表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 葵月詞菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/98

音楽祭 合宿<それぞれの事情と音楽2>

「音楽祭 合宿<それぞれの事情と音楽1>」の続きです。3話に渡って掲載します。

【主な登場人物紹介】

・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…彩楸学園高校1年生。

高瀬たかせ 也梛やなぎ…同上1年生。キーボードを弾く。

海中わたなか 諷杝ふうり…同上2年生。ギターを弾く。

【その他】

・イツキ…白い鳩。諷杝に懐いている。

並早なみはや…彩楸学園の英語教諭。音楽祭の担当にされる。

相田あいだ しょう…雲ノ峰高校2年。音楽祭実行委員長。

・淡海 あやめ(おうみ あやめ)…同上2年。将の幼馴染みで音楽仲間。

三.

 誰かと一緒なら、夜の散歩も悪くない。

 空気が澄んでいるような気がするし、何より静かだ。この雰囲気の中にいると、なぜかバイオリンを弾きたくなるのが矢㮈の本音だった。――そう、隣にいるのが彼でなければ。

 高瀬はずっと黙っていた。その少し後を、矢㮈は控えめに付いて行く。

(散歩に付き合え、って……何であたしがこんなに気ィ遣わなきゃなんないのよ……)

 だんだんイライラが募ってきた、その時。

「俺、今度演奏会に出るんだよ。ピアノの」

 高瀬がサラリと口にした。それが自然過ぎて、矢㮈は思わず相槌を打った。

「ふーん。そうなんだ」

 しばらく無言が続き、矢㮈はふと足を止めた。

「え……ピアノ?」

 彼の言ったセリフを頭の中で反芻する。

「キーボードじゃないの?」

「――ああ。まあ、演奏会っつっても身内だけみたいな小せぇやつだしな」

「じゃあさっきの曲は……」

「そ。演奏会用のだ」

 高瀬は無表情でただ淡々と話す。

 最近練習後など度々抜けていたのは、そのための練習で先生宅へ通っていたということも知った。

(やっぱいつものバイトじゃなかったんだな……)

 そういえば急に不機嫌になることが増えたなと思い出す。

(……不機嫌?)

 ふいに、あれ? と思う。

「……高瀬は、乗り気じゃない?」

 諷杝の言っていた「八つ当たり」の意味がようやく分かったような気がする。

 高瀬は暗い空を見上げていた。今夜の空は綺麗に晴れ渡っている。

「――俺は、自由にキーボードを弾きたくてここに来たんだ」

「へ?」

 きょとんとする矢㮈に構わず、高瀬は続けた。

「言葉を換えると、親父の望む音楽から逃げて来た、ってことかな。それが今回はその親父のご期待通り動いてるんだから、乗り気なわけがねぇ。むしろ、こっちの音楽祭に集中できなくていい迷惑だ」

「高瀬のお父さん……?」

「俺はあいつの望み通りになんかならねえ」

 高瀬が珍しく歯を食いしばるように表情を歪めた。

(高瀬、お父さんと仲悪いのかな……)

 気にはなるが、あまり突っ込んで聞くのは憚られ、矢㮈は口を閉じた。

 ――それにしても。

「そういうことなら、さっさと言ってくれたら良かったのに。コソコソやってさー」

 矢㮈はわざと口を尖らせて文句を言った。諷杝もきっと口止めされていて、言うに言いだせなかったのだろう。それで特に最近、也梛の八つ当たりを見兼ねて矢㮈を気にしてくれていたのだ。

「……別に言うことでもないだろ。迷惑はかけてねえ」

 高瀬が平然と言い返したのに、矢㮈は再びイラつきを覚えた。

「あんたねぇ……散っ々ヒトに八つ当たりしといてよく言うわね!」

「それはいつものことだろ」

「いつも以上だったわよ!! それにっ……」

 ふいに矢㮈は口をつぐんだ。

(……最近のこのもやもやした気持ち、高瀬には伝わらないような気がする……)

 ここ最近の高瀬に思う所はあったものの、いざ本人にぶつけてやろうと思うとなかなか声に出せない。

 矢㮈自身、どういった言葉で伝えられるのか分からないのだ。

(こんな時、諷杝だったら何て言うのかな……)

 ここにはいない彼のことを思い出す。

 彼なら、きっと――。


『矢㮈ちゃんのことが気になってたってのもあるし』


 夏休み前のゴールデンウイーク明けだったか。バイオリンに集中していて、なかなか顔を合わせることがなかった矢㮈に、諷杝はわざわざ声をかけに来てくれた。

 その言葉は、本当に素朴で自然だった。そして、純粋に矢㮈はうれしかった。

(考えててもしょーがないか、うん)

 矢㮈は心の中に浮かんだそのままの気持ちを言葉にして彼にぶつけた。

「――それに、あたしだって諷杝と也梛の演奏グループの一人なんだから。高瀬のこと気にして何が悪いのよ」

 じろりと高瀬の顔を睨み上げる。

「らしくないことばっか言ってたし! 気にすんなって言う方が無理よ」

 高瀬とは、まだまだ仲が良くないのは自覚しているし――というより今後仲良くなれるのかも疑問だが――、彼が自身のことをそう易々と矢㮈に話さないのも分かっている。

 しかし、一緒に演奏することになって、一緒に曲を検討し練習して行く中で、少しは認めてもらえたと――少しは仲間になれたかと思っていた。

「……悪かったよ」

 高瀬がため息を吐いた。そして、矢㮈に向けた顔はどこか困った風な表情をしていた。

「諷杝にも散々冷たい視線を浴びせられたけど。確かに俺が悪かったよ。それは謝る」

「……高瀬」

「でも、俺は私情のせいでお前らとの音楽祭を中途半端にはしたくなかった。さっきも言ったけど、ここでキーボード弾くのが俺のやりたい音楽だから。……でもまあ、結果的にはお前にも心配されて、何か情けない」

