音楽祭 合宿<それぞれの事情と音楽1>
「音楽祭 合宿<それぞれの事情と音楽>」は3話に渡って掲載します。
【主な登場人物紹介】
・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…彩楸学園高校1年生。
・高瀬 也梛…同上1年生。キーボードを弾く。
・海中 諷杝…同上2年生。ギターを弾く。
【その他】
・イツキ…白い鳩。諷杝に懐いている。
・並早…彩楸学園の英語教諭。音楽祭の担当にされる。
・相田 将…雲ノ峰高校2年。音楽祭実行委員長。
・淡海 あやめ(おうみ あやめ)…同上2年。将の幼馴染みで音楽仲間。
一.
音楽祭開催に向けて、参加グループによる彩楸学園での合宿がスタートした。
総勢六十人弱と聞いていた参加者が一同に集まると、研修旅行もしくは修学旅行感が一層強くなった。
食事当番や掃除当番などの一通りの役割が割り当てられた後は、皆それぞれの練習に入るか自由時間となる。とりあえず役割をきちんとこなすことと、他グループと揉め事を起こさないこと、の二つが守られていれば好きに空いた時間を使って良いことになっていた。この期間、様々な交流も期待されている。
相田と淡海のグループメンバーも到着し、彼らは彼らで打ち合わせを始めた。音響設備が整った部屋はいくつかあって、それも時間で区切って割り振られている。
矢㮈たちはと言うと、空き教室の一つにいた。それも、矢㮈と高瀬のクラスだった。
学期内においては普段授業を受けている教室であるが、音楽祭の練習のために訪れている今はいつもとちょっと違う空気を感じる。学年の違う諷杝が一緒なのも関係しているのかもしれない。
「ねぇ、矢㮈ちゃんの席どこなの?」
「えっと、窓側の後ろから三番目」
「わー、いいなあ窓側。僕、真ん中の列右側の前から二番目なんだよねー」
「うわ、それ寝れないね!」
「そうなんだよ」
諷杝と矢㮈が他愛のない話で笑う中、高瀬は黙々と楽譜に見入っていた。
「也梛の席は?」
諷杝が、窓側前方の席二つ三つを占領している高瀬を見て訊く。
「――は? 俺の席? ……廊下側の後ろから二番目」
高瀬はどうでもいいとばかり雑に答える。諷杝はハアとため息を吐いた。
「君も後ろの方の良い席だね」
「千佳ちゃんが離れてるのが残念だけど」
矢㮈が付け加えると、諷杝はふっと笑った。
「ああ、噂の女の子か。その子はどこなの?」
「窓側から二列目の一番後ろ――ここだよ」
矢㮈がその机の所まで行くと、彼はうなずいた。
「矢㮈ちゃんとはまあ近いけど、也梛には確かにちょい遠いね」
「遠くて結構だ。それよりお前ら、いい加減準備しろよ」
高瀬がいつの間にか口を挟んでいた。
「はいはい」
「はいよー」
矢㮈と諷杝はそれぞれ準備を始めた。これももうお馴染みになりつつあるパターンだ。
いつものように、楽器演奏だけの曲をさらりと通し、少し気になる点を検討していく。
「折角バイオリンがいるんだから、魅せないとね」
諷杝が楽しそうに笑うと、珍しく高瀬もうなずいた。
「ああ。ここの独奏はポイントになる」
「……二人共、プレッシャーをかけないでえぇ!」
矢㮈は頭を抱えこむふりをした。諷杝の笑顔はともかく、高瀬の圧力は半端ない。
さらに二曲目は歌が入るのだ。ますますプレッシャーがかかる。
「楽しく歌えばいいんだよ」
諷杝はそう言うが、彼の歌はそれなりに上手い。矢㮈も彼と同様歌うのは好きだが、上手さは別だ。
「あ~、母さんに代わってもらいたい~」
矢㮈が弱音を吐くと、二人は首を傾げた。
「あ?」
「何で?」
そりゃあ二人が分からないのも当然だ。母親が合唱部であり、歌が好きで且つ上手いことを口にすると、彼らは「へぇ」と少し驚いた顔をした。そして、
「じゃあ急遽、お前の母さんに代理に来てもらうか?」
高瀬が至極真面目な顔で言う。
「え!? ……あの、冗談にしか聞こえないのですが」
矢㮈の頬を汗が伝った気がした。
「冗談言ってないんだけど、俺」
「高瀬ぇ!!」
今この状況でそういうことを真顔で言うな。たまに高瀬はこういう時がある。
矢㮈が唇をかんでいる様子を見て、諷杝が高瀬に向かってため息を吐く。
