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ルーンブレイド  作者: さくらんぼえっくす
18/31

 -17- -ノアル奪回(後編)-



 ネオが床に設置された木製の扉を静かに開け、目だけを覗かせて中の様子を伺う。簡易的に作られた3段式のベッドが6つ、ネオも昔使用していた事もあり、懐かしい景色であった。ネオ達は運が良かったのか、今日は誰も使用していないようだ。完全に扉を開け切り、まずはネオが仮眠室に進入した。



 声を上げず、ネオは下にいる皆に来いと手で合図した。次々と仮眠室に皆が入り込み、全員が侵入完了すると、部屋は少し、窮屈な状態となった。


 ネオは仮眠室入り口の扉に耳をあて、大広間に繋がる通路に人が居ないかを確認していた。



 通常自分達が騎士団に居た頃は、2隊が順番で夜間の警備を行う、ノアルの騎士団は全部で7隊あり、1隊に大体100名程で構成されている。そう、レオナルドとマリエルが地下町に下りた時、全員が隊長に従った訳では無かったのだ。



 今此処にいるレオナルドとマリエルの部下達は、非常に稀な存在と言えた。部下の中には家族を持つ者も大勢いて、どうしても地下町に下りる決意が出来ない者や、騎士団として残り、騎士団内部から革命を起こすつもりの者もいた。様々な理由で、地下町には下りず、暫く騎士団として、不本意ながらアースガルドの言いなりとなっていたが、やがて謀反を持つ者は全て殺され、そうでない者も、本国から次々とアースガルド兵が送られてきて、その都度騎士団の面々を入れ替え、解雇されていった。解雇された者達は、ノアルを追われ、今では、唯一アースガルド帝国の息が掛かっていない、東の大陸に渡ったと言われている。



 そして騎士団だけでは無く、今や城で働く者全てがアースガルド人となった。





「アースガルドは元々小国だ」



 ネオは部屋にいる皆に小声で話し始めた。



「ここに配属された全ての人間が、純粋なアースガルド人ではない、恐らくヴァレンタインと側近のイアン、後は貴族の数十名だけだろう。残りの奴らは西の大陸の、元々はアースガルドと対立していた別の国の人間だと思う、今やアースガルドと志しを共にする者ならいざ知らず、そうでないなら出来ることなら斬りたくない。目標はあくまで、頭の二人だ、いいな。」



 ネオはその場にいる全員の顔をみて、納得しているかどうかを確認した。ネオと目が合った者は皆頷いた。



 ネオが扉を開け、いよいよ通路に出る。赤い絨毯が引かれ、そのまま扉の下を通り、大広間まで延びていた。4メートル程の高さの天井に吊るされ、ランタンの光が5メートル間隔程で配置されている。ネオがよく見た風景である。通路左を向くと、奥に三叉路があり、そこをまた左に曲がると、大広間の2階部分に出れる階段へと続く、右を向くと大広間の扉が見えた。



 またネオが皆を手で合図する。そのままネオは大広間の扉に着くと、耳を当て、中の様子を探る。かなり小さい声であるが、話し声が聞こえた。声からして二人である。



 ネオはレオナルドを呼び、声の主を求めた。レオナルドが耳を当て、暫くして深く頷いた。



 ネオが大広間の扉を蹴り開け、そのまま躍り出た。中には二人、金の装飾が至るとこに散りばめられた、赤い服を着た老人が王座に座り、その横に、まだ20代であろうか、同じく赤い礼服のような成りの男が立っていた。