 高瀬は額に手を遣ってうなだれた。その彼の肩に、静かにイツキが舞い降りる。

「おまけに鳩にまで慰められてる、と」

 ますます大きなため息を吐く高瀬に、矢㮈はふっと頬が緩むのを感じた。

 分かっている。高瀬がどんなに嫌味なヤツで、ふてぶてしいヤツでも、音楽のことに対して真剣なのは。いや、音楽だけでなく、勉強でもそうだ。

 他人に厳しいだけでなく、自分にも厳しいのだ、このムカつくヤツは。

「……高瀬がそこまでキーボードにこだわる理由は分からないけど。でもあたしは高瀬の弾くピアノ、好きだよ」

 矢㮈は正直に口にした。高瀬の肩がピクリと動いたが、顔は上げない。

「高瀬のピアノ――あの『ねこふんじゃった』を聴いて、本当にいつかあたしも一緒に演奏したいと思えたもん」

 矢㮈が再びバイオリンを奏でたいと思ったのは、諷杝だけでなく、彼の演奏の影響もまた大きかったのだ。

「――やっぱ、お前って変だな」

 高瀬がボソリとつぶやく。同時に、彼の肩の上からイツキが飛び立った。

 そして、

「変なのは君もだよ、也梛」

 バサバサと音を鳴らして、イツキが新たに舞い降りた先は、お馴染みの彼の肩の上。なで肩気味なのに、慣れのせいか居心地が良さそうだ。

「諷杝!」

 矢㮈が声を上げ、高瀬もはっとしたように顔を上げた。

 諷杝はいつものように微笑んだまま、矢㮈たちに言った。

「矢㮈ちゃんがなかなか戻ってこないから、まさかと思ったんだけど。まあ、そろそろ潮時ではあったじゃないか」

 後半は高瀬に向けられた言葉だろう。

 諷杝はイツキの羽をなでた。白い鳩は気持ちよさそうにじっとしている。

「也梛、君が迷惑をかけまいとすることで、逆に心配する人もいるってこと、良く分かったでしょ。隠すならもっと完璧にやらなきゃ」

 ま、今回の場合完璧に隠すなんて難しいだろうけどね、と苦笑する。

「……」

 高瀬はじっと地面を見つめている。

 諷杝は彼の目の前まで歩いて行くと、自分より少し背の高い彼の肩に手をポンと置いた。

「僕も君のピアノ、好きだよ」

 はっとしたように再び顔を上げた高瀬に、諷杝がにっこり笑う。

 諷杝の肩の上のイツキが、高瀬の肩を嘴で突っつくと、高瀬は照れたようにぷいと横を向いた。

 その様子に、矢㮈は微笑みながら少し悔しいと思った。

(結局高瀬も諷杝が大好きなんじゃないのよ……)

 高瀬の中にある頑なさを解すことができるのは、諷杝だけなのかもしれない。

「さー、早くもどろう。委員長がプリント待ってるだろうし」

 諷杝がくるりと矢㮈の方を向き、矢㮈が並早から預かったプリントの束に手を伸ばす。

「也梛のせいで腕疲れたでしょ。持つよ」

「えっ、でもこれくらい大丈夫だよ」

 たかが約六十枚程である。

「いいからいいから」

 最終的に彼の笑顔に負け、お言葉に甘えさせてもらうことになった。先に歩き出した諷杝の背中を追おうとして、ふと矢㮈は疑問を感じて也梛の方を見た。

「ねえ高瀬」

「何だ」

 いつも通りの、仏頂面で、無愛想な声。

「……眼鏡なくても見えるの?」

 よく考えてみれば、夜は暗いし危ない。しかも今みたいに屋外にいる時などは、特に要注意なはずだ。矢㮈の場合は目が悪くなくてもつまずいたりするが、それは単に足元の注意が疎かになっているだけだ――認めたくないが。

(あれ……? でもピアノは平然と弾いてたっけ。まあ曲を覚えてるってのもあるだろうけど……)

 一人頭の中で思い巡らす矢㮈を放って、

「ああ、実はアレ伊達だから」

 高瀬はしれっと白状した。

「は? 伊達?」

「そ、伊達。別にかけてなくても見えるから。因みに両目共一.五以上なはずだけど」

「……何でかけてるの?」

 矢㮈は呆れたように、本気で首を傾げた。当の高瀬は軽くため息を吐いて、

「さあ? 見かけ頭良さそうに見えるから?」

 なぜか語尾を疑問形にして答えた。

「何それ」

 まあ、確かに矢㮈を含め周りはそんな風に彼を見ているけれども。

 と、いうことは――

「あたしも眼鏡かけたら頭良さそうに見えるかな」

「やめとけば? 見かけだけだし――ってあれ、これと似たようなセリフ前に諷杝にも言ったな……」

 矢㮈の思い付きに即答した高瀬が、前を行く諷杝を見て眉をしかめた。

「え、諷杝も同じこと訊いたの?」

「そうそう。あいつも眼鏡かけたら頭良くなるかもって期待したらしい。お前と一緒で単純だからな」

「……はは。ええ、あたしは単純ですとも」

 矢㮈は乾いた笑いで半ば認めた。

 そこで高瀬がふっと笑う。

「――でも、お前らの単純さっていいよな。うらやましい」

 その笑みに、バカにしたようなものは何もなかった。

(……ホント、らしくないったら――)

 だから――矢㮈はわざと突っかかるように応えた。

「それ、褒めてる?」

 

 ともあれ、これでいろいろな意味ですっきりした部分があったのだった。


次回の「音楽祭 合宿<それぞれの事情と音楽3>」でこのタイトルのお話は終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