落とし物<前編>
【主な登場人物紹介】
・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…1年生。
・高瀬 也梛…1年生。キーボードを弾く。
・海中 諷杝…2年生。ギターを弾く。
【その他】
・臣原 千佳…1年生。矢㮈と也梛のクラスメイト。
・松浦 大河…同上。
・衣川 瑞流…同上。
一.
二学期の中間試験が終わって秋も深まり、もうすぐに師走が来てしまうだろう頃。
春からずっと校舎の屋上のプチ庭園を拠点に集まっていた矢㮈たちだが、ついにその寒さには耐えきれず、学園内のカフェテリアの端に場所を移していた。
放課後のカフェはすでに閉店されて、ただテーブルとイスだけが生徒たちに開放されている。矢㮈たちの他にもサークルか何かで集まっている生徒や、自主勉強に励んでいる生徒の姿もあった。
そのため、屋上にいた時のように楽器を奏でることができないのが難点だった。
「……なかった」
白い丸テーブルに突っ伏して海中諷杝が呻いた。
「似たような曲調のはいくつかあったけど、全部違った」
「……そっか」
矢㮈はあちこちに跳ねている諷杝の焦げ茶の髪を見ながらあいづちを打った。
二学期すぐの学園祭の時に、取り壊されることになった旧校舎から、彼の父親が書き残した大量の譜面――中にはただのらくがきやテスト用紙、メモなど関係ないものもあったらしい――が発見された。父親が作曲した、とある曲の楽譜を探すためにこの学園に入学した諷杝は、その中に目当ての楽譜があるのではないかとすぐさま確認作業にとってかかった。
ルームメイトの高瀬也梛と共に日々確認作業を行っていたようだが、それがつい先日、ようやく全て終了したらしい。
残念ながら、目当ての楽譜は見つからなかったようだ。
「あー、とうとう見つかるかなと思ったのになー」
諷杝が体を起こし、小さく息を吐く。しかし残念そうな声音のわりに、その表情はあまり残念そうには見えない。むしろちょっと楽しそうで、矢㮈は首を傾げた。
「何でそんな楽しそうな顔してるの?」
「え? そう?」
指摘された彼は逆にきょとんとした顔をする。
「だって、見つからなくて残念だったんでしょ?」
「うん、そうだね。……でも」
「?」
諷杝がふいと横に視線をやる。追うと、隣で譜面をパラパラと捲る高瀬に行きついた。
「見つからなかったらその時は也梛が続きを考えてくれるらしいよ。そう思ったらそれも楽しみかなって」
「え、そうなの?」
「……お前も『一緒に』考えるんだよ。そこ忘れるな」
譜面からちらりとこちらを見て高瀬が呆れた顔で言う。
「でもあんたが考える続きも、ちょっと聴いてみたいような気がするかも」
「だよね、矢㮈ちゃん。僕も楽しみなんだ」
ポツリとこぼした矢㮈のつぶやきに、諷杝が笑ってうなずく。それに対して高瀬が今度こそ顔を上げた。
「だからお前ら何他人事みたいに言ってんだ。そういう笠木だってその時は一緒に考えることになるんだからな」
「え、何それ。あたしもなの?」
「当たり前だろ」
すでにそういうことになっているらしい。諷杝の方を見ると、彼もまたにっこり笑った。
「当然だよね」
その笑顔に勝てるはずもない。矢㮈は曖昧に笑い返すしかなかった。
しかし、彼らの中で矢㮈も一緒に考えるのが当然だと思われていること自体が純粋に嬉しい。
「でも間違いなく、あの曲に繋がる譜面もあちこちに見られるんだよな。似たフレーズが結構……こことか」
高瀬が持っていた譜面をテーブルに広げ、該当する箇所の音符の流れを長い指でなぞった。頭の片隅で綺麗な指だなと思いながらも、脳内では勝手にそのフレーズがバイオリンの音で再現されている。
確かに諷杝にもらった楽譜の曲と似ている。作曲したのが彼の父親なのだからそれも当然といえばそうなのだが。
高瀬はその他にも何点か指摘したが、その様は珍しくご機嫌なように見えた。何か好きなものに夢中になる小学生のような、無邪気な楽しさが感じられる。
(この大量の楽譜に一番喜んでいるのは高瀬の方なんじゃ……?)
