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ルーンブレイド  作者: さくらんぼえっくす
23/31

 -21- -長の真意-


 ギルバートはアースガルド城に自分の個室を持っていた。長からの計らいで、自分の直属の部下にはそれぞれに個室があった。ギルバートの部屋は、あらゆる世界の書物が本棚に、所狭しと収められており、大変勉強家であることが分かる。いつもなら一人で椅子に座り、本を読みくつろぐギルバートであったが、今は様子が違う。



 ギルバートは入り口の前で、剣を持ち立ちすくんでいた。剣先には血が付いていた。床には息絶えた男が横たわっている。長からロイと呼ばれた男であった。



 ノアルを落とさなかった、只それだけで真っ先に自分の命を取りに来た長に、戦慄を覚えるギルバートであった。




 ノアルから戻る際に、ネオと話をしていなければ、間違いなく立場は逆になり、自分が床に横たわる結果となっていたであろう、それほどギルバートは長を信じていた。



 しかし、実際はネオの言う通り、長は嘘をついている。でなければ、自分を亡き者にする理由が無い。ノアルは長が言う目的の障害にはならないからだ。



 今でさえ、まだ少し信じられない心が自分の中にはあった。ギルバートは、ロイの死体を部屋の隅へ運び、目立たぬように工夫した。そして、ある程度の食料を持ち、静かに部屋を出た。




 ギルバートはこのままノアルには戻れないと考えていた。余りにも自分の犯した過ちが大き過ぎるのである。還るにしても、長の真の目的を明確にする事が条件だと、自分に条件を科した。



 王の間を覗き込み、誰も居ないことを確認し、そのまま階段を上がり、皇帝の寝室へと向かう。そして、階段を昇りきると、寝室から左右に分かれて、2階部分の通路へと繋がっていた。ギルバートは皇帝がこの2階通路をほとんど使用しない事を知っていた。吹き抜けとなった王の間を見下ろせる、絶好の場所であった。



 ウルフガングが席を外した時、必ず真実の会話がある、そう考えたギルバートは、2階通路隅の赤いカーテンの後ろに隠れ、僅かな食料でその機会を待った。




 長の仲間は20名にも満たない少数であったが、全てが強力なルーン魔法を使いこなす強敵であった。中でも、いつも長と行動を共にしているのが、ロイとジェラルドの二人であった。ロイを始末したことは、いつか分かる。そうしたら、何かしら動きはある筈、とギルバートは考えていた。



 それから2日、長とウルフガングとの、取りとめもない会話が続いていた。ウルフガングが寝室に戻っても、長は仲間と大した話をしていない。ましてやロイが帰らないことについて、長は何も口にしなかった。ギルバートは不眠で時を待った。そして3日目に異変が起きた。



 もの凄い形相で、ジェラルドが王の間に駆け込む、ウルフガングは王座に座り、長が横で話をしていた。


「何毎だ騒々しい!!」


 ウルフガングが叫ぶ。


「申し訳ありません、皇帝、長に報告が御座いまして」


 ジェラルドがお辞儀をする。


「報告ならまずわしを通せ!」


 どうやらウルフガングは機嫌が悪いようだ。


「構わん、ジェラルド、私に話せ」


 長はウルフガングの言葉を遮って、ジェラルドに言った。


「貴様! ヨハネス! わしに逆らうつもりかっ!!」


 ウルフガングは激怒した。ジェラルドは構わずに長に告げた。


「長、南の大陸ユカの国より南下した、ウシマル遺跡の奥に、ありました指輪が、これです!!」 


そう言ってジェラルドは、手の中にある指輪を長に渡した。


 ギルバートはカーテンを僅かに開け、王の間を覗き込んだ。そこには、真っ黒い指輪が長の手に収められているのが見えた。形までは見えないが、酷く禍々しい輝きがあった。




 長はそれを手に取り、小刻みに震えている。



「ふははははははは!! これだ!! ついに見つけたぞ、アスモデウスの指輪!!」


 長は正気を失ったと思うほど高らかに笑い、ウルフガングを見た。



「いやはや、全く国というのは、それぞれで考え方や規則が違うので、困りますな。探したくても、入国すら出来ない国も多くあった。貴方に感謝しますよ、お陰で探し物を見つけやすかった」



