-10- -復活-
やっと主人公復活しました。
ここから物語はようやく動き出します。
次の日になっても、ネオはまだ目を覚まさなかった、しかし、体温は通常に戻り、もはや只眠っているだけの状態に見えた。
地下町に暮らす元騎士団の仲間達は、ネオの復活を期待し、皆レオナルドの家に駆けつけていた。ティナは皆に要らぬ心配を掛けぬ様、長袖でルーン文字を隠していた。ティナの事は、パレットとマリエル以外知らない為、皆はただネオのことだけ考えており、幸い暗い雰囲気は微塵も無く、皆の顔には希望が溢れていた。
「いつから私の家は、皆のたまり場になったんだ? ネオが目を覚ませばちゃんとお前達にも連絡する、だから家でおとなしくしてろ!」
レオナルドは椅子に腰掛け、半分呆れていた。
「いいじゃないお父さん、皆一秒でも早くネオさんに会いたいのよ」
ティナがそう反論すると、皆はその通りだと言わんばかりに、頷いた。多勢に無勢、レオナルドの負けである。レオナルドはそっぽを向き拗ねていた。
そして、ついに皆の期待していた瞬間が訪れた。
『ガチャ!』
寝室の扉が開き、中からネオが顔を出した。10年前奇襲作戦に出た、当時そのままのネオ・マクスウェルが、ようやくノアルに還ってきたのだ。
「ネオ!!!!」
レオナルドが叫ぶ。
「ネオさん!!」
「ネオ!!」
周りの仲間も次々と声を上げた。
きょろきょろと辺りを見回し、ネオは不思議そうな顔をしている、無理もない、ネオからして見れば、奇襲作戦に出た後、いきなり10年もの時が進み、騎士団の暮らしとは程遠い、薄汚い部屋で目を覚ましたのだから。
そして、レオナルドを見つめ、軽く微笑み、第一声を放った。
「老けたな、レオナルド」
レオナルドは笑顔を抑えきれず、言葉を返す。
「ふんっ! あれから10年だ! お前は寝すぎだ、ネオ」
そしてネオはティナの元へ歩み寄り、
「ティナか? お前大きくなったな。ミネルバに似て美人になった」
ネオはそう言いながら、ティナの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「ああ、もう! 髪が乱れる! でもよかった、ネオさん無事で」
ティナは髪型を整え直し、そう言った。ネオは、ティナが一人だけ長袖を着ている事に気づき、一瞬顔色を変えた。
周りの皆は、もはや我慢しきれないという感じで、一斉にネオに飛び掛った。
「隊長!!」
「ネオさん!!」
「よくご無事で!!」
「心配しましたよ!!」
ネオは仲間にもみくちゃにされながら、
「どうやら、えらく皆に心配掛けたみてーだな、すまなかった」
と、仲間に詫び、
「ちょっと皆待ってくれないか? レオナルドに確認したい事があるんだ」
と言い、真剣な表情になった。
レオナルドは、
「私もお前に聞きたい事がある」
と言い、二人は向き合った。周りの仲間は一歩下がり、二人を見守った。
「なんだ? レオナルド」
ネオがそう言うと、少し辛そうに俯き、又顔を上げ、レオナルドが言った。
「ギルバートか?」
レオナルドはそう一言だけ告げると、ネオの表情が固まる。皆意味が判らなかった。そして暫く沈黙が続き、ネオが口を開いた。
「あぁ、そうだ、後ろから突然な、気づいた時には、もう、動けなかった」
皆ようやく、ギルバートが裏切ったことを知り、驚きを隠せなかった。
ギルバートは騎士団の中でも非常に無口で、近寄りがたい印象であったが、心はとても優しく、裏切るなどという行動を取るとは考えられない男であった。
レオナルドは、やはりという表情を見せ、
「酒場で逢った男がな、洞窟内部にお前と思しき人間が、氷付けになっていると教えてくれて、もしやと思ったが、あのギルバートが…… 信じたくはなかったな」
と言うと、酷く落ち込んでいた。
「次は俺の番だな」
ネオはそう言うと、つかつかとレオナルドの所まで歩み寄った。そして、愛剣を抜き、レオナルドの首筋に当てた。
「ネオ!!」
「ネオさん!!」
周りの仲間が一斉に叫ぶ、レオナルドは椅子に座ったまま微動だにせず、右手で皆を制した。
「構わん!! 皆動くな!! で、なんだネオ、確認したい事って」
レオナルドは真っ直ぐにネオを見つめた。
「俺の覆っていた氷、ギルバートが昔、一度だけ見せた、時間さえも凍らせるあの魔法で間違いないな?」
ネオは剣を、レオナルドの首筋に当てながら質問した。
「あぁ、間違いない」
レオナルドは間髪入れず、そう答えた。
「あれは普通の魔法で溶かす事は出来ない。どんな炎を以っても一滴足りとも水には還らない、それはお前も一緒に聞いたから知っているはずだ。レオナルド、お前古代ルーン魔法を使ったな?」
少しネオの口調が強くなる。レオナルドは、ここでネオの怒りの理由を理解した。
「あぁ、使った」
表情を変えず、レオナルドは答える。
「古代ルーン魔法を使えば、人はどうなるのか、お前は知っているな?」
少しだけ沈黙が続き、レオナルドは口を開く。
「あぁ、知っている」
ネオの顔が怒りの表情に変わる。
「最後の質問だ、答えによってはお前を許さねぇ、何故それを知っててティナにやらせた!! 答えろ!! レオナルド!!」
ネオはこの暑さの中で、一人だけ不自然に長袖でいるというだけで全てを見抜いていた。
