同じ道か違う道か<前編>
【主な登場人物紹介】
・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…彩楸学園高校2年生。バイオリンを弾く。
・高瀬 也梛…同上2年生。キーボードを弾く。
・海中 諷杝…同上3年生。ギターを弾く。
【その他】
・衣川 瑞流…2年生。也梛のクラスメイト。
・臣原 千佳…2年生。矢㮈のクラスメイトで親友。
・世良…3年生。軽音部部長。諷杝のクラスメイト。
***
「ただいまー」
家に帰ると、階段の上から微かにピアノの音が聞こえて来た。
誰が弾いているかなど考えるまでもなかった。
高瀬葵は、足音を殺してダイニングの方へ向かった。
「あら、お帰りなさい」
台所の方から母親が顔を覗かせた。恐らく今帰宅した葵の夕飯の準備をしてくれているのだろう。
「母さん、あいつまた来てるの?」
天井を指差して訊くと、母親は微笑んだ。
「ええ。急に帰って来たと思ったら、もうかれこれ二時間くらいずっと弾き続けてるわね」
「夏休みからどうしたの、あいつ」
「さあ? でも懐かしいわねえ」
二人して天井を見上げてピアノの音色に耳を澄ませる。
中学までは当たり前のように家に響いていた弟のピアノの音。
それが聴こえなくなって数年、またこんな日が来るとは。
「そろそろあの子も向き合おうとしてるんじゃないかしら」
母親が呟くように言って、台所に戻って行く。
葵はまだ暫く天井を見上げたままでいた。
練習部屋に突撃してもっと近くで演奏を聴きたい気持ちはあったが、弟が嫌がるのは目に見えているし、それで演奏をやめて帰るとか言い出すのも嫌だった。
「葵、さっさと手洗って来なさいな」
「はーい」
まだ荷物も置いてなかったことに気付き、葵は音に耳を澄ませながら移動した。
***
一.
盆休みで帰省した際、也梛はほとんどピアノの練習部屋に引きこもっていた。
部活の合宿の合間を縫って妹が数日帰省した時だけ、彼女に付き合って少しだけ外に出たりした。自分の部屋で過ごしたのも寝る時くらいだったような気がする。
六畳の洋室で、壁際にアップライトピアノ、オーディオ機器、楽譜などが詰め込まれた棚、そして観葉植物が置かれている。昔、自分と姉が使っていたピアノの練習部屋だった。
もちろんここでキーボードも弾いていた。音楽祭が終わり、楽譜を改めて見直したり新しいものを考えたりしていた。
そして、諷杝に頼まれたイツキの曲もあれこれ考えて作ってみた。
ひとまずキーボードがあれば十分だった。今までもずっとそうだったのだ。
だから別に自分の部屋でも良かったのに――也梛はわざわざこの練習部屋を選んで籠った。少し前までは入ろうとも思わなかったくらいなのに。
他の部屋より防音だから?
家族が集めた楽譜がたくさんあるから?
ここにいると不思議と落ち着くから?
