-8- -ノアル大洞窟捜索-
本当はもっと洞窟の中を詳しく描写したかったのですが、
機会があればダンジョンだけの話とかもやりたいですねえ。
レオナルドとティナ、そしてパレットの3人は、ノアル大洞窟中腹に居た。そろそろ並の冒険者であるなら、根を上げ引き返す頃である。しかし、3人の目的がネオの救出である以上、引き返すという考えは芽生える筈も無く、まるで帰りの体力を無視するかの如く、力強く歩を進めていた。
「ティナ、大丈夫ですか?」
パレットが心配そうに尋ねる。
「大丈夫よパレット、私だってもう子供じゃないんだから、その心配性そろそろ直してよね」
先頭を歩くレオナルドは、二人のやり取りを聞いて久しぶりに笑顔がこぼれた。
洞窟は、あちこちに危険な突起があり、レオナルドは逐一後ろの二人に報告しながら、奥へ奥へと進んでいった。
途中、稀に地表に出て、作物を荒らす大トカゲの巣があり、レオナルドは誤って巣に触れてしまった。中から2匹、巨大な大トカゲが飛び出し襲ってきたが、レオナルドは素早く腰の剣を抜き、鬼神の如き強さで退治した。
「お父さんってそんなに強かったんだ」
ティナは驚いた表情でそう言った。仮にもレオナルドは騎士団の一番隊隊長だった男である。娘がそれを知らぬ訳は無く、家では立場の弱いただの父親なのだとパレットは考え、思わず笑った。
「もちろんですよティナ、隊長は騎士団の中でも無敵の強さだったんですから。隊長と互角にやり合えるのは、世界広しと言えど、数える程です」
パレットは自分事のように嬉しそうに話した。
「馬鹿なことを言うなパレット、私が稽古で何度もネオに負けてるのを知ってるだろう。それに私も老いた、今はお前の方が強いだろ? ほら、年寄りばかり先頭を歩かせるな! 代われ、パレット」
「了解了解!」
変に持ち上げられ、恥ずかしくなったレオナルドは、照れ隠しにそう言い、続いてパレットが先頭に立った。
小一時間程洞窟を下ったであろうか、パレットが奥の暗闇を見て、手で後ろの二人を制した。
「止まって!」
二人は恐る恐る奥を覗くと、小部屋の様に少し広い空間に、3メートル程の背丈の巨人が、先程の倍はあろうかという、大トカゲを食していた。3人の持つランタンの光が少し漏れ、巨人がこちらを確認した。
「オークです、どうやら下の階層から迷って上がってきたようですね」
オークとは、人間に似た種族で、主に地下に生息する体長3~4メートル程の巨人である。皮膚は固く灰色掛かり、滅多に人前には出ないが、過去に町を丸ごと壊滅させた凶悪な種も確認されている。
空腹時のオークは非常に好戦的で、人間など例え何人で挑もうとも、子供扱いされる程の怪力を持っていた。3人掛りで戦っても、かなりの苦戦を強いられることが容易に予想出来た。
オークは自分の獲物を横取りされると勘違いしている様で、激しくこちらを威嚇している。
パレットは二人をこれ以上奥に行かせない様、左手で制し、右手にマナを集めだした。周囲の元素がパレットの右手に圧縮されていくのが、目で確認出来た。そして周りを見渡すと、
「あそこから下層に降りれそうです、あいつは私が引き付けますので、お二人はそのまま行って下さい」
そう言い出した瞬間、パレットは走り出し、二人から引き離す為、オークの脇をすり抜けようとした。
オークは咆哮を上げ、怒りを露にし、巨体ながら素早い動きでパレットに拳を打ち下ろした。
パレットは間一髪かわし、洞窟内が一瞬揺れたかと思う様な、激しい爆音を上げ、拳が地面に激突した。辺り一面、細かい岩石が凄まじい速度で飛び散り、レオナルドの頬にも幾つか当たった。
「パレット!!」
レオナルドは叫んだ。パレットはかわしつつ、左手で下を指差し、早く行けと指示した。レオナルドは仕方なくティナの手を取り、下への通路を下った。
オークがレオナルド達の方を向き、追う素振りを見せたので、すかさずパレットは後ろからオークの左肩に飛び乗り、右手のマナを開放した。
「行かせませんっ!!」
パレットは張り手の様に、オークの横顔を叩いた。同時にオークの顔面が大きな炎で包まれた。
「グガガグオオォォォーーー!!!!」
激しく吼え、苦しそうにオークは悶えながら、そこら中に拳を振り回した。間違いなく一撃でも当たれば即死である。まだ終わらないと感じたパレットは、かわしつつ右手に再びマナを集める。先程よりも遥かに集中し、マナを練り上げていった。
暗闇の中で発生した光が、吸い込まれる様にパレットの右手に圧縮されていく。圧倒的な高密度のマナを維持し、パレットはオークの右拳を身体の外側でなく内側にかわした。腕程あるオークの親指が、パレットの左頬を掠め、顔から血のしぶきが舞った。それでもパレットは全くためらわずオークの左胸、人間で言う心臓の部分に右手を当て、マナを開放した。
オークの背骨が砕ける大きな音がして、背中から扇状に炎が飛び出し、側壁にこびり付いた。飛び散った炎は暫くそのまま燃えていた。
オークは絶命し、激しい音を立て、うつ伏せに倒れた。パレットはかなり消耗しているのか、肩で息をしている。
「すまない、君達の暮らしを脅かすつもりはなかった。許してくれ」
パレットはそう言い残し、二人の後を追った。
レオナルドとティナは、斜めに下る細い通路をひたすら奥へ奥へと進んでいた。
「お父さん! パレットが! 置いていく気なの?!」
「心配するな! もう少し広い場所にお前を置いたら、すぐ助けに戻る!!」
そう叫んだレオナルドであったが、やはりティナの手を引きながらの行動は、かなり早さを制限された。しかし中途半端に近い場所で別れた場合、オークに逃げられでもしたら、ティナ一人では一溜りも無い。そうこうしていると急に視界が広がった。今まで見た中で一番大きな空洞であった。
レオナルドは大広間ほどある大きな空洞の、流れる川の辺りまでティナを連れて行き。
「よし! ティナはここで待っていろ! 私は助けに行く!」
そう言い残すと、きびすを返しパレット救出に向かった。しかし空洞の入り口付近から声がした。
「その必要はありませんよ」
パレットがゆっくり姿を現した。
「パレット!!」
「パレット!!」
レオナルドとティナが同時に叫んだ。パレットは頬から出血していて、左手で押さえていた。
「パレット! 無事か! 顔をやられたのか?! オークは、オークはどうした?!」
レオナルドは心配そうにまくし立てる。
「かすり傷ですよ、オークは退治しました。それより隊長、ネオさんのいる大きな空洞ってここじゃないですか?」
レオナルドは我に返って辺りを見回す。
大きな広間の様な空洞、傍に流れる川。ジークに聞いた風景と似ている、レオナルドは確かに此処だと確信した。