レオナルドにとって、ネオの怒りはもっともであった。只でさえ誰かの犠牲で、助けてもらうなど、ネオがそういうことを望まない人物だと、レオナルドはよく知っていた。その上その役目を、自分の親友では無く、幼い愛娘に押し付けたようにネオには見えるのだ、激昂するのも無理は無かった。
「違うの!! ネオさん!!」
「ティナ!! お前は黙っていなさい!!」
ティナがネオに真相を打ち明けようとしたが、レオナルドの一喝で止められた。
そして、ゆっくりとレオナルドが口を開いた。
「ネオ、お前、今のノアルの現状を知っているか? お前とギルバート二人の死亡が伝えられ、ノアルは敗戦した。それから10年間、皆アースガルドに無理矢理働かされ、利益のほとんどをアースガルドから来た貴族が奪っていく。働くのを放棄した人間は、皆この下水施設で泥水をすすりながら生きるしかなく、毎年大勢の人間が、飢えや病気で亡くなっている。私は、いや、ノアルの人間全ては、ネオ、お前という光を必要としているのだ!! お前が還ってくる為に、誰かが犠牲にならなければいけないと言うのなら、それは私であろうと、ここにいる皆であろうと、もちろん愛娘ティナであろうと、誰であろうと喜んで犠牲になる!! とうとう、そこまでの国になってしまったのだ!! このノアルはっ!!」
レオナルドとネオは暫く二人、見つめ合ったまま固まっていた。
ネオは静かに、自分の剣を鞘に納め、口を開いた。
「判ったよ!」
そう言い放つと、手を頭の後ろに回し、ふて腐れた感じでレオナルドの隣に座った。
すぐさまティナがネオの元へ駆け寄り、
「ネオさん! 私が勝手にやったことなの! 本当はお父さんがネオさんを助ける為に、契約しようとしてたのに、私が横から勝手に……」
ティナがそこまで言うと、ネオはティナの頭をポンッ! と優しく叩いた。
「判ってるよ、レオナルドがどういう人間か、俺も良く知っている筈だったんだが、なんだか無償に許せなくなってな…… すまん、ティナ、助けて貰って、有難うな」
レオナルドはティナの肩を叩き、ネオは全て判ってると言わんばかりに、首を左右に振った。
そして、ティナと周りの皆に再び笑顔が戻った。
「ティナ、お前腕を巻くって見せてみろ」
ネオは唐突に言い出した。しかし、ネオの顔はとても真剣な表情をしていた。ティナは戸惑い、レオナルドを見た。レオナルドはゆっくりと頷いたので、ティナは服の右袖を捲くった。
右腕にびっしりとルーン文字が黒く刻印されている、周りの皆がざわめく中、ネオは呆れた表情で口を開いた。
「お前は子供の時からそうだったよな、病気に掛かっても、痛いだの、苦しいだの一言も言わずに我慢してやがる、本当可愛くないよな。もう我慢すんなよ、右腕が激痛で千切れそうに痛いんだろ?」
ネオはそう言うと、レオナルドは驚いた表情で、
「ティナ! そうなのか?! 痛むのか?!」
と、心配そうに声を掛ける。
「大丈夫よお父さん、今はそんなには痛まないから……」
明らかに辛そうな表情である。
「ったく、そこまで頑固なのは誰に似たんだか、ティナ! 右腕をそこのテーブルの上に置け!」
ネオはティナにそう言った。戸惑いを見せるティナに、レオナルドは、
「ティナ、ネオの言われた通りにしなさい」
と、ティナを促した。そしてティナは右腕をテーブルの上に置いた。
「ティナ、そしてレオナルド、俺の事を信じているか?」
ネオは固い表情でそう言った。
「当たり前だ! 何をするのか知らんが、やるならやれ!」
レオナルドはあっさりとそう言った。
「はい、私もネオさんを信じます」
ティナもあっさりそう言った。
「なら止めるなよ!」
ネオはそう言って笑った。
ネオはティナの腕が乗るテーブルの横に立ち、今まで一度も抜いたことの無い、翼の鍔を持つ剣を抜いた。
剣には、ティナの腕と同じく、ルーン文字が黒く刻印され、剣自体はクリスタルの様に透明であった。
「ネオ!! あんた何する気なの?!」
奥で見ていたマリエルは驚いて思わず叫ぶ。
「黙ってろ!!」
ネオはマリエルを制し、ゆっくりと剣を振りかぶった。
そしてそのまま、ティナの腕目掛けて、思い切り振り下ろした。
皆はネオがティナの腕を切ったと思い、思わず目を覆った。ネオが剣を鞘に戻す音が聞こえ、うっすら目を開けた。
そしてネオは静かに話しだす。
「どうだティナ? 腕はまだ痛むか?」
そう尋ねられたティナは、自分の右腕を見て驚いた。腕は切れてないどころか、さっきまであったルーン文字が完全に消えていた、そして腕から来る激痛も一切無くなっていた。
「え? どういうこと? もう全然痛くない」
ティナは余りの衝撃に目を丸くしている。
「ティナ!! お前、腕は!? それに文字が消えて…… ネオ!! これは一体!」
レオナルドも訳が判らず混乱している。
「この剣は、人を切ることは出来ない、ただルーンを断ち切る剣なんだよ、先代オーランド国王のロバートじいさんから貰ったルーンブレイドさ、オーランドの秘宝らしい、もう心配ない、契約は解除した。ティナは大丈夫だ」
ネオはそう言うと、
「もう、こんな無茶するんじゃねーぞ」
と、ティナの頭を軽く叩いた。
皆はティナが犠牲にならずに済んだ事実を、じわりじわりと実感していき、爆発するように歓声を上げ、抱き合って喜びを噛みしめ合った。
レオナルドとティナは、お互いに涙を流しながら抱き合った。
そして、部屋の隅で、マリエルがパレットの肩を借りて、喜びの涙を流していた。