――この部屋には、ピアノがあるからだ。
也梛は、自分でも不思議なくらい、ピアノを弾いてみたいと思っていた。
(あんなに弾きたいなんて思わなかったのに)
昨日今日で突然気が変わったわけではない。
ただ、きっかけは何となく分かっていた。
あいつだ――あの、バイオリンを弾く少女だ。
諷杝と一緒にいるだけなら、絶対にこんな気持ちになることはなかっただろう。
コンクールになんて興味はない。自分が一番自由に弾けるのはキーボードだと今でも思っている。
でも。
(何なんだろうな……)
あの少女が舞台で演奏する姿を見る度に、どんどんと洗練されていく『彼女の音』を聴く度に、なぜか自分もピアノを弾きたくなることが増えた。
あのバイオリンと一緒に演奏したら、自分の納得する音が出るんじゃないだろうか。そんな期待が膨らんでいく。
そして、気付いた時にはピアノのカバーを捲り、黒く光る蓋を開けていた。
気が向くまま、適当な譜面を引っ張って来て弾いてみた。
正直に言って、驚いた。思っていたより指が動かない。
ずっとキーボードの軽いタッチの鍵盤を弾いていたから云々という感じではない。普通に音は紡がれて、曲は止まることなく部屋に響き渡る。だが、どうも違和感があった。
(……だいぶ鈍ってるような気がする)
納得がいかなくて、そのまま気が済むまで何曲もぶっ通しで弾き続けた。――見兼ねた母親がご飯の用意ができたと呼びに来るまで。
(なんか昔を思い出すな)
弾いているうちに、不思議と楽しい気持ちになってきていた。小さい頃、まだ上手く弾けずに詰まることが多かった時を思い出す。
あの時もああでもないこうでもないと、ひたすらに弾き続けていた。それが今の状況と重なる。
(俺は一体いつから止まってるんだろう)
ふと思う。周りからの称賛と共に自分の技術が上達していく自覚はあったが、果たして本当に進歩していたのだろうか。
技術の向上に、自分の気持ちはついて来ていたのだろうか。気持ちを置いてきぼりにした結果が、今なのではないか。
也梛は鞄の中からファイルを取り出した。
中身は例の未完成の楽譜だ。この続きの作曲は、今までの作曲とは少しわけが違う。
普段は主に愛用しているキーボードで済ませてしまうが、今回は音域も広いピアノできちんと考えようと思っていた。
そこで、諷杝が寮に戻るのが遅くなる日など、たまに家に帰ることにしたのだった。
先日諷杝とあれこれ話した部分を確認し、譜面を修正する。新しく思い付いたことはメモしておく。基本的には也梛が考えたものをベースにしていく方針なので、さらに先を考えていく。
行き詰ったらすでに完成していた途中までを繰り返し弾いて自分の中に刻み込んだ。
(切ないけど、優しい曲だよな……。諷杝の父さんもそういう人だったのかな)
作曲した人のことを想像する。彼はこれを、亡くなった友人に捧げようとしていた。
(俺はその意志をちゃんと汲むことができるだろうか)
それこそが、今回一番難しい部分かもしれなかった。フレーズの繰り返し、リズムの変化など思い付くパターンは多々ある。だがそのどれがこの曲にふさわしいのか、元の作曲者が求めたものを見つけ出すのは難しい。
作曲者の息子である諷杝は也梛の好きにして良いと言うが、とはいえ、はいそうですかというわけにもいかない。
也梛はキリの良い所で本日の作曲作業を終了した。結局は作業を終了しても生活のふとした時に考えたりしているのだが。
その時点で寮に戻っていれば夕食の時間に間に合ったのかもしれない。しかし、ピアノの前に座ったら勝手に手が動いて、結局さらに二時間もぶっ通しで弾き続けてしまった。
『……高瀬はピアノ、やっぱり出ないの?』
ふいに、数日前に矢㮈からかけられた言葉を思い出す。
相変わらずコンクールには興味がないので、そんな予定はないと突っぱねたが、なぜか心の中に気持ち悪く居座っている。
きっと彼女はコンクールに出る出ないではなく、也梛が人前でピアノを弾かないのか訊きたかったのだろう。――答えはやっぱり「否」だが。
その時、コンコンという音と共に部屋の扉が開いた。
「也梛。ご飯食べて帰るんでしょ? そろそろ食べないと」
姉の葵だった。也梛がピアノに没頭している間に帰って来たようだ。
「ああ、行く」
也梛はあっさりピアノの練習を終了し、荷物を持って階下のダイニングに向かった。
テーブルの上にはすでに夕飯の準備が整っていた。汁物と白ご飯はほかほかと湯気が立ち昇っている。
たまに帰ってくるようになって、こうして母親の料理を食べることも増えた。
「食べたら声かけてね。送ってくから」
葵はリビングの方に移動して小音でテレビをつけた。いつも遅くなる日は也梛を寮の近くまで車で送ってくれていた。
「別に電車で帰るから、さっさと風呂入って寝ろよ」
思わず言い返すが、姉は聞く耳を持たなかった。
「それで門限間に合うの? 車の方が早いでしょ」
確かに門限はあるのだが、事前に理由を説明しておけばそれほど問題にはならない。
それ以上言うのも面倒になって、也梛は夕飯を前に「いただきます」と合掌した。
そんな子どもたちの言い合いを聞きながら、母親が笑っていた。
二.