「也梛、いい加減意地悪言うのやめなよ」
「こいつが平気で弱気なこと吐くからだろ」
「矢㮈ちゃんは君程図太い神経を持っていないんだよ」
「俺もお前には負けるけどな」
「それはどうもありがとう」
諷杝がにっと微笑むと、高瀬が舌打ちと共に横を向く。
「さ、矢㮈ちゃんももう一度頑張ろう? 歌うのは好きなんでしょ?」
諷杝が矢㮈の頭をポンポンとたたいて優しく尋ねる。
「……うん」
矢㮈が小さくうなずくと、彼もうなずき返した。
高瀬が呆れたように息を吐き、キーボードの上に指を滑らせる。
もうだいぶ身体に馴染んだ音とメロディーが、空間いっぱいに広がった。
とりあえず練習に一区切りがついた時、矢㮈は今夜の夕飯当番のため早々に片付けを始めた。楽器類は一応鍵の付いたロッカーに保管することとなっている。
「お疲れサマ!」
二人に声をかけて先に教室を出る。しばらく歩いた辺りで、後ろから声がかかった。
「矢㮈ちゃん」
ふり返ると、声の主・諷杝が立っていた。
「どうしたの?」
わざわざ追いかけて声をかけて来るなんて、何か言い忘れたことでもあったのだろうか。
「いや、ちょっと、何て言うか……。也梛の意地悪大丈夫かなと思って」
諷杝が困ったように苦笑する。
「高瀬? ああ、大丈夫。いつものことだし、諷杝も庇ってくれるから」
矢㮈は特に何でもないとばかり笑った。彼の顔に少し安心の表情が広がる。
「そう? それならいいんだけど。――ごめんね、八つ当たりなんだよ、多分」
「八つ当たり?」
「――ううん。何でもない。夕飯の準備、よろしくね」
諷杝は自分で話をたたむと、軽く片手を上げて教室へともどって行った。
(八つ当たりって何だったんだろう。高瀬の、ってこと?)
矢㮈は少し考え込んだ。
最近――というかここしばらく、高瀬が何かおかしいのは気付いていた。しかしそれで、特に矢㮈に対する態度が変わったわけではない。意地悪など前からあったことだ。今さら諷杝が気にすることではない。
(向こうが何も言わないんだから……)
そう、少なくともこちらが進んで詮索する程のことでもない。それは彼もきっと望まないだろう。
矢㮈は我知らずため息を吐くと、調理場へ向かった。
***
「……何だよ、そのじとーっとした視線は」
也梛はその相手に半眼を向けた。
「べぇっつにぃ~」
諷杝はギターの弦を適当に爪弾く。
「別に、じゃないだろ。言いたいことがあるなら言えよ」
「言っていいの?」
「言ってみろよ」
二人の視線がぶつかって、しばらく睨みあいが続く。
「……分かってるくせに」
先に視線を逸らせたのは諷杝だった。
「……知らねーな」
也梛も横を向いて、キーボードのケースの蓋を閉めた。そして、すっくと立ち上がる。今日も例の先生の所へピアノのレッスンに行く日であった。
教室を出ようとした時、諷杝が口を開いた。
「矢㮈ちゃんは気にしてないみたいだったけど、僕は気にするからね」
「……そりゃどーも」
也梛はさっさと教室を出た。きっとあれ以上あの場に居ても、諷杝と不毛な会話を続けるだけであろう。それは彼にとっても、也梛にとっても楽しくない。
(……ああ、何かムシャクシャする……)
也梛は心の中で舌打ちした。
合宿が始まり、一気に人数が増えて環境が変わったせいだろうか? ――いや、それも少しはあるだろうが、也梛はそんなことでストレスを感じる性格ではない。そもそも普段が寮生活だ。
では、このムシャクシャの原因は何なのか?
その一番の理由は、まさにこれから行く場所にあった。
(……俺と先生だけで十分だってーの)
也梛は正直、これからトンズラこきたい気分であった。
(しょーもないヤツならマジ俺キレそう……)
本日から、先生と也梛と共に演奏するというもう一人が加わることになっているらしい。
しかも、そのもう一人はバイオリンを弾くという。聞くところによると様々なコンクールの常連でもあり、技術は期待できるかもしれない――だが。
也梛は校門付近に今日も既に停まって待っている黒のセダンを見つけ、眉をしかめた。ご丁寧に、姉のお迎えである。
(あいつの音以上とは思えないのがムカつく……!!)
結局それこそが、也梛の八つ当たりの原因なのだった。
二.
