-24- -真実-
ジークはレオナルドの所へ歩み寄り、静かに話しだす。
「もはや、隠していても仕方が無い状況になりました。レオナルドさん、全てをお話しします」
レオナルドや周りの皆は、ジークの言葉に耳を立てた。
「まずは自己紹介をさせて下さい。私の名前はジーク、ジークムント・F・オーランド。今は亡き、先代オーランド国王ロバート・F・オーランドの息子です」
皆に衝撃が走る。
「そして横に居るのが、父がもっとも信頼を寄せる側近であった王宮魔術師、スティーブン・アービンです」
スティーブンが顔を覆ったローブを上げ、皆に顔を見せた後、深々と頭を下げる。
スティーブンはレオナルドも何度か会ったことがあった。
先代国王の側近中の側近であり、ギルバートの師匠といえる人物であった。
しかし城が焼け落ちた大火災にて亡くなったと聞いていたのだ。
余りの事に言葉を失うレオナルドだったが、ようやく一言だけ搾り出す。
「し、しかし、王子はロバート様と共にオーランド城の大火災で死亡したと……」
「はい、父のはからいで、私とスティーブンは難を逃れ、身分を隠し、父の遺言となったアスモデウスの指輪を探す旅に出ました。すいません、父の形見と言ったのは偽りです」
ジークと面識の無いマリエルが、皆言葉を失う中で、いち早く自身を戻し話に参加してくる。
「なんで、ロバート様は自身の死の間際にそんな指輪を探せと?」
ジークはスティーブンと顔を合わせ、意思疎通を確認し合うように頷きあった。
「それを理解して頂くには、全て最初からお話しする必要があります」
周りの皆をぐるりと見回し、ジークは悲しい表情で語り始めた。
「今、アースガルドを裏で率いている、皆から"長"と呼ばれている人物、彼の正体は、ヨハネス・F・オーランド、私の実の兄であり、最初のエクスカリバーとなった男です。そして、父を殺した真犯人です」
圧倒的な衝撃が周りの時間を止める。皆息も出来ないままジークの言葉を聞き入った。
「兄の目的は、アスモデウスの復活です。その為には、どこかに隠されたアスモデウスの指輪が必要なのですが、彼にはその前に、代々オーランドに伝わった封印の秘宝が、どうしても邪魔だったのです。復活させても、その秘宝がある限り、又肉体と精神に封印されてしまう恐れがあったからです。秘宝は王室の奥の扉にあり、国王一人だけがその扉を開ける方法を知っています」
皆の時間はまだ動かない、誰も指一本動かせない状態にあった。
「兄は、父に何度も扉を開ける方法を迫りましたが、父は譲りませんでした。そして、ついに兄は……」
ジークが言葉に詰まる。しかし、強い表情で前を向き続けた。
「そして、ついに兄は父を殺し、秘宝ごとオーランド城を灰にしたのです! そして、そのまま兄はオーランドを離れ、アスモデウスの指輪を探す為、いずこへと消えました」
レオナルドは、オーランド城の大火災にて、ロバート国王他、ヨハネス王子、そしてジーク王子も共に死亡したと聞いていた。ヨハネスは21歳、ジークは5歳の時であった。しかし、それも10何年も前の出来事なので、まさかこのジークがオーランドの王子であったなど、レオナルドには思いもしなかったのである。
北の中心国であったオーランド王国の王子が、国王を殺し、城を燃やしたなどと真実を話せば、世界が混乱する恐れがあった為、ただの事故として処理され、真実は闇に葬られたとジークは話した。
そしてジークは、アスモデウスとは、古代ルーン魔法が生み出した歪みのような存在、生きたルーン魔法の結晶体であると話した。不死であり、無限にルーン魔法を放つ悪魔であると説明した。
古代ルーン一族は、アスモデウスに全滅させられ、僅かに生き残ったバレンチの勇者が、封印することに成功し、肉体は壷の中に、そして精神は指輪にそれぞれ封じ込めたという。そして勇者は封印した秘宝をバレンチの人間に託し、自らは指輪を、人の訪れない場所に隠したと伝えられている。
バレンチの生き残りが、現在のオーランドを築き、秘宝は代々使い方と共に国王に伝授され続けた。なぜなら、アスモデウスは不死であり、また精神と肉体が融合すれば、何時でも復活するからであった。
ジークが指輪を探す目的とは、兄であるヨハネスより先に、指輪を見つけ出し、アスモデウスの復活を阻止することであった。
レオナルドはギルバートから指輪の所在を詳しく聞けなかった為、ジークに尋ねた。
「それで、それで指輪は見つけたのか? ジーク」
ジークは首を横に振った。
「いえ、見つかりませんでした。アースガルドのお陰で捜索範囲がどんどん狭くなりましたので。しかし、どこにあるのかはもう分かります」
ジークの悲しい表情がレオナルドを混乱させる。
「今オーランドに進軍している兄の、ヨハネスの手の中です」
「なんだと?!」
レオナルドが驚く。
「間違いありません。肉体を封印しているオーランドに向かっているのが証拠です」
「で、では、そのヨハネスが精神を封印している指輪と肉体を融合させれば……」
「はい、アスモデウスは復活し、この世界は終わります」
冷静なジークに対して、レオナルド達の顔色が消える。
