-1- -乱世の時代-
序章より10年程前の話になります。
昔話程度に出す予定だったのですが、勢いで書いてしまいました。
北の平和な島国ノアル王国に、未だかつて無い未曾有の危機が訪れていた。
「こ、国王様!! 正門が突破されました!! アースガルドの兵が雪崩れこんできます!!」
慌てて王の間に駆け込んできた兵士から、最悪の報を受け、レイモン国王は叫ぶ。
「城下町の民は?! 全て地下に非難させているな?!」
兵士がその問いに叫ぶ。
「はっ!! 皆待避済みです!!」
城の窓からは、城下町から上がった火の手が、いたる所に見えた。一刻の猶予も許されない状況である。レイモン国王は王の間の扉を開き、大広間に出た。
ノアル騎士団の皆が、レイモン国王の指示を待ち、待機していた。
「よしっ!! 皆の者!! よく聞くのだ!! 4番隊と7番隊が奇襲部隊として敵の本陣に突入している! もうじき勝利の知らせが入るだろう! それまでの辛抱だ、我々の後ろに民が居る事を忘れるな!! 行くぞ!!!!」
「オオオッッッ!!!!」
地鳴りのように雄たけびが響いた。大広間に集まった騎士団全員の士気が、レイモン国王の渇で最大まで上がった。
アースガルド帝国は遥か西の果てに位置する小国である。独裁国家で知られ、王であるウルフガンク皇帝は、自分に従わない者なら誰であろうと容赦しない凶王であった。
近隣の諸国との内戦が絶えない攻撃的な国ではあったが、それでも北の島国ノアルから見れば、遠い西の大陸内部での小さな争いに過ぎなかった。
ある時を境に、アースガルド帝国は連戦連勝を繰り返すようになる。瞬く間に西の大陸を統一し、アースガルド統一国家となると、更に領地を拡大せんと、北の国々に対して宣戦布告し、その圧倒的な軍事力で、北の全てを飲み込もうとしていた。
ノアルに対しても例外ではなく、沿岸に船を次々と乗り付け、ノアル国領地内から森を挟んだ反対側に本陣を設置し、正に今、ノアル城内に攻め入らんとしていた。
「1番隊は正門の制圧!! 2番は東門!! 3番は西門だ!! 残りは城の防衛に回れ!! よしっ!! 行くぞ!!!!」
ノアル騎士団1番隊隊長レオナルド・バルフォアの咆哮が響く。次々と騎士団が城外に躍り出ていく。レオナルドも今一度、腰の剣を確認し、弾けるように大広間を飛び出した。
城外に出る城門の脇に市民の親子が立っていた。よく見ると、妻のミネルバと娘のティナであった。
「ミネルバ! どうしてこんな危険なとこに?! 早く地下に非難しろ!!」
レオナルドは二人に駆け寄り、そう叫んだ。
「あなた! ティナの! ティナの足が流れ矢に当たって!」
そう言われ、娘の足を見てみると、股の辺りに布が巻いてあり、うっすらと血が滲んでいた。
「大丈夫か? ティナ、足は痛むか?」
ティナは今にも零れ落ちそうな涙を溜め、レオナルドの問いに答えた。
「大丈夫、お父さん。足はそんなに痛くないよ、でも、ちょっと怖い」
ティナの身体は震えていた。
無理も無い、ティナが生まれてからこれまで、ここノアルに争いは無く、平和な日々が続いていた。それがいきなり地獄のような争いの場と成り果ててしまったのだから。恐怖するなという方が無理である。5歳の子供なら尚のことであろう。
レオナルドはティナと同じ目線に腰を下ろし、優しくティナに話しかけた。
「大丈夫、もうじき戦争は終わる。町もすぐに元通りに戻る。そしたら又、3人で遊びに出掛けような? あの噴水のある公園がいいかな? またお母さんにお弁当作ってもらわないとな」
その時、城外の兵士から声がした。
「隊長!! 正門から来る敵の数が多すぎます!! 制圧しきれません!!」
「わかった!! すぐに行く!! 私が行くまで持ちこたえろ!!」
レオナルドは城の出口を向き、立ち上がると城外へと走り出した。
「あなた!!」
「お父さん!!」
背中で二人の叫ぶ声を聞き、レオナルドも振り返り叫ぶ。
「心配するな!! すぐに戻る!! お前たちは地下へ急げ!!」
あっという間にレオナルドは、戦火の中へと同化し、見えなくなった。
レオナルドが正門制圧に加わり、敵兵を倒しながら部下達を追い抜いていく。
「隊長!!」
「隊長が来たぞ!!」
「隊長に続け!!」
部下達が次々と声を上げ、じわりじわりと戦局を押し返してきた。レオナルドは圧倒的な強さで先陣に立ち、剣を振るうごとにアースガルド兵を葬っていった。
レオナルドは部下達全員に響く程の声で吼えた。
「あと少しだ!! あと少しでネオとギルバートが、大将首を持って帰ってくる!! そうすれば敵は総崩れとなる!! 我々の勝利は目前だ!! 怯むな!!!!」
この時はまだ、レオナルドは自国の勝利を確信していた。