也梛たちのクラス二年三組の文化祭の出し物は、お化け屋敷に決定した。普通の教室二つ分を借りて実施する。
「高瀬、これ小道具係というか大道具係じゃね?」
壁を覆う段ボールを開きながら、衣川が疲れた顔で言う。
確かに彼の担当は当初小道具係だったのだが、大仕掛けの出し物ということもあって大道具係の人数が圧倒的に不足していることが判明した。というわけで、もう各自手の空いている者はとりあえず大道具係を手伝えということになったのだ。
だいたい、劇ではないのでお化け役であってもセリフを覚えることもない。結局クラス全員で大道具と背景を作成することになった。
「良いじゃねえか。段ボールを開くだけの簡単な作業で」
セリフや動きを練習せずに、ただ淡々と段ボールの作業。也梛は特に苦に思わず、むしろ楽だなと感じていた。面白いかと言われると面白くはない。
「それで高瀬はお化け役やるんだっけ?」
「当番に当たってる時だけな」
クラスの半数が脅かし役のお化け役に当てられている。時間制で交代しながらの担当だ。
「臣原さん喜ぶね」
「大丈夫だ。場内での写真撮影は一切禁止だ」
也梛の力強い返答に衣川が吹き出す。
「あはは。いや、さすがに暗い場所でフラッシュ焚かれたらお化けの方が嫌がるだろ」
「ああ、目が潰れる」
「臣原さんのことだから廊下に引きずり出すんじゃない?」
「それは怖いな」
一体どちらが化け物か。だがそれが冗談と笑い飛ばせる自信もなく、心しておかなければと思う。
「笠木さんはどうだろなあ。何かお化け屋敷苦手そうだったから、来てくれないかも」
そういえばこの前、お化け屋敷の話題が出た時に少しびびっていたような気がする。
(別に来なくても良いけどな)
もしかしたら、諷杝と一緒になら来るかもしれない。そしたら容赦なく二人とも驚かせてやろう。
衣川と喋りながら作業をしている内に、あっという間に下校の時間が来た。まだまだ段ボールは山積みだった。
「あー、手と腰が痛い」
「同感だ」
キーボードを弾きまくってもここまで痛くはならない。也梛は顔を顰めて手をグーパーしてストレッチした。
どこのクラスも文化祭の用意で忙しい。也梛が帰り支度をして廊下に出ると、廊下にはまだ片づけや掃除をしている生徒の姿があちこちで見られた。
(今頃は屋上もいっぱいだな)
いつも也梛たちが集まっていた屋上も、この時期には作業場所として重宝される。とても集まってゆったり演奏できる場所ではなくなる。
といっても、諷杝も矢㮈もそれぞれのクラスの準備で忙しいだろうからそもそも集まれないのだが。
職員室に用があったのでそちらに進路を取ると、階段を降りた所で声を掛けられた。
「おう、高瀬」
「世良先輩」
軽音部部長の世良だった。彼は上着を脱いでシャツ姿になっていた。そろそろ夕方は冷えて来る頃だというのに、そんなに暑いのだろうか。
「これから軽音部の方の練習なんだ。で、そうそう」
世良が思い出したとばかりに手をポンと打つ。
「お前ら、文化祭のステージ出ないのか?」
ステージ発表は部活・サークルとは別に特別枠が設けられていて、参加申請して受理されれば個人、グループを問わず参加できる。
「それ去年も春日井さんから訊かれたような気がしますけど……。申し込んでないですね」
「そっかー。海中も乗り気じゃなかったからなあ」
基本、也梛は諷杝が乗り気じゃないものには参加しない。
