数多の欠片<前編>
【主な登場人物紹介】
・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…彩楸学園1年生。
・高瀬 也梛…同上1年生。キーボードを弾く。
・海中 諷杝…同上2年生。ギターを弾く。
【その他】
・イツキ…白い鳩。諷杝に懐いている。
・臣原 千佳…彩楸学園1年生。矢㮈のクラスメイト。
・並早…英語教諭。
一.
体のあちらこちらで微妙に筋肉が引き攣ったような痛みがある。
(日頃の運動不足が祟ったのかなあ。特に障害物競走では平均台に網潜りに縄跳びと……普段使わない筋肉使ったし)
全ての元凶ははっきりしていた。昨日の体育祭である。
笠木矢㮈は廊下を歩きながら、腕をほぐすように小さく回した。階段に足をかけて数段、ふくらはぎがピリリと張る。
「かっさぎー、おはよー!」
超ご機嫌な声に振り返ると、同じクラスの臣原千佳がいつもの明るい笑顔で階段を軽やかに駆け上がってきた。
(さすが現役陸上部。昨日あれだけ走り回ってたのにピンピンしてる)
確か千佳は走種目全てにエントリーしていたはずだ。さらには体育委員として忙しく運動場を走り回る彼女の姿も目撃していた。
千佳は矢㮈のぎこちない体の動きと顔の表情を不思議そうに見て、
「え、何、もしかして筋肉痛?」
「もしかしなくても筋肉痛だよ」
「ええ? 笠木そんなにエントリーしてなかったでしょ? しかもあんま激しい種目もなかったじゃない」
「……そんなことを言われても」
筋肉痛になってしまったのは事実なのだから仕方がない。
「あー、学園祭も終わっちゃったわね~。後は試験を乗り越えて冬休みを楽しみにするくらいかあ」
いつも通りに軽々階段を上っていく千佳に合わせ、矢㮈もピキピキする足を動かして上る。
「ああ、また試験がやってくるのか……」
すっかり忘れていた。というより、つい最近までは学園祭のことしか考えていなかった。
そして学園祭が終わった今、矢㮈の中では試験や冬休みのことよりも気になることがあった。
「でもその前に、まずはクラスの打ち上げだけどね!」
千佳が弾んだ声で言って教室に飛び込んでいく。少し遅れて矢㮈も教室に入り、自分の席に着いた。疲れが残っているせいか体が怠い。だらりと椅子の背もたれに背を預けて息を吐き、ふと廊下側の後方の席に目を遣る。
黒い髪の眼鏡をかけた男子生徒・高瀬也梛が、席に着いて分厚い本を開いていた。相変わらずの近寄り難いオーラを醸し出している。この文化祭でだいぶクラスの皆と打ち解けたと思っていたのだが、これではまた前の通りではないかと少し呆れる。
(ん?)
暫く彼を見ていて気付いた。手元の本がなかなか次のページへ進まない。彼の視線は確かに本の上に落ちていたが、しかしその目は文字を追っているわけではないようだ。何か考え事をしているように見えた。
(もしかして高瀬も一昨日のことを考えているのかな)
彼が考えていることに、一つだけ心当たりがあった。それはまさに、矢㮈にとっても気になることだったからだ。
(それに……諷杝はこれからどうするんだろう)
矢㮈は視線を窓の外の青空に移し、ぼんやりと一昨日のことを思い返した。
二.