息子の諷杝よりも、高瀬の方が譜面への興味が強い気がした。彼もまた作曲をする人だからだろうか。
「也梛、好きだよねえ、譜面見るの。全部確認終えてからも、何度も見てるし」
諷杝が苦笑する。
「だって面白いだろ。他の誰かが――それも今回は、あの曲作ったお前の父さんが俺らと同じ年頃に書いた譜面なんだから」
言い返す高瀬はもう完全に、楽しいおもちゃを手に入れた子どもだった。
「まあ、君にそれだけ喜んでもらえたら父さんも本望だと思うよ」
まるで兄のように落ち着いた風に言い、諷杝は「ところで」と矢㮈の方に視線を戻した。
「中間試験からここ暫くまたご無沙汰だったね」
「あ、うん、ごめんね。あたしも譜面の確認作業手伝えれば良かったんだけど……」
本来なら、矢㮈も彼らの作業の手伝いをすべきだったのだ。いや、できることなら手伝いたかった。だが、矢㮈自身にその余裕がなかった。
夏休みの終わり頃から途中学園祭を挟んで中間試験期間にかけて、矢㮈にはまた別のところで勝負する場所があったのだ。――諷杝たちには何も言っていなかったけれど。
「で、音楽コンクールはどうだったわけ?」
「!」
矢㮈が言い出す前にぶった切る問いを発したのは、言わずもがな高瀬だった。
「な、何であんたがそれを……」
家族以外知らないはずなのに。弟の弓響にも箝口令を敷いていたというのに。
「何となく、今のお前ならそろそろ出るんじゃないかと思ってネットで」
しれっと高瀬が言ってのける。そうだった。高瀬は元々ピアノを弾いていて、彼自身過去にそういった大会に出た経験があるのだろう。だからこそコンクールのこともすぐに思いついたのだ。
「え、矢㮈ちゃんコンクール出たんだ!」
何も知らない諷杝は顔を輝かせて、期待した目で矢㮈を見る。
「いや……そんな期待した目で見ないで。てか高瀬は結果も知ってるんでしょ」
彼のことだからしれっと結果も確認済みに違いない。
「まあな。でもよくあんなブランク明けの状態で予選通過できたな。本選落ちでもそれだけであっぱれだよ」
相変わらず上から目線の褒め言葉なのか何なのか分からない言葉をありがとう――と、矢㮈は白いイスに背を預け天井を仰いだ。
そう、結果は地方予選通過の本選落ちだ。当然全国大会には出場できなかった。
「え、すごいじゃん。よく頑張ったね」
それでも諷杝が手を叩いて労ってくれる。こちらは相変わらず素直に矢㮈の健闘を褒めてくれる優しい先輩だ。
ようやくダメージから回復して上半身を起こした矢㮈に、高瀬が改めて問いかけた。
「で、どうだったんだ?」
「はい?」
「久しぶりのコンクール。お前自身の感想だよ」
呆れたように言い直され、矢㮈は少し考えるように黙った。
本当に久しぶりのコンクールだった。最後に出たのが祖父が亡くなった年だったから、もう二年になる。
(むしろおばあちゃんや弓響たちの方がおろおろ心配してたっけ)
不思議なことに、矢㮈自身はそこまで大きな緊張を感じることはなかった。それは恐らく、このコンクールに全てを懸けていたわけではなかったからだと思う。二年というブランクがあっての腕試しだという自覚があったからだ。
「……あたしは楽しかったけど、でも」
それは一方で、バイオリニストとして大きなものを懸けていた他の参加者たちには到底及ばなかったということも示す。
「本選で勝ち上がって全国に行こうと思ったら、まだまだ、まだまだ力不足だった」
腕試しだと割り切ってはいたが、やはり本選で聴いた他の参加者たちの音色を聴いて悔しく思う自分もいた。それらと自分の音色、技術を比べずにはいられない。