「おやおや、これは珍妙な客が来ましたな」



 赤い礼服の男が喋る。レオナルドはネオに大声で伝える。


「立ってるのがイアン! 座ってるのがヴァレンタインだ!!」


 大広間は広く、二人までの距離は20メートル程あった。ネオはそのまま剣を抜き、イアンめがけて走り出した。



「王、危ないですから後ろへ」



 イアンはそれだけ言うと、腰の剣を抜いた。


 細身の刀身であり、突くことを念頭に置いた剣に見えた。



「用があるのは初めからてめーだよ!!」



 ネオはイアンに斬りかかった、イアンはその斬撃を片腕のまま防いだ。そのままネオは斬りつける箇所を変え、何度も斬りつけたが、イアンは全て片腕で防いだ。



「てめぇ……」



 ネオはイアンの以外な実力に、思わず声が出た。



「賊共!! そこまでです」


 イアンがそう叫ぶと、大広間にある両脇の扉から、続々と騎士団の面々が姿を現した。

100人から200人、いや300人は居ると思われる。そして、あっという間に四方八方を敵に埋め尽くされ、ネオ達は中央で固まるしか、方法は無かった。



「ふふふ、あなた方の行動を知らないとでも思っていましたか? 地下町に謀反の目ありと読んだ私は、4人程仲間を地下町に配置していたのですよ、仮眠室を空き部屋にしていたので、さぞかし進入しやすかったでしょう?」



 イアンは高笑いをしている。



「さすがはイアンよ、でかしたぞ」



 ヴァレンタインが後ろで喜ぶ。



 すると2階の踊り場から声がした。




「確かに、進入しやすかったよ、アースガルドは冷酷非道と聞いていたんだが、以外と優しいんだな」




 逆の踊り場からも声がする。



「ネオ、みんな、間に合ってよかった」



 リックとポールであった。そして、その後ろにはオーランド兵を大勢従えていた。


 オーランド兵の数は、大広間に居る騎士団の数より、遥かに少なかったが、吹き抜けになっている大広間を囲むように、2階通路を広がって配置され、上から見下ろす効果も助け、騎士団を威圧するには十分効果があった。



「リック!! ポール!! 来てくれたのか!!」



 レオナルドが叫ぶ。



「地下町に行ったら、お前ら居ないんで、もしやと思ったらやっぱりだったよ、ネオ、お前復活してから行動起こすの早過ぎなんだよ」



 リックが皮肉交じりで言った。


 圧倒的人数差で、戦いにもならないと考えていた騎士団の面々は、大きく動揺していた。ネオはここしかないと判断し、大広間中に響く声で咆哮する。




「騎士団!!!! 剣を置け!!!! てめぇらも元はアースガルドに異を持ってた口だろーが!!!! 悪に屈して、言いなりになって、口惜しくねーのか!!!! てめーらの後の生活は、真のノアル国王レイモン国王が保障する!!!! 剣を持つ者は、アースガルドと見なし、斬る!!!! わかったら剣を置いてこの大広間から出ろ!!!!」



