-2- -ノアル崩落-
始まりの戦い後編です。
凄く描写が難しく、苦労しました。
煙が立ち上るノアル城下を尻目に、森の中腹を走る一団があった。ノアル騎士団4番隊と7番隊である。
その隊長である、ギルバート・フロストとネオ・マクスウェルは騎士団の中でも、1、2を争う強さであり、ギルバートは氷の魔術に長け、マナの扱いで右に出る者は居らず、ネオは剣術に長け、エクスカリバーの称号を持つノアルの英雄であった。
今現在、二人は国王の期待を一身に背負い、城防衛には参加せず、裏から敵本陣を落とす奇襲作戦の遂行中であった。
「待て、ネオ!」
ギルバートがネオの進行を制した。
「どうした? ギルバート」
くいっと親指を立て、ギルバートは森の横を指差した。木々の隙間から、アースガルドの増援部隊が城に向かい進行しているのが見えた。
「くそっ! お前ら、全員であいつ等を止めろ! 一人たりとも国に入れるな!!」
ネオが部隊に指示する。
「了解です!! ですが、本陣の奇襲はどうなさるんですか?」
「俺達二人で十分だ、大将の首を取ってくる。お前たちは何としてでもあの部隊を食い止めろ! いいな!!」
ネオはそういい残し、ギルバートと共に部隊から離れ、森の奥へと消えていった。
「よし!! 本陣奇襲は隊長達に任せよう! 我々はこのまま奴等の横っ腹に突っ込むぞ!!」
ネオの部下がそう叫ぶと、一気にアースガルド兵めがけ、一陣の矢の如く突っ込んだ。アースガルド兵達は虚を突かれ、明らかに戸惑っていた。
戦の場合、戦力差はもとより、各個人の士気が大きく勝敗に係わる。そういった意味で、倍ほどの戦力差であったが、アースガルド兵に不利な状況であると言えた。
「ノアル兵が隠れていたぞ!! 皆剣を取れ!! 応戦するぞ!!」
アースガルド兵の一人が叫ぶが、他の兵士達は未だ、最前線で戦う心構えになっていない。次々と倒されていくアースガルド兵は、もはや数で勝るという利すら失っていた。
この戦局は勝てる。問題ない。後は二人きりとなった本陣奇襲だが、あのでたらめに強い隊長二人だから大丈夫だろう。
ネオとギルバートの部下達は、そう信じていた。
ひたすら森を走るネオとギルバート、段々と木々がまばらになり、森の終わりを二人に知らせた。
海独特の香りが鼻をつく。崖下から人々のざわめきが耳に入り、二人は森の隅にある、ノアル大洞窟の岩陰に隠れた。
「あそこが本陣だな」
ネオが海沿いの海岸線を見下ろし、そう話すと。
「ああ、間違いないな」
後ろからギルバートも頷く。海岸沿いに建築された、テントの様な簡易的な居住施設が5つ程見える。皆アースガルドの特徴的な、赤い紋章のついた鎧を身に着けていた。
どうしたものか…… ネオは考えていた。崖下まで10メートル程であろうか、飛べない距離ではない、しかし確実に敵兵に気づかれる。
そのまま崖下を下り、正面きって攻め入るか? それとも裏に回り込み、隠れながら攻め入るか? ぶつぶつと独り言を言いながら、敵本陣を観察する。
すると、一番奥に位置する一際立派なテントから、一人の男が出てきた。
長身で金髪、顔はよく見えないが、鎧は着けておらず、儀式の際に着用する礼服のような白い服を着ていた。周りの兵士に指差し、指示を送る様を見て、ネオはこいつが大将だと直感した。
突然ギルバートが、後ろから奇妙なことを言い出した。
「すまん、ネオ、お前を裏切る私を許してくれ」
「何っ?」
ネオの第一印象がそのまま声に出る。いきなりネオの足元に冷気が走り、あっという間に下半身が氷で包まれ動けなくなった。
「ギルバートォォォ!!」
そう叫んだ刹那、ネオの身体全てが氷付けとなり、巨大な氷の塊となった。
ネオの強さを良く知るギルバートであったが、味方がいきなり後ろから攻撃したとあれば、流石のネオとて一溜りもなかった。敵の大将に気を取られていた為、尚更である。
ギルバートはそのまま、もはや氷柱の中で息すらしていないネオを、ノアル大洞窟の内部へと蹴り落とした。洞窟入り口付近に流れる川に落ち、そのまま川の流れに乗り、暗闇に繋がる滝壷へと落下していった。
ギルバートは崖下に降り、アースガルド本陣を悠々と歩き進めていく。そして礼服を着た男、ネオが敵大将だと判断した男の前に立った。
「長、来られていたのですか」
ギルバートはそう話すと、長と呼ばれた金髪の男が振り向き。
「おお! ギルバートか、いや何、お前の故郷だと聞いて少し気になってな」
ギルバートはお辞儀をするように頭を下げ、そのまま返答した。
「ご心配には及びません。私の心は長と共にありますので」
「表を上げろギルバート、私にそんな敬意は不要だ、して、ノアルはどうだ? 落ちそうか?」
長と呼ばれた男は、ギルバートの肩を叩きそう尋ねた。
「はい、ノアルの英雄、エクスカリバーのネオを始末しました。彼の存在が、ノアルの、強さの原動力となっておりました。死亡したと伝えれば、降伏することは間違いないかと思われます」
ギルバートはそう話すと、自分の着ていたローブを脱ぎ、地面に落とし何度か踏みつけた。
そして汚れたローブを拾い上げ、近くにいたアースガルド兵に、
「おいっ! そこの者! このローブを持ってノアルの人間に伝えて来てくれないか、『ネオとギルバートは死亡した、戦いを止め、ノアルは降伏しろ』と」
自分のローブを投げ渡し、そう言った。
「はっ! 了解であります!!」
ぼろぼろに汚れたローブを受け取り、アースガルド兵はそのままノアル方面へと走っていった。
「ギルバート、色々とご苦労だったな。自分の故郷をアースガルドに奪われるのは、お前も辛いだろう、船を用意してある、一足先に本国に戻っていてくれ、私もこの国の後始末をしたら、すぐに戻る」
長と呼ばれた男がそう話すと。
「はい、では失礼します」
ギルバートはそう言うと、船の方へ歩き出した。
それから5時間程立ったであろうか、北の島国ノアルは、アースガルド帝国の要求を全て承認し、降伏宣言を出し、戦はアースガルド帝国の勝利で幕を閉じた。