(そういえば……あの人も出てたな)
ふと思い出す。つい最近出会った同じ年頃のバイオリニストも、あの会場にいたのだ。
それは夏休みの音楽祭前にこっそり聴きに行った高瀬のピアノの舞台で、彼と共に演奏していた彼女だった。――名前はよく覚えていないが、その姿と演奏は記憶に新しく、矢㮈はすぐに彼女だと分かった。
もちろん彼女の演奏技術は矢㮈よりももっと上を行っていて、感嘆するしかなかった。
「ふーん、そっか。なら良かったな」
高瀬が何げなくあいづちを打つ。どこか投げやりな言葉なのに、なぜかそうは聞こえないのが不思議だった。
「お前はまだまだ伸びしろがあるってことだ」
「!」
ふいにぽんと投げつけられる言葉。彼のこういう、ともすれば聞き逃してしまいそうな、さりげない言葉にたまにはっとさせられる。
「うん、矢㮈ちゃんは頑張り屋さんだから、まだまだ上達するよ。大丈夫」
諷杝が優しく微笑んで、お疲れ様と言わんばかりに矢㮈の頭を撫でてくれた。それに甘えるようについ俯いてしまったが、矢㮈は小さくうなずき返した。
「そういう也梛はもうピアノは弾かないの?」
「全くそんな予定はない」
にべもなく答える高瀬に、諷杝は肩を竦めやれやれと息をつく。
「そんなことより諷杝。お前、次はどうするつもりなんだ?」
「次?」
その切り返しが意外だったのか、きょとんとする諷杝。今度は高瀬の方が肩を竦めながら、手元の譜面をパラパラと捲って見せた。
「お前の父さんの楽譜の件だよ。頼みの副理事長のおかげであの大量の譜面に辿り着いたわけだが、結果はハズレ。次の当てはあるのか?」
「ないね」
あっさり答える諷杝はいっそ潔い。しかも、
「まあないものはしょうがないよ。せっかく見つかった父さんの譜面をのんびり眺めながら、次のヒントを探すしかないね」
「お前なあ……」
一番必死なはずの諷杝がそんな呑気なことを言うので、高瀬は頭を抱えたまま黙るしかない。矢㮈も高瀬と同じ気持ちだった。
(諷杝、本当に探す気あるのかな……?)
今になって、そんなことを思ってしまった。
二.
「ねえ千佳ちゃん、ここの問題どう解くの?」
「ここはさっきの問題と同じパターンだから……」
机を二つ向かい合せにした正面に座る臣原千佳に尋ねながら、矢㮈は何とも嬉しい気持ちでいっぱいだった。そのせいかどうしても頬が弛むのを抑えきれない。
「……ちょっと笠木、さっきから何なのそのニヤニヤ顔。気持ち悪いし不気味なんだけど」
容赦のない友人の指摘にも、矢㮈は寛容にふふと笑い返すだけだった。千佳はさらに眉を顰めて若干身を引く。
「だって嬉しいんだもんー。こうして千佳ちゃんにテスト勉強見てもらえるのが!」
そうなのだ。今回の期末試験の勉強は、クラスで一番仲の良い――そして頭も良い――千佳と一緒に行っているのだ。
これまで彼女はテスト期間であろうと特別許可が出る陸上部の練習に参加していたため――それでも成績を落とさないのだから恐れ入る――こうして放課後に一緒にいることさえあまりなかった。
彼女曰く、毎日トレーニングはあるものの、これからの季節はマラソンや駅伝といった長距離走がメインになるため、ひとまず短距離走中心の彼女は心持ちオフなのだそうだ。
というわけで、矢㮈はすかさず千佳を勉強会に誘い込んだわけだ。
「何と言っても先生役が千佳ちゃんってだけでもう天使だよ~」
「はいはい、さっさとその問題の数式書きなさいよ」
天使の千佳が、矢㮈の手元にあるプリントを指差して溜め息を吐いた。
「私はやっと高瀬君と勉強ができると思って楽しみにしてたのに!」