何より、音楽祭とは違い学園中の生徒を対象とした行事である。元々好き勝手気儘に、個人的に音楽を奏でていた也梛たちには特に出ようという気がなかった。
「笠木はコンクールがあるし、俺たちもクラスの方で忙しいので」
昨年と同じ理由を口にして逃げると、世良は残念そうにため息を吐いた。
「ああ、そりゃ厳しいか」
「すみません。でも世良先輩たちの発表は楽しみにしていますよ」
前回は春日井のライブを観に行って、也梛たちは見事熱に当てられてしまった。その放課後、いても立ってもいられず、各々楽器を持って集合してしまったのは今では笑い話である。
「春日井さんみたいに熱いの期待してます」
まさかそんな言葉を也梛からかけられると思わなかったのだろう、世良が少し驚いて、苦笑した。
「あんまりハードルを上げてくれるな。でも楽しみにしてろよ。築地たちも出るからな」
音楽祭で一緒だった軽音部一年の後輩の名前が出て来た。
「ギター、上手くなりましたか?」
「ああ、音楽祭よりもさらにマシになってんぞ。期待しとけ」
にっかと笑う世良が頼もしい先輩に見えて、也梛は思わず頬を緩ませてしまった。
「あいつらと一緒に観に行きます」
「ああ、よろしく」
世良と別れ、也梛は再び歩き出した。
三.
職員室の扉から、見知った顔が出て来た。
「諷杝?」
「あ、也梛」
焦げ茶の髪をふわりと揺らしてきょとんとしたのは諷杝だった。
「もしかして呼び出し食らったの?」
「んなわけないだろ。お前じゃないのに」
「あはは。冗談冗談。真面目な也梛がそんなわけないよね」
悪びれずに笑う諷杝を横目に、也梛は職員室に入った。
何と言うことはない。担任に提出書類を渡しに来ただけである。
あっという間に用を終えて退室すると、廊下で諷杝が待っていた。
「まだいたのか」
「んー? 也梛はもう帰る?」
「ああ。ここにいてもキーボード触れないしな。お前は?」
「僕も帰るよ。もう疲れた~」
二人で並んで昇降口へ向かう。先程世良と会った話をすると、諷杝が苦笑した。
「ああ、僕も同じこと訊かれたなあ。断っちゃったけど」
「らしいな」
「音楽祭はとりあえず音楽好きが集まるから気が楽なんだけど、学祭はちょっと色んな人がいすぎるというか……」
諷杝が大きなため息を吐き出す。何となく気持ちは察する。
「そう思うと父さんたちの『ZIST』はすごかったんだなあと思うよね。学園中で人気だったとかいうし」
二十年程前、諷杝の父親たちが組んでいたバンド『ZIST』は人気があり、ファンもいたと聞く。
「並早先生や笠木の母さんはそう言ってたよな」
「あの父さんがノリノリで、みんなの前で演奏してたなんてちょっと信じられないけど」
眉を寄せ不思議そうな顔で唸る諷杝は何とも複雑な表情をしていた。
(それを言うなら俺だってとても信じられないけどな)
諷杝の父親のことではない。その他のメンバーの一人のことを考えての感想だ。
「樹さんは分かる気がする。うん、あの人はお祭りとか好きそうだったし」
早逝したメンバーの並早樹についてはどこか納得しているような諷杝だった。彼は少し不思議な出来事を通して、死んだはずの樹と交流していたという。その時の印象からの言葉だろう。
「でも世良君のライブは楽しみだなあ」
「ああ。観に行きますって言っといた」
「そうだね。矢㮈ちゃん誘って三人で行こう」
諷杝がやっと笑って数歩先を行く。
昇降口も学祭準備から流れて来た生徒たちで混雑していた。