五日の夜のことだった。
諷杝は相田たち数人と共にミーティングをしており、矢㮈は一人ボケーッとしていた。そこへ並早から連絡が入ったのである。
「明日の作業のことで今日中に配布したいプリントがあるんだけど、誰か取りに来られない? 諷杝君と高瀬君にも連絡したんだけど、繋がらなくて」
諷杝はミーティング、高瀬は不明だなと思いながら、結局暇な矢㮈が取りに行くことになった。場所は職員室だ。
夜はさすがに少し肌寒いので、薄い上着を肩にかけて体育館を出た。職員室のある棟は、体育館からだと少し離れている。暗い道に、矢㮈は僅かに足を速めた。春日井か誰かに付いて来てもらえば良かったかもしれないと後悔する。
矢㮈が怖い想像を必死に堪えて歩く中、突然バサバサッと羽音がした。
「ひっ……!!」
本当に怖い時は、声が出ないのだとその時に知った。矢㮈の動きが完全に止まる。心臓の音がやけに大きく聞こえた。
足の脹脛辺りを、何かに突かれた。
「!!」
もう半泣き状態でバッと振り返ると、そこにはポツンと白い塊があった。それは軽く小首を傾げるように矢㮈を見上げている。
「……イツキ、さん……?」
一気に緊張が解ける。矢㮈は安堵して鳩のイツキを抱き上げた。
「イツキさーん!!」
イツキはバタバタと暴れたが、それらは無視だ。
それからイツキと共に――彼はちゃんと矢㮈の横を歩いていた――道を進み、今まで怖かったのが嘘のように感じた。
「諷杝に言われて来てくれたの?」
矢㮈が冗談半分に言うと、イツキはぴょこんと飛び跳ねた。
「それはどっちなんだい」
思わず苦笑する。
気付けばあっという間に職員室の棟まで来ていた。イツキが平然と校舎内に入って行くのを見て、矢㮈は慌てて追いかけ彼を抱き上げた。その追いかける直前、ふと三階一番奥の教室のカーテンの隙間から光が漏れているのが見えた。
(あそこって……)
そう思いつつ、すぐに気紛れなイツキのことで頭がいっぱいになってしまった。
「笠木さん、わざわざ悪いね。ここを留守にするわけにもいかなくて……。おや、イツキさんも来てくれたのかい?」
職員室には並早しかいなかった。因みに並早は音楽祭の担当教員なので、矢㮈たちと同じように泊まりこみだ。彼の場合は宿泊用に、学生寮の一室を充てられている。
「じゃあこれお願いね。イツキさんも付き添いよろしく」
並早にプリントを渡され、矢㮈はイツキと共に職員室を出た。
しかし、イツキはひょこひょこと校舎の中へと向かい始めたのである。
「えっ、ちょっ、イツキさん!?」
矢㮈は慌てて追いかけた。白い鳩は階段を上り始める。――全く器用に。
しかし階段の電灯は点いていない。イツキの白い体がぼんやりと浮かび上がっていた。
「イツキさ――」
追いかけるべきか迷った時、微かにピアノの音色が聞こえてきた。
(え……?)
一瞬本気で幽霊かお化けかと考えたが、ふいに先程光の漏れた教室を見たのを思い出した。あそこは音楽室だ。――誰かいるのか?