一昨日、文化祭二日目の全ての行程が終了した後のことだった。
春日井たちのライブ演奏を聴いていてもたってもいられなくなった矢㮈たちは、それぞれの楽器を持って集まっていた。どこで演奏しようかと思っていたところ、白鳩のイツキがとある方向に向かってひょこひょこと歩きだしたのだ。
イツキは中庭を突っ切って、さらにその奥に続く繁みに入り、雑草の生えた細い道を突き進んだ。
そして目の前に現れたのは、現在立ち入り禁止になっている旧校舎だった。夕方時ということもあって暗い影がかかる校舎はどこか不気味で、周りに矢㮈たち以外の人気は全くなかった。
誰もいないことを良いことに、矢㮈たちはその場でそれぞれの楽器を取り出して奏で始めた。演奏に入り込んでしまえば、そこがいかに不気味な場所であろうと全然気にならなかった。
久しぶりの演奏が心地よく、一曲が終わって軽口を叩き合っていたところに、来訪者があった。
「ああ、懐かしい音が聞こえると思ったら」
現れたのは、グレーのスーツに小太りの身体を包み、眼鏡をかけて優しく微笑む初老の男性。首からは名札のカードをぶらさげていた。
誰だろうと思っているうちに、諷杝が口を開いた。
「もしかして、副理事長ですか?」
「はい、私が副理事長の松殿です。初めまして、海中君」
副理事長の松殿は諷杝に軽く会釈し、続いて矢㮈と高瀬を見てどこか懐かしそうに眼を細めた。
(副理事長って、そういえば諷杝が前に会いたいって言ってた……?)
つい最近、並早が諷杝に、「副理事長にはもう会えたのか」と訊いていたのを思い出す。
(ていうか、そもそもは……)
矢㮈は「副理事長」に関するキーワードを記憶の中から必死に手繰り寄せた。そして、そういえば、とさらに思い出した。
副理事長のことを諷杝に教えたのは、矢㮈の母親だった。
夏前、諷杝と高瀬を初めて実家の洋菓子店に招待した時に、母親が彩楸学園の出身だということを知った諷杝が当時のことについて質問していたのだ。彼の父親が組んでいたバンド『ZIST』について何か知らないか、と。
矢㮈の母親はそれに対し、『ZIST』に関わりのある先生がまだ彩楸学園にいて、現在は確か副理事長だったはず、と言っていた。
それから諷杝は副理事長にコンタクトを取ろうとしたようだが、忙しい副理事長はなかなか捕まらず、結局この日まで会えなかったということだ。
矢㮈は黙って諷杝と副理事長を見つめていた。高瀬も同じく口を挟まずにその場を見守っているようだった。
「副理事長先生、いきなりで申し訳ないんですが、実は聞きたいことがあるんです」
「うん、そうだろうね。並早先生から声をかけられた時にそんな気はしていたんだ。君が私に聞きたいことがあるとしたら、一つしか思い当たらない」
意を決して口を開いた諷杝の言葉に、副理事長は何もかもわかっているというように大きく頷いた。
諷杝が目を見開いて小さく息を呑む。つられて矢㮈も変に緊張してくるのを感じた。
副理事長は微笑んだまま、くるりと体を旧校舎の入り口の方に向けた。入り口の前にあるベンチで優雅に寛いでいる白い鳩を見て小さく笑う。
「ああ、君もいたんだね」
イツキは副理事長をじっと見つめ、小さく首を動かした。それは会釈の代わりのように見えた。
副理事長はスーツのポケットから鍵を取り出すと、何も言わずに旧校舎の入り口の扉を解錠し始めた。
「え、ちょっと、副理事長先生?」
矢㮈と諷杝、それから高瀬がそろって目を丸くする中、副理事長はあっという間に扉を大きく開けて、さあどうぞと言わんばかりに矢㮈たちを振り返った。
「今日は特別に中に入れてあげよう。さあおいで」
副理事長が校舎へと誘うように手を広げる。
イツキがベンチから飛び下りて、真っ先に扉へと近付いていく。
矢㮈たちはお互いに顔を見合わせて小さく頷き合うと、急いで楽器をしまい、暗い旧校舎へと足を踏み入れた。