 ウルフガングは目を見開き、頭から血が飛び出そうな程、怒りを露にしていた。



「ヨハネス!!!! 誰がそんな指輪を探せと命令した!!!! わしの言う事が聞けんのかっ!!!!」



 ついにウルフガングは王座から立ち上がり、長に詰め寄った。




「シュバ!!!!」






 長は冷静に指輪をはめると、腰から剣を抜き、あっという間にウルフガングを斬り捨てた。下半身が床に落ち、上半身は横の壁に当たるほど飛ばされた。



 剣についた血のりを切り捨て、そしてジェラルドに告げた。



「ジェラルド、兵を出来るだけ集めろ、何日掛かる?」


「はっ! 5日あれば何とか」



「では、5日後に出来るだけの兵を大広間に集めろ、行き先はオーランド、オーランドを落とした時に、我らルーン一族の悲願は達成される、脆弱な種族など根絶やしにしてくれる!」


「了解しました」



 そう言ってジェラルドは王の間を後にした。



 ギルバートはカーテンの内側で戦慄を覚えた。長は、いとも簡単にウルフガングを殺した。そして、目的は恐らく全ての人間を絶滅させ、ルーン一族を再び繁栄させること。



 オーランドに何があるのかは知りえないが、ギルバートは一刻も早くノアルに戻り、皆にこの事を伝えるべきだと判断した。オーランドへの進軍が始まるまで、幸い5日かかると言っていた。今から向かえばある程度の対策は打てる、そう考えていた。






「裏切り者がこんなとこで何をしている?」





 背後からいきなり声がする、そして同時に腹部に激しい痛みが走った。考え事に気を取られていたギルバートは、長の接近にも気づかず、更に腹部を剣で貫かれたのだ。




「ロイを殺るとは、貴様を甘く見ていたようだ」


「ぐふっっ!!」



 ギルバートの口から血が吐き出る。もうろうとした意識の中で、力を振り絞り長の足元へマナを解放する。致命傷を与えたことで、油断していたであろう長は、そのまま両足を凍らされた。



「貴様! まだそんな力を残して」



 長が動揺している隙に、ギルバートは前進し、自ら長の剣を抜いた。そのままカーテンをめくり、残りのマナで刺し傷ごと、自分の腹部を凍らせた。


 凍らせることによって、出血は止まり、痛みも緩和された。まだ動けると確信したギルバートは、そのまま王の間を後にした。





 アースガルド城を抜けたギルバートは、真っ先に港へと向かった。そして出向準備を終えて、いつでも出れる一隻の船を見つけ、中へと入り、船長と2、3話を交わしていた。




 長は、ようやく足元の氷を剣で砕き、王の間を出て、通路の者に告げた。



「ギルバート・フロストの謀反だ! ウルフガング皇帝が暗殺された! 奴は傷を負って逃げている、絶対にこの国から出すな!!」



 そう叫ぶと、周りにいた兵士達は騒然となる。そのまま捜索へと走り出す長の後を追って、兵士達が束になって付いていった。


 長はアースガルド城を抜けると、東側にある港へと走った。ギルバートは必ず船で逃亡を計るに違いないと読んでいたのだ。そしてそのままノアルへと向かうはずだと。



 港に着くと、一隻の船がすでに出港しているのが遠くに見えた。出向の命令など出していない長は、あの船に間違いないと判断し、港で働く人間に、今出た船より足の早い船を今すぐ出向準備させろと命令した。



 港の人間が用意した3隻の船に、それぞれ兵士達も乗船し、すぐさま先を行く船を追う。やはり港の人間が言うよう、性能が違うのか、ぐんぐんと先行する船との距離を縮めていった。やがて3隻は先行する船に追いつき、周りを囲むように進路を塞いだ。




 両端の船からハシゴが掛けられ、暫く併走した後、碇を下ろし、全ての船を固定させた。長はハシゴから先行していた船へと乗り移ると、船長に問い詰めた。



「ギルバートはどこに隠れている! 言わんと命は無いぞ!」



 船長は明らかに脅えている。



「わ、私は、ギルバート様に言われ、南の大陸に向かってくれと言われただけです! ギルバート様は居ません! ご、ご勘弁を」



 長は船長の言葉を聞き、身体が震えるほど怒りを露にし、周りの皆に命令した。



「奴は陸路だ!! 今すぐ船を港に戻せ!!」




 その頃ギルバートは、早馬を1頭調達し、早くもアースガルド帝国を抜けていた。傷口から来る痛みの為、馬に倒れこむようにして、なんとか馬を操作していた。



 そして、隣国の港まで行き、一般の定期船に乗り込み、北の大陸へと向かった。




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