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魔族だけどダンジョンに行きたい!  作者: 北緯45
序章
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第一話 冒険の始まり

「行きたい場所とかありますか?」


 会ったばかりの若い冒険者はギルドの建物から外に出ると二人に尋ねた。

 ロゼとセクタはお互いに顔を見合わせる。


「無いですね、むぐっ!」


 深慮をせずに即答したセクタの口をロゼが慌てて塞いだ。


『あほか!何も考えていないふうに思われたらどうするの!』

『だって実際そうじゃん』

『そりゃ無いけど別の言い方があるでしょ!パーティー初心者なのでお任せします、てへっとか色々と』

『めんどくさいもん、てへっ』

『長いお付き合いをしてもらいたい相手には、最初の印象がすごく大事なんだよ。やっと巡ってきたチャンスなんだし』

『まあ確かにそうだけど』


 小声で話す二人の目の前に、彼は鞄から羊皮紙に描かれた地図を取り出して見せた。


 サイハテールの町を取り囲む森林には、数多くの遺跡や自然に出来た洞窟などが点在しているのだが、冒険者達によって調査が済んだ場所には、名称がつけられ地図上に記載されていた。


「ここに行ってみたいんですが、どうでしょう?」


 彼が指差したのは、歩いて半日ほどの場所にある古い神殿遺跡だった。


「クォール神殿遺跡ですか」

「はい、古代邪神信仰が行われていたという地下神殿です。調査はほとんど終わった場所ですが」

「何もないところじゃん」

「セクタ!」

「だって、えーとお兄さんが行きたいクォールは、結局お宝が出ずじまいで今やレベリングの聖地で有名なところだし」

「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」


 セクタの言葉で思い出したのか、若い冒険者は深々と頭を下げ姿勢を正した。


「僕はマグナ、年齢は十七、出身はグランデ王国。職業は考古学者ってことになるのかな。武技と魔法はそれなりに使えるので迷惑をかけることは無いと思います。よろしくお願いします」

「学者さんなんですね。十七歳って、落ち着いているからもっと年上なのかと思いました」

「ずいぶんと地味な仕事をしているんですね」

「セクタ!失礼だって!」


 ハハハ、と笑い声をあげたマグナに二人は逆に驚いた。


「確かに地味ですよね、それにはっきり言ってもらった方が僕も気が楽です」

「本当にすみません、ほら、セクタも謝って」

「はいはいごめんなさい」


 本気でセクタに殴りかかろうとしたロゼをマグナが宥めた。

 見た目は普通の人間と変わらない二人だが、彼女達は魔に属した者特有の雰囲気を纏っていたため、他者に本能的な警戒心を抱かせてしまうことが度々あった。

 ロゼが相手に対して丁寧な言葉遣いを心掛けているのは、相手を必要以上に刺激させたくないという思いからでもあった。

 腕に覚えのある冒険者であれば、それが害を成すものか否かを見極めることが出来るのだが、一人この地を訪れたマグナは、彼女達を前にしても恐れや警戒といった態度を見せずにいたことから、それなりの実力者であることが伺えた。

 

「ではこちらも、私はロゼと申します。死霊使い、です」


 マグナの反応を待つかのように、ロゼは自己紹介に区切りをつけたのだが、彼は何ら訝しむ様子もなく楽しそうに次の言葉を待っていた。


「……冒険者に憧れてここに来ました。仲間と一緒に出来れば世界を旅することが夢です」


 簡単な自己紹介でも、ロゼにしてみればかなりの勇気が必要だった。

 普通の人間であれば多少砕けた言い方でも問題はないのだが、あらぬ誤解をされるのではといった心配があった。


「次は私か……」


 滅多に動揺することのないセクタも、この時ばかりはさすがに緊張していたようだった。


「セクタ、です。妖蟲使いです。ロゼとは昔からの腐れ縁で彼女について来ました。やりたいこととか特に無いんですが面白そうだったので」


 無作法な物言いだとロゼは思ったのだが、彼女なりの誠意が感じられたことから咎めはしなかった。


「なるほど、どうやら僕達はお互いに事情を抱えた者同士のようですね」


 その言葉にロゼとセクタの体がぴくりと反応した。

 出会って僅かばかりの間にすべてを見透かされたような、そんな気持ちになったからだ。

 それに彼自身も訳アリであると仄めかしたことに少なからず関心を覚えた。


「一緒に長く旅を続けられる、良い関係になれるといいですね」


 マグナの言葉は、期待と不安が入り混じったようにも聞こえた。




 $$$


 

 

 偶然にも揃って同じ黒色のローブを着ていた三人は、傍から見れば怪し気な一行なのだが、鬱蒼と草木が生い茂る森の中では彼らを不審に思う者など一人もいなかった。

 興味を抱いているのは木陰に身を潜めた獣達くらいなもので、気配を悟られぬよう息を殺しながら距離を取り、三人の後を追っていた。


 未開の地であるがゆえに道は整備されておらず、所々に大きな石が転がっていたり、寿命を迎えた巨木が進路を塞いだりしていたのだが、幸い天候には恵まれていたため、三人は足を休めることなくほぼ予定通りの時間で目的地に着くことが出来た。


 クォール遺跡の入り口は坑道のそれと酷似しており、最深部となる神殿は地下十階にあった。

 記録では古代邪教の聖地ということもあり、内部の至る所には悪霊や不死となった者達が彷徨い歩いており、侵入する者達に容赦なく襲い掛かっていた。

 そのためいつの頃からか、神の加護を力の源とする聖騎士や僧侶などの聖職者達の間では、格好の修練の場として広く知られるようになっていた。


「クルセイダーか、まずいですね」


 神殿の入り口が見える辺りで、マグナの指示に従い二人は木陰に身を隠した。


「思ったよりも聖職者のパーティーが多いみたいです。余計な揉め事は避けたいですね」


 正面の入り口には修練に訪れたと思しき聖職者達がおり、その数はおよそ三十人ほど。

 冒険者達ではない彼らにはギルドのルールが通用せず、厄介な無法者達でもある。

 もっとも純粋な神の僕を自負する彼らは、ロゼやセクタにとって天敵のような存在だった。


「無視すればよいのでは?」

「彼らは聖職者の中で最も過激な武闘集団です。聖戦を大義名分にして諸国に攻め入ったりする厄介な連中ですね、こちらに敵意はなくとも言いがかりつけられる恐れがあります」

「それって魔族よりもひどくね?」

「ある意味そうですね、正面からは諦めた方が良いかもです。まあ元々そのつもりでしたが」


 肩に下げていた鞄から手帳を取り出したマグナは、ペラペラと捲り、とあるページを二人に見せた。


「神殿の入り口は他にもあります、正面よりも狭いのが難点ですが」

「汚い字」

「こらセクタ!」

「はは、これを書いたのは僕じゃありませんから、別に気にしてないですよ」

「そうなんですか?」

「はい、知り合いから譲り受けた物なんです」


 そのページには神殿の地図が雑に描かれており、正面以外の入り口の位置が記されていた。


「へえ、何だか面白そうじゃん」

「冒険ぽくなってきましたね」


 目を輝かせた二人が感想を漏らすと、マグナは楽しそうな笑みを浮かべた。


「では移動しましょう、お楽しみはこれからですよ」


 マグナの後に続きながら、ロゼとセクタは胸の高鳴りを感じていた。

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