副理事長は初めから旧校舎に入るつもりだったのか、単に日が落ちて暗くなった時のためのものか、懐中電灯を用意していた。
「もう電気を止めているから、入るなら本当は日が落ちる前が良いんだけどね。色々やっていたらいつもこんな時間だ」
副理事長はぶつぶつ言いながら、小さな昇降口を抜けて左右に延びた長い廊下を左に進む。途中で上階への階段を見つけたが、その前を素通りしてさらに奥へと進んだ。
矢㮈は諷杝と高瀬に縦に挟まれるような形で、懐中電灯が照らしだす埃っぽい廊下を見つめながら歩いた。少し心細くなって前を行く諷杝のシャツの裾を摑んでしまったが、彼は気付いているのかいないのか何も言わなかった。
ふいに、ポン、と肩に何かが触れて矢㮈は飛び上がった。
「ひやあああああ!」
「え、何!? 矢㮈ちゃんどうしたの!?」
矢㮈が諷杝のシャツの裾を思い切り引っ張ってしまったせいもあるだろう、諷杝が驚いたように振り返る。
後ろで小さく溜め息が聞こえた。
「……足元、気をつけろって言おうとしたんだよ」
恐る恐る振り返ると、高瀬が矢㮈の肩から手を離して足元を指差した。
「あ……」
廊下が少し盛り上がって、端には亀裂が走っていた。
「ああ、先に言っておくべきだったね、ごめんよ。立ち入り禁止になっていることからも分かる通り、至る所で劣化が見られるから気をつけて」
少し先から副理事長が申し訳なさそうに言う。
「……何でそんな所に俺たち生徒を入れたんだ、あの先生」
高瀬が副理事長に聞こえないくらいの声でボソリと呟く。
「おい、諷杝。お前知らないうちにあの副理事長から何か怨みを買ったりしてないよな?」
怖いことを言い出す高瀬に、諷杝は肩を竦めてみせた。
「まさか。僕はただあの先生にずっと会いたかっただけだよ。それに今回が初めましてだからね」
どうだか、とまだ疑わし気な高瀬も軽く肩を竦めた。
「っ……ひやあ!」
二人の会話をボケっと聞いていた矢㮈は油断していた。今度は足元――丁度ふくらはぎの辺りに鋭いものが数回触れた。
「うわあっ」
続いて諷杝も声を上げる。
「今度は何だ。しかも二人そろって」
三人そろって視線を下に向けると、そこには白い鳩が一羽。
「ああ~~~イツキさんかあ。もう、驚かせないでえ……」
一気に脱力してその場にしゃがみこんでしまった。イツキは早く進めと言わんばかりに、前方の副理事長の方に首をくいっと動かして見せる。
諷杝がどこかほっとした顔をしながら苦笑し、矢㮈の腕を引っ張って立たせてくれた。
「ありがと」
「何だかイツキさん張り切ってるねえ。そういえば僕たちをここに誘導したのもイツキさんだったし」
「そうだね、イツキさん追わなかったらこんなとこまで来なかったし」
矢㮈は諷杝と一緒に、廊下をひょこひょこ行く鳩の後ろ姿を見つめた。
このイツキという白い鳩は、たまにただの鳩だと思えない時がある。何食わぬ鳩の顔をしながら、矢㮈たちをどこかに導いているような気さえする。そしてまた矢㮈たちもその後について行ってしまうのだ。
「鳩の考えてることなんて知らねーよ。ほら、行くぞ」
足が止まったままの矢㮈たちに業を煮やしたのだろう高瀬が二人を追い越したので、
「あ、待ってよ!」
「私、一番後ろは嫌あ~!」
慌てて置いて行かれないようにその背を追いかけた。
廊下の突き当りの扉から一つ手前の扉の前で、副理事長が立ち止まった。扉の横に連なる廊下に面した窓は全てカーテンが引かれていた。ぱっと見では物置き教室のような雰囲気だ。
副理事長は懐中電灯を諷杝に預けると、ガタガタと音を立てながら錆びた扉を横にスライドさせた。
諷杝が懐中電灯で部屋の中を照らし出す。
扉を開ける前から想像していた通り、やはり中も物置きという表現がぴったりくる教室だった。もろに埃と黴の臭いがする。