 ネオはそのまま、イアンとの間に立ちふさがる騎士団に向かって歩を進めた。


「忠告したぜ」


 ネオはあっという間に一番手前の騎士団を5人程斬り捨てた。そして、それがきっかけとなり、ネオの横に居た一人の男が決意する。



「わ、私には、妻と子が居る、騎士団の宿舎に住んでいる、か、家族も救ってくれるのか?」



 ネオは即答する。



「ああ、そのままそこに住めばいい、子供に胸を張れる、強い親父になるんだ!!」


 男はぶるぶると剣を震えて持っていたが、そのまま手を離し、金属音を上げて剣が床に落ちた。


 この男を皮切りに、皆剣を捨て、大声で悲鳴のような奇声を上げ、次々と大広間から逃げていった。周りに残った騎士団は、僅か50名程であった。



「お前等!! アースガルドを裏切るのか!! 後悔することになるぞ!!」



 後ろからヴァレンタインが叫び、そしてそのまま奥の王の間へと逃げ隠れていった。

 その手前にいるイアンは微動だにしない。



「残りの連中はアースガルドだとよ、任せていいよな?」



 ネオは後ろの皆に言った。すかさずマリエルが答える。



「もちろん、でもさ、あんた馬鹿なのに、妙に言葉に説得力あるのよね」

「馬鹿だから、だろ? 思った事をそのまま口にするから、皆の心に響くのさ」


 レオナルドが言う。


「馬鹿馬鹿うるせーんだよ!! 行くぞ!!」


 ネオはそう言うと、再度イアンに斬りかかった。


「リック!! ポール!! お前達はヴァレンタインを討て!! 王の間からは逃げ場など無い!!」


 レオナルドはそう叫ぶと、騎士団に斬りかかる。


「了解!」


 二人はそのまま二階の踊り場から、内側に曲がって作られている階段を降り、皆の居る一階に降りてきた。


「巻き込まれるぞ、二人共俺から離れていろ!!」


 リックとポールが、ネオの傍まで来たので、思わずネオが叫ぶ。イアンは相変わらず、片腕でネオをいなしていた。


 二人はあわよくば助太刀をと考えていたが、ネオの一喝で立ち止まる。そして、二人は王の間に消えていった。



 マリエルはティナを後ろに隠し、騎士団の一人と戦っていた。


「マリエル!! 大丈夫!!」


 ティナが後ろから叫ぶ。


「大丈夫よ!! あんたはもう少し下がってなさい!!」


 マリエルは鍔迫り合いをしながら叫ぶ。


「後ろに気を取られている場合か?! 女!!」


 騎士団の男がそう叫んだ刹那、男の胸からいきなり剣先が現れた。男は事切れその場に倒れた。


「あなたは、もう少し後ろを気にした方がいいですよ」


 パレットであった。


「パレット!!」


 マリエルは叫ぶ。


「まだです! まだ気を抜くのは早い!」


 パレットはそう言って、ティナを囲むようにマリエルと背を向けあった。



 剣と剣が交わる音の中、王の間から飛び出したリックが叫ぶ。


「ネオ!!!! ヴァレンタインが何処にも居ないぞ!!」



 ネオはイアンとの戦いで余裕がない。すかさずレオナルドが叫ぶ。



「隠し扉でも作っていたのかも知れん!! 逃げられては厄介だ、お前達は捜索に当たってくれ!!」


「判った!!」




 城の裏手は、すぐそこが海であった。ノアル城には船を数隻止めれる港が設置されており、船を降りると、そのまま階段を上り、ノアル城に入れる仕組みになっている。


 レオナルドの予想通り、隠し扉から裏手に出たヴァレンタインは、待機させている船に乗り込んで、本国へ逃げ去り、増援を送ろうと考えていた。


 ヴァレンタインが階段を降りきり、船へと向かって早足で進んでいると、脇に積んである木箱の裏から、いきなり誰かが斬りかかってきた。


 ヴァレンタインは元々アースガルドの貴族であり、国の運営は出来るが、戦士では無かった、腹を深く剣がえぐり、致命傷を負った。そのまま仰向けに倒れたヴァレンタインは、斬りつけた張本人を見て叫ぶ。



「お、お前は、アースガルドに恐怖して、に、逃げたのではなかったのか!!」



 ヴァレンタインを見下ろし、凛として立つ、レイモン・セオドリックの姿があった。



 死神に魅入られ、もはや連れ去られる寸前のヴァレンタインに背を向け、


「私は、アースガルドに恐怖したのではない。大切な家族を失うことに、恐怖していたのだ」


と、それだけ言い残し、レイモンは階段を上り、ノアル城内へと入っていった。




 レイモンはそのまま階段を駆け上がると、石で出来た扉の前まで来た。おかしい、レイモンは以前と作りが違っていることに気づく。そのまま扉を開けると、自分が長年住んでいた王の間が広がっていた。本棚の裏が隠し扉になっていたのだ。


 レイモンは、ノアル城内の港を、自分専用の脱出口として、ヴァレンタインが改造していたのだと気づく。


 外の大広間で戦いの音が聞こえた、レイモンはそのまま入り口の扉を開け、叫ぶ。



「ヴァレンタインは討った!! アースガルドは剣を引けっ!!」



 敵も味方も、突然レイモンが王の間から出てきたことに驚き、一瞬動きが止まる。



「じじい!! てめぇ!!」


 ネオが叫ぶ。


「レイモン様!!」

「国王様!!」


 皆が驚きと喜びの声を上げる中、突然イアンが笑い出した。


「これはこれはレイモン前国王様、ヴァレンタインが死んで、どうかしましたか?」


「てめー何が可笑しい!!」


 ネオがそう言って斬りかかる。イアンは素早く後ろにかわし、


「ヴァレンタインなど、ただの使えない老人、私さえ居ればどうとでもなります。私一人で、ここにいる皆さんを皆殺しにして差し上げますよ」


 そう言ってネオに斬りかかった。


「ネオ!!」


 レイモンが叫ぶ。ネオは横にかわし、


「じじい!! 危ないから下がってろ!!」


と叫んだ。



 騎士団とレオナルド達の戦いは、オーランド兵の加勢もあり、大方決着が付いた。後はイアンを残すのみとなっていたが、二人の剣が見えない程の速さで交差し、誰も助けに入れない状態であった。



