形の部類に間違いなく入るだろうという予想をロゼはしていた。

 無精に伸びた前髪が邪魔をして、はっきりとした顔立ちが分からなかったのだが、仮面を被ろうとかきあげた前髪の下に隠れていたそれを見て、ロゼは確信した。


 彼はイケメンだ。


 魔族の異性関係は、恋愛感情よりも信頼が優先する。それに続くのが血統や才能であり、ロマンスとは程遠いものだ。

 心躍る冒険の世界にロゼが身を投じようと決めたのも、禁断の蜜を味わうためでもあった。

 同族同士では味わうことの出来ない、立ちはだかる種族の壁に阻まれた、悲しくも儚い物語。

 もちろん仲間同士で、困難を乗り越えた先にある達成感を共有するというのも嘘ではない。


 ちなみにロゼは483才だった。


 長命であるがゆえに、魔族と言えどいつかはその時が訪れる、そう信じていたロゼだったが、やがてそれは叶わぬ夢となりつつある。


 ロゼはマグナを見つめながら、自分に強く言い聞かせる。

 焦ってはいけない、落ち着かなければ、冷静に冷静に、ここは我慢だ辛抱だ。


「うーん、もう少し紐が太ければ楽に結べそうなんだけど、難しそうだな」


 はやくしろー!


 いやダメだ、自分でチャンスを潰してはいけない、冷徹の黒薔薇として魔戦将軍にまで昇りつめた自分がこの程度のことで己を見失うわけにはいかないのだ。


「手伝おうか?」

「助かります」


 腰を下ろしたマグナの後ろにセクタが立ち、仮面を受け取った。


「きつめでいい?」

「うん、初めはそれで。苦しかったら直してもらおうかな」

「ほいほい、痛かったら言ってね」

「はい、お願いします」


 よっしゃ!もうちょい!


 あと少しで、禁断……の…………間………………接……………………キ…………。



 ばたりとロゼは倒れた。



「大丈夫ですか?」


 マグナは慌てて立ち上がり、ロゼの元へと駆け寄った。

 が、ロゼの表情を見たマグナはこう思った。


 何故彼女はこんなにも、幸せに満ち足りた顔で気絶しているんだろう?


「あーやっぱりこうなったか」

「やっぱり?」


 セクタは楽しそうに笑った。


「ロゼってさ、ノーピュアでリバハレ好きなんだよね」

「ノーピュア?リバハレ??」

「ノーピュアはノーマルピュア、純潔の乙女ってことだよ」

「そうなんだ、リバハレというのは?」

「リバハレはリバースハーレムの略。ロゼって物凄く真面目なんだよね、努力家の読書好きでさ、リバースハーレムは魔族の間で有名な出版社が出している、恋愛小説のシリーズのことなんだよね。昔からロゼはそれにハマっててさ」


 セクタの説明を聞いたマグナだったが、今一つ掴めていないのか首を傾げた。


「読書好きとは思ってたけど恋愛小説も読まれるとは、てっきり冒険小説の方かとばかり」

「まあ一緒に長くいれば、そのうち色々と分かるようになるよ」

「わかった、心得ておくよ」


 マグナの言葉に、セクタは大きな声を上げて笑った。

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