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ルーンブレイド  作者: さくらんぼえっくす
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 -4- -希望-

希望が見え始めた話です。

色々と隠れた設定が裏にはあるのですが、出す機会があるのかどうか。

 レオナルドに、衝撃の情報が飛び込んできたのは、ほんの1週間ほど前のことである。城下町の酒場で、いつも通り一人で安酒を飲んでいると、ふいに隣のテーブルの会話が耳に入って来た。



「本当なんですよ! 人が氷付けになっていたんです! それも生きたまま!」



 旅人風のローブを着た男がそう言うと。


「我々ギルドでも、あの洞窟にはよく足を踏み入れますが、そんな物は見たことも聞いたこともありませんよ」


 もう一人の、恐らくギルドの人間であろう男がそう否定する。


「だから、あなた達がまだ確認していない、深い階層にいるんですよ!」


 男は食い下がる。


「ジーク様はお一人で入られたのでしょう? 我々がいつも捜索隊を結成する場合は、6人のメンバーで入ります。捜索メンバー4人に医療メンバー2人、内部の構造も把握してますし、そんな我々より深い階層まで到達するなど、とてもとても……」


 ギルドの男はあり得ないという感じに肩をすくめ、首を振った。



 見た見てないの口論を隣で聞いて、レオナルドは正直どっちでもよかった。プイッと反対方向を向き、酒を飲みなおした。氷というキーワードがレオナルドの意識から離れなかったのは、2人の生存を最後まで信じていた所以であることは、言うまでもない。


「氷…… まさか!?」


 負けるはずがなかったのに負けた戦、ネオとギルバート、そして氷付けの人間、頭の中でバラバラになっていた考えが一つの答えへと走り出した。

 レオナルドは立ち上がり、ジークと呼ばれていた男の肩を叩いた。


「すいません、私はレオナルドと言います、盗み聞きをするつもりはなかったのですが、先程仰っていた氷付けの人間の話、詳しく聞かせて貰えませんか?」


 ジークと呼ばれていた男は、振り返り、不思議そうな顔でレオナルドを見たが、すぐに元の顔に戻り、こう言った。


「ええ、構いませんよ、どうぞ座って下さい」


 そう告げられたレオナルドは、勢いよく音を立て、椅子に腰掛けた。自分のテーブルに置いている酒のことなど、頭の中から消えていた。ギルドの男は、どうぞと言わんばかりに手で招き入れる仕草を見せた。レオナルド軽く会釈し、ジークと呼ばれた男と向かい合った。