「千佳ちゃんは高瀬に教えてもらうこと何もないでしょ」
「分かってることでもあえて聞くのよ! ていうか一緒に勉強できるだけでいいの!」
千佳の熱弁に今度は矢㮈の方が身を引いて苦笑いを浮かべた。
(……高瀬、愛されてるなあ)
彼女はなぜか、クラス一不愛想で近付きにくいオーラを纏っている、とてつもなく口が悪い眼鏡男子・高瀬がお気に入りである。当の高瀬はそんな千佳にどう対応していいか分からないらしく苦手に思っているようだが、最近は少し慣れたのか上手くあしらうスキルを身に付けたようだ。
実はこれまでのテスト勉強は、クラスメイトの男子たちと一緒に高瀬に教えてもらっていた。それはそれはものすごいスパルタだったが効果は確かで、矢㮈たちの成績が上がったのは言うまでもない。
今回、千佳はようやくその勉強会に自分も合流できると楽しみにしていたらしいのだが――現在教室に残っているのは矢㮈と彼女の二人だけであった。
「それもこれもの課題レポートのせいで……! いや、あの男子グループのせいで!」
「……まあ、連帯責任だよね」
憤る千佳を「どうどう」となだめて、矢㮈は六限目の化学の授業を思い返した。
六限目、矢㮈たちのクラスは化学の授業でグループに分かれ実験を行っていた。矢㮈と千佳のグループには文化祭実行委員だったしっかり者の佐藤がいて、ちゃきちゃきと予定通り進行、レポートも時間内で終わらせることができた。
しかし一方の高瀬たちのグループはというと、実験の内容とは関係のないところで問題を起こした。詳しく言うと、実験に使用した着色料で遊びだした者がいたのだ――小学生か。
そうは言ってもあの高瀬なので、彼自身は授業内でレポートをほぼ終わらせていた。ちゃっかり自分は提出してさっさと帰ろうとしていたのを、同じグループの松浦と衣川、そして遊んでいた張本人の豊田と金城が涙ながらに助けを乞うものだから、ついには根負けしたのだ。
「高瀬え! オレらを見捨てないでくれ!」
「ったくうるせえな! 分かったから、さっさと用紙を出せ!」
それがつい一時間半ほど前の化学実験室での光景である。彼らは化学講義室に移動し、さっそく鬼の高瀬監督の元、レポート作成に取り掛かっていた。
(まあ付き合ってあげるあたりは成長したよね)
今までの高瀬なら、「バイトだ」とか何とか言って無情にも一人帰ってしまっていたに違いない。いや、矢㮈が相手ならそうかもしれない。
「やったー、終わったよー」
問題集の最後の問題を解き終え、答え合わせをする。よし、答えも途中の計算式も合っている。
ほうっと安堵の息を吐いた矢㮈の隣では、小腹が空いたのか焦げ茶色の星形の塊を摘んで口に放る千佳がいた。
「あ、千佳ちゃん何食べてるの」
「チョコレート。はい、笠木もお疲れ」
千佳は小袋から個包装のチョコレートを取り出し、一つを矢㮈の手の上に転がした。
丁度区切りの良いところだったので本日はここまでにしようと二人で教室を出た。こうして一緒に帰るのも久しぶりだからどこかに寄って帰ろうかと話しながら、昇降口へ向かう。
途中、職員室近くの廊下で特別棟からやって来た男子五人と鉢合わせた。途端、千佳の顔が輝く。
「わあ、高瀬君! レポート終わったの? お疲れ様!」
「俺のレポートはとっくに終わってるが、確かにお疲れ様だな」
どこか疲れたような顔の高瀬を除いて、他の四人はるんるんの表情をしている。
「オレ、今までこんなにしっかり書いたレポートないかもしれない」
「俺も!」
彼らにとってはとても実のある時間を過ごせたようだ。
「後は先生に提出して帰るだけー」