床の面積の半分以上が色々な物で溢れ返っている。様々な形、大きさをしたケースのような箱。雑巾やバケツ、箒といった掃除用具。どう考えても椅子の方が多く点在する勉強机。その他一見しただけでは判別ができない得体の知れないものもある。
部屋の奥の壁には上下二段のロッカーが並び、空いている壁には手作りのボードらしきものがかかっていて、そこには色あせた写真がペタペタと貼ってあった。
「ここは……」
「ここはかつて部室として使われていた教室だ。隣二つもそうなんだけど、私が顧問をしていた音楽関係の部はここを使っていたんだ」
副理事長の話によると、数年前に立ち入り禁止になった時に部室は現在の場所に移り、ここにはもうほとんど使われなくなった廃棄処分のものだけが残されているということだった。恐らく今度この旧校舎を取り壊す時に、一緒に廃棄することになるのだろう。
「もちろん君のお父さんがいた頃はここを使っていた」
「!」
諷杝がはっとしたように教室内を見渡す。暗くて、埃臭くて、狭苦しい空間だが、彼には少し違って見えているのかもしれない。きっと父親がこの教室で活動している姿を頭の中に描いているに違いない。
「……よっと」
諷杝が照らす光の中から暫く消えていた副理事長が姿を現したと思ったら、パッと部屋の中が明るくなった。
懐中電灯の光の環よりも大きな明かりが部屋の隅で点灯していた。
「良かった、まだ使えた。隣の部屋は演劇部の物置き部屋でね、古い照明器具を拝借してきたんだ」
それを非常用電源に繋いで電気をつけたらしい。懐中電灯の明かりだけではやはり心もとなかったのか、急にほっとした心地だった。
「それにしてもすげーな……。本当に部室って言うより物置部屋だ」
高瀬が雑然とした部屋を見回して辟易した顔をする。
明かりが点いたことで、今までスルーしてきた物に降り積もった埃が嫌でも目に入る。これは相当掃除もされていないようだ。
「さて、改めて海中君の話を聴こうか」
副理事長が諷杝に視線を向けた。過去に思いを馳せていた諷杝が現在に戻って来て、副理事長の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「僕は……かつてこの学園に通っていた父が残した、ある曲の楽譜を探しています。父は死ぬ間際、この学園にあると言っていたからです」
そう、彼はただその言葉を信じてこの学園に入学したという。
「ある人に、副理事長がかつて父が組んでいたバンド『ZIST』に関りがあったと教えてもらいました。何か心当たりはないでしょうか」
「なるほど」
副理事長は顎に手をやって、暫く何かを考えるようにじっと諷杝を見つめた。諷杝は黙って次に続く言葉を待っていた。
そばで見守る矢㮈と高瀬も身じろぎせずに彼らを見つめていた。
「心当たりがあるかないかでいうと、一つだけある」
「!?」
諷杝が身を乗り出す。矢㮈と高瀬も目を見開いた。
「というより、私が君に提供できるのはこの一つだけだ。実はこの部室のロッカーには、いくつか鍵のかかったままのロッカーがあってね」
副理事長は教室の一番奥のロッカーの前まで歩いて行った。壁の半分と少しを占める、上下二段のスチールロッカー。ところどころへこんだり、塗料が剥がれたり、傷がついたりしている。中には扉が完全に外れてしまって、中が丸見えのところや、取っ手が外れたものもあった。
「いつから鍵がかかったままなのか確認してないから、ヤバいものが入ってないことを祈っているんだけど」
副理事長が恐ろしい台詞を口にしたのでぎょっとする。何とは言わないが、本当にヤバいものが入っていたらどうするつもりなのだろう。……正直、もうこの旧校舎を取り壊す時まで見ない方が良いのかもしれない、と矢㮈は思った。
「実はこの春、私の元に一つの鍵が届いてね」
副理事長はスーツのポケットから、先程取り出した旧校舎の鍵とはまた別の、もっと小さな鍵を取り出した。鍵には黄色いリボンがついていた。
