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魔族だけどダンジョンに行きたい!  作者: 北緯45
第一章 クォール神殿遺跡
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第三話 落ちこぼれの聖職者

 ルシアは自分の境遇を不幸だと思った。


 人々に救済の手を差し伸べ、時に艱難辛苦を分かち合い、共に喜びや悲しみを享受する。

 辺境の地にある小さな教会のシスターとして、自身を人々の為に捧げることが彼女の理想だった。


 質素で禁欲の生活を健気にも耐え忍び、やがて誰しもが自分の事を女神のように敬い、褒め讃える。

 シスター様、シスター・ルシア様。


 そんな彼女の夢は、ある日突然打ち砕かれた。 

 聖職者としての道を歩み始めてから三年、教会本部の命令で彼女はクルセイダー部隊に配属されることになったのだ。


 絶望の淵に追い込まれたかに見えたのだが、至ってポジティブな性格の持ち主である彼女は、自分の夢を再構築することにした。


 荒んだ戦場の最中、傷ついた兵達を癒し労い奮い立たせる。

 殺伐とした苦境に咲く一輪の花。

 そして思いがけなく運命の出会いが訪れる……




 ……はずだった。




 彼女はいま、クォール神殿遺跡の一室にいた。

 

「すみませーん、誰かいませんかぁー?迷子さんがここにいますよー!」


 生まれつき方向音痴だったルシアは、訓練途中に仲間達とはぐれ、迷宮を彷徨った挙句にトラップに引っかかっていた。


「すごいお宝が沢山付いてきちゃいますよー!金銀宝箱がザックザク!早い者勝ちですよー!」


 偶然お宝部屋を見つけた彼女は、不用心なことに警戒もせずに飛び込んだのだ。

 彼女が財宝に魅せられている間に、お約束通り扉は閉ざされ、気づいた時には手遅れだった。


 青銅色の扉は分厚く、一番硬そうな宝箱を投げつけてみてもびくともしなかった。

 大声を出したところで、外へ漏れ出すことも無い。

 残念なことにルシアは攻撃系の魔法が使えなかった、まあ使えたとしても期待は出来ない。


「こうなることは初めから分かっていたことだし、焦りは禁物だよね」


 ルシアは肩に下げていた自分の鞄から、こっそり入れておいた菓子を取り出すとおもむろに食べ始めた。

 いつ出られるかも分からない状況だったにも拘らず、彼女はあっという間に手持ちの菓子の半分を平らげていた。


「やっぱり向いてないんだよ軍隊なんて私には、こうなったのもみんなあのハゲ親父のせいだ!それと司祭部の幹部たち、何が聖職者だ!いやらしい目で私達をいっつも見ているくせに、あれって明らかにセクハラだよね、権力乱用も甚だしいったらありゃしない!」


 お宝部屋に使われている壁は発光する材質で出来ているのか、室内は街燈並の明るさで満たされており、それがシエルを過度な不安から遠ざけてくれていた。


「…………もしかして私、ここから一生出られないんじゃ……」


 ぶんぶんとルシアは頭を振り、自分に活を入れる。


「こんなことでへこたれるシスター・ルシア様じゃないわ!担当区域の教会五か所のトイレ班長だった実力は伊達じゃなーい!」


 いつの間にかルシアは錆びた剣を握りしめていた。


「あれ?こんなものあったかしら?」


 ふと気づけば彼女の足元には白骨化した兵の姿があった。



「っきゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 錆びた剣を振り回しながら、その場を飛び退いた彼女は回復魔法を連呼する。


「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!はあはあ、ヒーーーーール!」


 ふと我に返る。


「はあはあ、死体を回復させても意味無いんだった、ピリュフィケーション!」


 既に昇天済みの死体には、なおさら意味が無いということに気づくまでにさらに数分を要した。


「あ、まずい、何だかもよおしてきちゃったよぉ。動き回っちゃったせいかな?神殿に入る前に用を足しておくんだった、あーもう失敗したなぁ。緊張で喉が渇くんだもん」


 両足をモジモジさせながら部屋の中を見回すが、トイレ完備のお宝部屋などありはしない。

 

「マズイマズイマズイ!どうしよどうしよどうしよ!?空腹を和らげる魔法があるのに、トイレを我慢できる魔法が何でないんだよぉ!」




 神殿の外はすっかり陽が落ち、クルセイダー部隊の仲間達はとっくに引き上げていた。

 悲しいことに撤収時に必ず行われる点呼が、この日ばかりは行われなかった。

 本部から緊急の出動要請が入ったからである。

 ルシアの存在をすっかり忘れた彼らは、次の遠征地に向け移動を開始していた。

 



 ルシアは部屋にあった宝箱を積み上げ簡易トイレを作った。

 不幸中の幸いと言うべきか、部屋の隅に排水口を見つけたからである。


 最悪な状況を脱した彼女は仲間達の動向を知る由もなく、不意に訪れた睡魔に抗おうともせず、今度は寝床を作り始めた。


「金貨のベットって、ずいぶん贅沢だよね……おやすみなさい」


 ゆっくりと近づく音にも気づかぬまま、ルシアは深い眠りに落ちた。

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