なぜか男子たちが職員室の方に向かった後を千佳がついていったので、矢㮈も仕方なく一番後ろからついて行った。
「失礼します。滝本先生―」
先頭で入っていった松浦が「あれ?」と首を捻る。
「どうしたの」
すぐ後ろにいた衣川が、松浦の肩越しに職員室を見回して、
「先生いないけど……」
「え?」
豊田と金城が目を見張る。
「トイレかコーヒー淹れに行ってるとかじゃねーの?」
「でも先生の机周り、鞄とか荷物がないんだけど」
「……もう帰ったとか?」
「でもまだ定時じゃなくない? 下校時間もきてないよ」
「『私が帰るまでに提出して帰るように!』って言ってたじゃん!」
「どうすんだよ。今日金曜日で次の金曜日まで授業ねーぞ。月曜に出したらセーフか?」
「こんな入り口で集まってどうかしたのかい?」
職員室の入り口でざわざわしていた矢㮈たちの後ろから、聞き覚えのある気楽な声が聞こえて来た。
「並早先生」
矢㮈が軽く会釈すると、英語担当教諭の並早がコーヒーカップを片手に微笑んだ。
「ああ、滝本先生ならさっき職員用の下駄箱前でお見掛けしたよ。今日は朝が早かったから少し早めに帰られるそうだ」
「……!」
そんなことは聞いていない、と男子たちが顔を見合わせる。
高瀬から手短にレポート提出の件を聞いた並早は、カップを持っていない方の手で「うーん」と顎を撫でた。
「別に机の上に置いといても月曜でもいい気はするけど、でも確か滝本先生、月曜日は出張だった気が……」
さらに知らないとんでもない事実が発覚し、ついに豊田が廊下に足を向けた。
「こうなったら意地でも渡して帰るしかねえ」
「もういっそ諦めるというのもあるけどな」
高瀬がすでに諦めた口調で言う。
「いや! まだ学校の敷地を出ていなければ先生は帰っていない!」
「……今から帰ろうとしている人に、自分の心の安寧のためにレポート押し付けようとすんなよ」
とっくに提出し終わっている矢㮈は高瀬の言葉に同感だったが、豊田たちの気持ちも分からないではない。
「昇降口から正門までの並木道は結構長いし、上手くいけばそこで追いつけるかもな」
衣川がぼそりと付け加えた。
「しょうがない、ダッシュするしかないか……あ」
と、松浦がふいに千佳を見た。短距離走期待の星がすぐ近くにいた。
「こんな時に心強い臣原さんがいる」
「いやよ、私は走らないから」
「でもこのままじゃ高瀬のレポートも間に合わない」
つれない千佳の心を揺さぶるかのように高瀬ワードを出す松浦。
「いや、俺はもう諦めて……」
高瀬が仏頂面で口を挟むのをスルーするかのように、千佳が溜め息をついた。
「……そうよね。元々高瀬君は巻き込まれただけだものね。分かった、私が先生の足止めをしてあげる」
(え、千佳ちゃんそれで良いの!?)
黙って成り行きを見守っていた矢㮈だが、ここまでくるともう何も言う気も起らなかった。やはり千佳の高瀬への愛は重い。
松浦たちが「よっしゃー」と歓喜に湧き上がる中、早くも千佳は昇降口へと早歩きで去っていく。きっと靴を履き替えたら全力ダッシュなのだろう。たとえローファーでも。
千佳の後を追うように動き出した男子たちを見送りながら、まだそこにいた並早が苦笑した。
「高瀬君、愛されてるねえ」
「……」
同じくまだここにいた高瀬が仏頂面でただただ無言。
「ほら、あんたも早く行きなさいよ! 千佳ちゃん、あんたのために走ってくれたんだから!」
背の高い彼の背中をバシンと叩くと、「……頼んでねーよ」と呟いて高瀬も渋々昇降口に向かった。
後編に続きます。(2019.01.23)