也梛は舌打ちしたいのを堪えて、さっさと靴を履き替えて脱出を試みた。
どん、と背中に衝撃を受けるとともに「すいません!」と慌てたような声が追ってくる。
振り返って見下ろすと、おでこを押さえた笠木矢㮈がいた。
「げ、高瀬」
「げって何だ」
ぶつかって来たのはそちらだろう。自分を見るなりその反応は何だ。
矢㮈は若干悔しそうな表情をした後、すぐにはっとしたようにバツが悪そうな顔になった。
「……ごめん」
一応非があることは認めているらしい。也梛は小さく息を吐いて流してやることにした。
「しっかり前を見ろ」
「……はい」
しかし彼女にこのような注意をするのはもう何回目だろうか。
(こいつ本当注意力散漫だよな……)
もしかしたら也梛以外にも被害を受けている者はいるのかもしれない。
そして矢㮈はちゃっかり、背の高い高瀬の後ろにつくようにして混雑している昇降口を脱出してみせた。人を使うとは、全くいい根性をしている。
「あ、矢㮈ちゃん!」
昇降口を出た所で先に脱出していた諷杝が待っていた。矢㮈を見つけるなり顔を明るくする。
学祭の準備が始まり、ここ暫くは放課後に集まることができなかった分会えて嬉しいのだろう。
「諷杝、お疲れ様。学祭の準備はどう?」
「まあまあかなあ。あ、でも今年は舞台に出なくて良いから気が楽だよ」
諷杝の謎の安堵に、矢㮈が「ああ」と苦笑気味に頷いた。
「去年のあれは……すごかったもんねえ」
彼女は感想を濁したが、諷杝の笑みが固まり、也梛も苦笑いしか出て来ない。それくらい、昨年の諷杝の大根役者っぷりは見事だったのだ。
「こ、今年は裏方だから!」
「でもちょっと進歩した諷杝も見たかったけどなあ」
「ええ、矢㮈ちゃん楽しんでるでしょ?」
「俺もちょっと見てみたかったな」
「也梛まで!」
頬を膨らませる諷杝が小さな子どもみたいで、也梛も矢㮈も笑ってしまった。
「そうだ。最近学校ではなかなか集まれないから、また『音響』かどっかに集合しない?」
矢㮈の提案に、彼女の方も気にしていたらしいことを知る。
諷杝が軽く也梛を窺ったので、頷いて見せた。その意図は正しく伝わる。
「僕たちは大丈夫だけど、矢㮈ちゃんは練習とか大丈夫?」
「大丈夫! ていうか……たまには息抜きをしないとやってられない……」
がっくりと項垂れた矢㮈に、諷杝が「お疲れ様」と呟く。
彼女は次回、地方大会のコンクール本選に挑む。それを勝ち抜けば全国大会だ。
昨年は軽い挑戦のつもりで臨んだ面があったが、今年は初めから本選突破が目標だった。プレッシャーも相当だろう。
別にダメだったからと誰も責めはしない。しかしそれに納得できるかは彼女次第だ。
「オッケー、じゃあ矢㮈ちゃんの空いてる日程をまた教えて」
諷杝が微笑んで頷く。
「! 分かった。……ちゃんと携帯チェックしてね?」
矢㮈が若干不安そうな目で諷杝を見る。携帯を携帯しない諷杝が心配になるのはもっともだ――彼と同族の也梛も他人のことを言えないが。
「わ、分かった! ちゃんと見とくよ!」
諷杝がまた大きく頷くと――一瞬目が泳いだのは気のせいだと思いたい――矢㮈はようやく微笑んだ。
「ん、じゃあまたメールするね」
自転車置き場に向かって歩いて行く矢㮈の後姿を見送った諷杝は、さっそく鞄の中をごそごそとし始めた。
「……携帯どこやったっけ?」
「もう首からかけとけば?」
ツッコむのも面倒くさくなった也梛は適当に答えた。
後編に続きます。(2022.04.16)