そして、一番右端の下段のロッカーの鍵穴に差し込んで回す。
カチリ、と小さな音がして、ギギギと軋んだ音を立てながらロッカーの扉が手前に開いた。
その瞬間、ざざーっと大量の紙が床に散らばった。ロッカーの中にはまだ大量の紙が詰め込まれているのが見えた。
「……」
その場に居たものは声もなくそれを見ていたが、やがて高瀬がかがんで床に落ちた紙の一枚を拾い上げた。A4サイズの紙に書かれていたのは――
「……譜面だな。これ、全部か」
五線が印刷された紙には、手書きの音符や記号、それから時々メモが書き込まれている。若干色あせてはいるが、様々なカラーペンを使っているのもうかがえた。
諷杝も呆然としたまま楽譜を手にし、それからポツンと呟いた。
「……父さんの字だ……父さんの楽譜だ」
しかしその紙の枚数は半端ない量だ。これが一曲分だとしたらとんでもない大作だ。
手近にあった数枚を見比べていた諷杝は、やがて微かに眉を寄せた。
「これ……多分完成してない」
「ああ。試行錯誤してる過程ってところか」
同じく数枚にざっと目を通した高瀬も頷いた。
「まだ全部見てみないと分かんねーけど、これがあの曲の続きかどうかも不明だな」
もしかしたら完成形がひょっこり紛れているのかもしれないけど、と付け足す。
「でも諷杝のお父さんはこの学園に続きがあるって言ってたんでしょ?」
矢㮈が不思議に思って諷杝に尋ねると、彼は小さく頷いた。
「うん、確かにそう言った。これは本当だよ。僕にはそれしか手がかりがなくてこの学園に来たんだから」
諷杝は手元の楽譜を食い入るように見つめ、やがてはあと息を吐いた。
「副理事長先生、これ全て持って帰っても良いですか?」
「良いよ。むしろ君のお父さんのものだからそうしてくれるとありがたい。私もそれをただ廃棄するのは心が痛いからね」
「ありがとうございます。……也梛、半分持ってくれる?」
「ああ」
諷杝は床に落ちた楽譜を拾い集め、さらにロッカーに残ったままの分と合わせて半分を高瀬の腕に預け、残りを自分で抱え持った。二人が抱えたその紙束は、改めて相当の量だった。
演劇部から拝借した照明を元に戻し、また懐中電灯の光を頼りに副理事長を先頭に旧校舎の廊下を歩いて昇降口まで戻る。昇降口を出て外に出ると、すっかり暗くなった空には星が瞬いていた。
副理事長が旧校舎の入り口の扉の鍵を元通りに施錠する。その足元ではイツキがぴょこぴょこと跳び跳ねていた。
「そういえば先生、さっきのロッカーの鍵はどこから届いたんですか?」
諷杝がふと思い出したように問う。そういえば、なぜ副理事長は諷杝の父親の書いた楽譜が入っているロッカーの鍵を持っていたのだろう。
「さあ、誰からだろうね。匿名で届いたんだ。もしかしたら君のお父さんかもしれないね」
副理事長はやんわりと微笑み、それ以上は語ろうとしない。その言葉が本当かそうでないかは分からなかった。諷杝は少し考える素振りをしたが、やがて頭を軽く振って気を取り直したように副理事長に微笑んだ。
「今日はお忙しいところ、ありがとうございました。正直この大量の楽譜に戸惑ってますけど、とりあえず確認してみるところから始めます」
「ああ、ゆっくり目を通して考えるといい。まだ君には時間があるのだから」
副理事長は頷き、どこか懐かしそうに改めて矢㮈たち三人を順に見た。
そして四人と一匹は繁みを抜け、中庭を突っ切り、いつもの学園の校舎に戻って来た。そこで副理事長と別れる。
「また暫く私は忙しくて学園を留守にすることもあるだろうが、何かあれば相談しに来なさい。三人とも、気をつけて帰るんだよ」
最後に副理事長はそう言って見送ってくれた。
矢㮈は自転車置き場まで諷杝と高瀬に見送ってもらい、暗くなった道を颯爽と自転車をとばして家に向かったのだった。
まだ続きます。(2018.12.04 樹氷)