「ちょっと待ってよ! ヨハネスの真の目的はルーン一族の復興、人間の滅亡だって言ってたわ! アスモデウスをヨハネスが操れるってことなの?」
マリエルが慌てて口を挟む。
「いえ、アスモデウスは制御出来る様な存在ではありません。蘇ればこの世界の全てを破壊するだけです。恐らく兄の言ったことはアスモデウスによる狂言です。指輪の捜索のために多くの仲間が必要だったのです。少数のヨハネスの同士にはルーン一族による支配を説き、その他には世界の滅亡を救う為に私に尽力せよと説き、仲間を増やしていったのです」
ジークは更に続ける。
「兄は私と共に、よくバレンチ遺跡に足を運び、古代の書物を読んでいました。その中にあった天文学を記した本に興味を示し、その全てを理解し、ある程度の予測が出来るまでになったのです。恐らくその技術を見せ、ギルバートさん達を信じさせ、仲間に引き入れたのだと思います」
「ならばヨハネスの真の目的は何なのだ?!」
レオナルド達はヨハネスの真意が全く理解出来ないでいた。
「文字通り、世界の破滅です。兄はもはや私の知る兄ではありません。アスモデウスに精神を乗っ取られた、悪魔を復活させる為だけの存在です」
全員の顔が青ざめる。
「しかし、まだ希望は残っています」
ジークは皆をなだめるように話し始めた。
「スティーブンから真実を聞きました。まだ封印の秘宝は残されているのです。アスモデウスとはルーンの塊です、そして封印の秘宝とはルーンを断ち切るルーンブレイドです。父は、自身の危機を察知し、秘宝をネオさんに託していたのです。その秘宝がどういった宿命を持っているのかを全てネオさんに説明して」
レオナルドとティナが、驚き顔を合わせる。
「そうか! ネオのあの剣か! ティナを救ったあの剣があれば!」
レオナルドやティナ、それに封印の秘宝の力を目の当たりにした者達が目を輝かせる。
しかし、そんな皆をよそにジークとスティーブンは血の気の引いた表情を見せていた。
「ネオさんがルーンブレイドを…… ティナさんに使ったのですか!!」
ジークはそう喋りながら震えていた。
「はい、私がネオさんを助けるために、ルーン魔法の契約をしたのですが、私はそのために死をすでに受け入れていました。ですがネオさんがルーンブレイドで解除してくれました。そのお陰で私は今もちゃんと生きていられるのです」
ティナは嬉しそうに話す。ティナとは裏腹にジークはその場に崩れ落ちた。
「な、なんということだ!!」
皆はジークの態度に混乱する。
「おいっ! ジーク! それがどうしたと言うのだ?」
疑問に思いレオナルドが尋ねる。ジークは暫くの間、膝を付き頭を抱え、今置かれている状況を必死で理解しようとしているかに見えた。
「元はと言えば、私が巻いた種、私がネオさんに何かを言える立場ではない。父がネオさんに託した以上、それをどう使うかはネオさんが決めること……」
ジークはそれだけ言うと、決意を決めたかのように立ち上がる。
「すいません、取り乱してしまって。ルーンブレイドのことは忘れて下さい。私がネオさんの立場でも同じことをしていたでしょうから……」
「ちょ、ちょっと待て! ちゃんと説明しろジーク! どういうことだ?!」
冷静さを取り戻したジークが話を始める。
「はい、あのルーンブレイドという剣は、何度も使える代物では無いのです。一度使うと全てのルーンを開放し、普通の透明の剣となります。またルーンブレイドとして蘇る為には、長い年月が必要だと聞いています。恐らく10年か20年、ルーンを溜め込む必要があるのです。ですから今は、間違いなくただの剣です。アスモデウスを封印することは出来ません。ネオさんもそれを承知で今、オーランドで戦っています」
「な、なんだって!!」
レオナルド以下その場の全員が驚き、再び暗闇に連れて行かれ、言葉を失う。
「わ、私のせいで、そのアスモデウスってのを倒せなくなったってこと?!」
ティナが泣きそうな顔になる。レオナルドは慌ててネオの弁解をする。
「それは違うぞティナ! ネオはお前に責任を感じて欲しくないから、何も言わなかったんだ! あいつが言わないってことは、私達は知らなくてもいいということだ。恐らくあいつは、ティナとアスモデウスの封印とを、天秤になど掛けてすらいない。ただお前を救いたかった、それだけなんだ! 何も気に病むことなどない!」
ジークも続く。
「その通りですティナさん。ネオさんにとって大事の前の小事などで片付けられる問題では無かった。それ程あなたの命は尊い物なのです。そもそも兄をオーランドに入れなければいいのです、復活しなければルーンブレイドも必要ありませんからね」
「ああ、そうだ、その通りだぞティナ」
レオナルドは泣き顔のティナの頭に軽く手を置く。船の前方には、北の大陸が広がりつつあった。
ティナをマリエルに預け、甲板に座る部下達に、今よりアースガルドとの最後の戦いが始まる事を告げた。
騎士団全員が今の現状を把握し、覚悟を決めた。
オーランドの港に船が停泊するや否や、我先にとレオナルドは駆け出した。