「私の名前はジークと申します、見ての通りただの旅人です」


 ジークは丁寧に自己紹介した。


「あ、ああ、ご丁寧にどうも、私はレオナルドと言います」


 レオナルドは、前のめりになっていた所を、慌てて姿勢を戻し、自己紹介を返した。すると、今度はギルドの男が立ち上がり。


「それでは、私はまだギルドの仕事が残ってますので、この辺で失礼します」


 二人に向かって丁寧にお辞儀をした。


「フィリップさん、色々と世話になりました」


 ジークは軽く右手を上げて、別れの挨拶をした。


「ジーク様も、レオナルド様も、飲み過ぎにはくれぐれも注意して下さい。では」


 そう言い残すと、フィリップと呼ばれたギルドの男は酒場を後にした。




「お待たせしました、で、何をお知りになりたいんでしょうか?」


 ジークは一つ咳払いをし、改まってそう言った。


「ああ、さっき話していた氷付けになっていた人間の特徴を教えてほしいんだ、もしかしたら昔の仲間かも知れない」



 レオナルドは、元騎士団出身であることや、先の大戦での折に、戦死したと告げられた騎士団の仲間を、今も探している旨をジークに伝えた。



「そうでしたか、それはさぞかし大変でしたね」


 ジークはレオナルドの心中を察し、言うべきかどうか悩んでいた。



 暫く沈黙が続き、ジークは意を決したのか、うつむいていた頭を上げ、重い口を開いた。


「非常に申し上げにくいんですが、氷付けの人間は、オーランド王国護衛隊の男だと思います」


 ジークは申し訳なさそうな顔でそう呟いた。



「な、なんだって!?」



 レオナルドは自分の推理が外れ、希望を断たれた衝撃に、めまいでその場に倒れそうになるのを必死で堪えた。





 長い沈黙が訪れた、といっても、実際には10秒程であろうか、落胆しているレオナルドに対して、ジークは自分の発言を証明する義務があると考え、更にこう付け加えた。


「その男は、腰に剣を2本差していたのですが、その内の1本にオーランドの紋章が刻印されていました」

「実際にオーランドにその男が居た記憶はないのですが、あれは間違いなくオーランドの紋章でした」


 ジークは、最後通告をレオナルドに告げてしまったことに、心を痛めた。が、ジークの思いとは裏腹に、レオナルドは頭を抱えていた手を解き、驚いた表情でジークを見た。



「そのオーランドの剣、柄が黄金で、(つば)が翼の様になってなかったか?」



 一握りの希望に賭ける様な、そんな訴えかける表情のレオナルドに、ジークは驚きを隠せなかった、あの珍しい剣の特徴を全て言い当てていたからだ。


「あ、はい、確かに鍔は、鳥が羽ばたいている様な形をしていました」



 レオナルドは細かく震えていた。



「ネオだ、間違いない! ネオ・マクスウェルだ! あの野郎やっぱりそうか!」


 ネオという男に対して、怒っているのか、喜んでいるのか、どちらとも判らない表情で、レオナルドは大声で叫んだ。



「しかし、間違いなくオーランドの紋章がありましたよ」



 ジークは、レオナルドの興奮を鎮めたい訳ではなかったが、事実は事実なので、そう言った。しかし、レオナルドは全く温度を下げることなくこう返した。


「あんたは、まだ若いから知らないかもしれんが、昔はここノアルを含む、北の大陸全てが、オーランドを中心とした同盟国だったんだ。今は亡き先代のオーランド国王は、同盟国間に『エクスカリバー』という称号を設けた」


 ジークはふんふんと興味深そうに聞いていた。質問は飛んで来そうも無いので、レオナルドは続けた。



「エクスカリバーの称号を持つ者は、同盟国間なら国境を無視して、自由に行き来でき、国の命令、上官の命令が無くとも、自分の考えで、例え他国の騎士団や護衛隊であろうと、自由に動かせる権限を持っていた。もちろん、エクスカリバーとなるには、心・技・体、全てが優れており、尚且つ同盟国全ての国王の承認を得る必要があった」



 レオナルドは一息入れ、尚も口を開く。



「ネオ・マクスウェルという男は、ノアル騎士団7番隊隊長であり、2番目のエクスカリバーになった男だ。エクスカリバーの称号を貰った際に、先代オーランド国王から渡されたのが、あの翼の生えた剣なのさ。もっともあいつは、一度も使ったことは無いが、それでも常時離さず、愛用の剣といつも2本腰に差していた」