 レイモンを含む、この場の皆は、イアンが、このままネオを圧倒するなら、あながちイアンの言葉も嘘ではないと、戦慄を覚えた。



「しかし、ネオとやら、あなたは素晴らしい。私とここまでやり合えるなど、剣の腕前は大したものです」



 イアンは片腕で、ネオと互角に鍔迫り合いをこなし、そう言った。



「何故皆、こういった戦いになると、マナを使わず、剣のみで戦うか、あなたはご存知ですか?」



 ネオは何も返さず、ただ剣と剣のやり取りを繰り返す。



「ふふ、それはね、マナを扱うには集中せねばいけないからですよ。こんな乱戦の中で、マナを使おうとすれば、たちまち斬り捨てられるのが落ちです」



 イアンはずっと、戦いながらも口を止めない。



「ああ、そうそうネオとやら、先に謝っておきます。あなたを落胆させて申し訳ないのですが、私が得意なのは剣術ではありません。マナの方が得意なのですよ!!!!」



 イアンはそう言うと、ずっと後ろに組んでた左手を、しなりを利かせ、ネオ目掛けて思い切り振り切った。人の頭程ありそうな圧縮されたマナが、左手には握られており、ネオに襲い掛かった。




「ぐあっ!!!!」




 イアンの左腕が宙を舞い、そのまま床に落ちると、左手のマナが大爆発を起こし、床に大きな穴を開けた。ネオは血のりの付いた剣を、床に一振りし、イアンに言った。



「謝るのはこっちの方さイアン、悪かったな、俺と互角に戦えてるなどと、希望を持たせちまって、実は10年振りに起きて、まだまだ寝起きで本調子じゃねーんだよ。今しがた、ようやく3割ほど、感が戻ってきたよ」


 ネオはそれだけ言うと、イアンの首元に剣を当てた。イアンは、ネオの顔に、確実に当たると思った刹那、左の腰辺りで、斜め後ろに構えていたネオの剣が、ネオの腕毎消えたのを見た。


 つまりイアンが見えない程の速さで、剣を斬り上げ左腕を斬られたのである。



 腕からくる激痛と、ネオの底知れぬ強さ、イアンは敵わないと悟り、剣を落とした。



 その瞬間、ノアルはネオ達の下へ戻ってきたと言っていいだろう。皆は呆然とネオを見つめ、時が止まったかの如く、なかなか喜びの心へと切り替える事が出来ないでいた。それ程の衝撃が皆の心にあった。



 そんな中、一人だけ平常心に戻ったマリエルが口を開く。



「あんた、格好つけるのもいい加減にしなさいよね。今ので3割だったら、10割のあんたはただの化け物よ」



 マリエルの言葉が、皆の時を動かし、一気に笑いと歓声が巻き起こった。





 レイモンがネオの元へと歩み寄る。



「ネオ…… 許してくれ…… 私が…… 私が弱かったのだ、家族を失うことを恐れ、一歩も前に進めなくなっていた…… 命を懸けて戦っているのも、また同じ家族だと言うのに……」



 ネオは照れくさそうに言う。



「別に、あんたは必ず立つと信じてた。そしてあんたは立った。それでいいじゃねーか、家族全員に深い愛情を持って接するあんたは、強くもあり、そして弱くもあるのさ。強い部分はそのまま、ノアルの親父として、みんなの光になればいい。そして弱い部分は、俺達が補ってやるよ、今回みてーにな。許してくれも何も、初めから怒ってなんかいねーよ」



 そこでマリエル。



「何いってんの、あんたメチャクチャ怒ってたじゃない?」



 また周りが大きな笑いで包まれた。マリエルはいつも一言多い、だがネオはそんなマリエルに対して、怒りを持たない。自分の隠している本心を、代わりに代弁してくれていることを知っているからだ。




 そしてイアンはそのまま捕らえられ、牢獄へと入れられた。




 ノアルに新しい夜明けが訪れた。


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