 レオナルドは興奮冷めやらぬ表情である。



「そうですか、どうやらその人で間違いなさそうですね。なるほど、私も聞いたことがあります、エクスカリバー二人目は、オーランド人では無いと。彼がそうでしたか」


 ジークは納得した様に、頷きながらそう言った。


「若いのによく知ってるな。」


 レオナルドはジークの博識に感心した。


「はい、エクスカリバーが出来た頃は、確か3、4歳でしたが、オーランドには何度か行ったことがあります」


 レオナルドは3、4歳でオーランドに出向くジークの素性を、少し気になったが、特に尋ねることはしなかった。


「まぁもっとも、今はこの国もご存知だろうが、他の多くの国と同様、アースガルドの属国になったので、エクスカリバーなど今では唯の名前だけになってしまったがね……」


 レオナルドは口惜しさの混じった、皮肉を言った。


「この国も、アースガルドには随分と苦しめられたようですね。無闇やたらに戦争を仕掛け、多くの人々が苦しみ、死んでいく…」


 ジークは悲しみを露にし、眉間にしわを寄せた。レオナルドも納得し、うんうんと頷いた。


「本当にすいません……」


「ん? なんでジークが謝る必要があるんだ?」


 奇妙な受け答えに一瞬疑問に思ったが、余り気にせずレオナルドはまた話題をネオに戻した。


「すまないがジーク、もう少し詳しく教えてくれないか、私も何度かあの洞窟には足を運んでいるが、ネオを見かけたことはない、どの辺りに居た?」


 レオナルドの問いかけに、ジークは思い出した様に答えた。


「あ、はい、ネオさんは、物凄く広い空洞のような場所にいて、傍に川が流れていました。で、不思議なことに、そのネオさんを覆っていた氷、何をどうしようと全く溶けないんですよ、本当に時間まで凍らせてしまった様な、そんな感じでした」


 ジークは、首を傾げ不思議そうな顔で言った。



「時間まで凍らす、か……」



 レオナルドは少し考え、顔から勢いのようなものが消えていった。


「信じたくは無かったが、あいつの仕業で間違いないな……」


 ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないか位で話しているレオナルドを見て、ふとジークに新たな疑問が生まれたので質問してみた。


「でもそのネオさん、エクスカリバーなのに氷付けにされたんですよね? アースガルドはそれ程の強さってことなんでしょうか?」


 レオナルドは間髪入れず回答を返した。


「いや、ネオはそんなヘマはしない、敵に凍らされた訳ではないんだ」


 どうやらレオナルドには察しが付いているようだ、ジークには少し不可解だったが、本人が納得している為、それ以上深堀するのはやめた。



 落ち込んだ様に見えたレオナルドだったが、意を決したのか、スッと立ち上がり。


「ジーク、感謝するよ、君の情報が私に生きる希望をくれた。私に出来ることであれば、何か恩返しがしたいのだが」


 レオナルドは握手を求め、手を差し出した。ジークはそれに応じ、立ち上がり握手を交わした。


「いえ、私は自分で見たものをお話しただけに過ぎません、ですがこれからどうするおつもりですか? 助けるにしてもあの氷、そう易々と溶けるものでは無いですよ?」


 握手を終え、ジークはレオナルドのこれからを案じ、聞いてみた。


「実は、少し心当たりがあってな、海を渡ってオーランドに行くつもりだ。ジークはこれからどうするんだ?」


「私は、これから東の大陸に渡ろうと考えています。ここには私の求める物は無かったようですので……」


 ジークは会釈し、その場を立ち去ろうとしたが、酒が入っていたせいなのか、少なからずレオナルドに友情のような物を感じたのか、今まで誰にも話した事の無かった、旅の目的を告げた。


「私はアスモデウスの指輪という物を探して旅をしています。父の形見なんですが、無くしてしまって。もしレオナルドさんが、どこかで指輪の噂でも耳にしたなら、私に教えて頂けるとありがたいです。色々な場所に噂があって、苦労しています。これから暫くは、東の大陸ソロモンに滞在するつもりですので」


 レオナルドは頷き、


「わかった、そのアスモデウスの指輪とやらの情報、手に入れたなら必ず報告に行こう」


 ジークは微笑み、別れの挨拶を言った。


「有難う御座います。レオナルドさんも、ネオさんを救える様祈っています。では、失礼します」


 レオナルドも別れの挨拶を言う。


「ああ、ジークも旅の無事を祈っているよ」


 二人は酒場を後にした。




 ジークは自分が宿泊している宿へと戻ろうとしていた、路地を曲がり、あともう少しで宿に到着という所で、黒ずくめのローブを纏った男が、音も無くジークに近づき接触した。


「ジークムント様、只今戻りました」


「早かったなスティーブン、もう一日は酒場でくつろげるかと思ったが。それで? バレンチ遺跡の方はどうだった?」


「はい、壷はまだ健在でした。鉄枷の部屋も開かれた形跡はありません」


「そうか、こっちはハズレだった。ご苦労だったなスティーブン、今日酒場のマスターから噂を聞いた、次は東のソロモンに渡るぞ、荷物をまとめておいてくれ、明日中にはソロモンの塔に入る手続きを完了させたい」


「了解致しました」




 ジークとスティーブンと呼ばれた男は、宿の中に消えていった。



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