一応音楽室も練習の割り当て場所に入っている。この時間はまだ練習時間でもあるので、音楽室を割り当てられたグループがやっていてもおかしくは無い。
しかし気になったのは、微かに聞こえてくるそのメロディを紡ぎ出す、音の流れ方だった。
(これって……)
知らず知らず息を呑み、その音に集中する。
(――やっぱり……)
かつて一度だけ、彼のピアノを聞く機会があった。
矢㮈は階段の電気を点けると、階段を二段とばしで駆け上がった。
三階で立ち止まる。イツキがぴょこぴょこ楽しそうに音楽室の方へ向かって行く。
矢㮈はそっと扉へと近づいて行った。旋律がよりはっきりして、間違いなく彼のものだと確信した。
ギィ……
扉を開けると、心地良いメロディが全身にぶつかって来た。
グランドピアノの前に座る背中は、思っていた通り見覚えがある。
一区切りのところでピタリと音が止み、その背中がくるりとこちらに反転した。
その者――高瀬の顔は、どこか苦々し気で、諦め気味だった。
彼が口を開きかけて、ふいに眉間に思いきりしわを寄せた。
「……何だ、そのバカ面は」
矢㮈は絶句するしかなかった。
高瀬が、いつもの高瀬じゃない。いや、口調はそのままなのだが。
「……た、高瀬、だよね……?」
「お前、喧嘩売ってんのか?」
この口の悪さは絶対彼だ。だが……そう、彼は眼鏡をかけていないのだ。見かけの知性に拍車をかけるように存在していた眼鏡が無いと、少し――本当に少しだけ、普段の近付きにくさがなくなって見える。そのせいで、高瀬だと再認識するのに時間がかかった。
「……何だよ」
高瀬が再びぶっきらぼうに訊く。
「あ、いや……何か雰囲気違うなと思って……」
やっとこさ口を開く。何でこうも言いたいことが言えないのか不思議だった。
「はあ? どういう意味」
「……あ、そうだ千佳ちゃん!!」
「は? 何」
いきなり話にクラスメイトの千佳が登場して、高瀬がますます訝し気な表情をした。矢㮈も突然に思いついて口にしたことだったので、彼が驚くのは尤もで無理もない。
「そう! 千佳ちゃん! 千佳ちゃんがね、高瀬は眼鏡とった方がカッコ良いって言ってた! ――なぁと、思い出しただけ……です」
「……へぇ」
高瀬は複雑な表情をした。それを見て少ししまったと思う――千佳に対して。
(何か意地でも眼鏡かけたままでいそうだな……。ゴメン、千佳ちゃん)
矢㮈が言ったせいで、彼が対抗する可能性は大だ。そうなると、千佳はずっと眼鏡をかけていない高瀬を見ることができないかもしれない。
(――って、ちょっと待て!! あたしはそもそも一体何を……!!)
先程から、至極どうでもいい話をしている。もはや矢㮈の頭の中はパニックだった。
すると、黙っていた高瀬がふいに意地悪くニヤリとした。
「――で? お前的にはどうなの」
「……え? 何が」
矢㮈はポカンとする。
「だから、実際見て俺は眼鏡かけてない方がカッコ良いと思うわけ?」
「なっ……!」
高瀬の顔をじっと見てしまって、矢㮈の頬がカアッと熱くなる。
「ば、バカなこと言わないで! 高瀬は高瀬でしょッ!!」
矢㮈はぷいと横を向いた。全く、一体何を言いだすんだろう。
だが、すぐに返してくるだろうと思っていた彼からの反応は何もない。
(――?)
チラと横目に彼を窺うと、なぜか相手はポカンとこちらを見ていた。
(な……今度は、何……)
矢㮈が警戒する中で、高瀬はふっと笑いを漏らした。先程の意地悪な感じは全くしない。そんな彼に、今度は反対に矢㮈の方がまた呆然としてしまった。
「……そっか、俺は俺か。――つーかマジお前って変だよな」
「変……っ!? ど、どこがっ! てかいきなり何なのよ!!」
そもそも変なのはあんたの方だろう。心からそう思う。
夜の学校。
眼鏡をかけていない高瀬。
そんな非日常的なものが、幻みたいな今を作り出しているのだろうか。
何より、今、目の前で笑っている彼が信じられない。嫌味でない彼が信じられない。先程自分で「高瀬は高瀬だ」と言ったが、果たして本当にそうだろうかと不安になってくる。
「ってゆーか! この状況は何なの?」
矢㮈は気を紛らわそうとして、しかし本題が口をついて出てきた。
――そうだ。この今の状況は何なのだ。なぜ高瀬は、ここで一人ピアノを弾いていたのだろう。
高瀬はしばらく黙りこんだ。顔から表情が消える。
「今日、音楽室ってあたしたちの割り当てじゃないよね?」
「……そうだな。本来なら春日井さんのとこが使う予定らしかったんだけど、急に使わなくなったって言うから、譲ってもらったんだ」
高瀬は矢㮈の問いに淡々と答えながら、グランドピアノの鍵盤の蓋を閉めた。
「……あたしたちの曲じゃなかったね」
「ああ。一応ピアノ演奏の曲だからな」
高瀬は立てかけていた楽譜をひとまとめにして片付け、ピアノの上に埃よけのクロスをかけ直した。
そして、楽譜やらの荷を抱えると、矢㮈のいる扉の方へと歩いて来た。
「もう九時だ。練習終了の時間」
「ちょっ、高瀬!」
「鍵かけるから早く出ろ」
矢㮈は高瀬に追い立てられ、廊下に出た。
次の瞬間、辺りが真っ暗になった。
「キャッ……!?」
「騒ぐな。月明かりにすぐ目も馴染む」
すぐ側で、いつものムカつく口調が聞こえ、カチャリと鍵のかかった音がする。
彼に言われた通り、少しすると窓から入る月明かりで案外廊下が明るいのに気付いた。月明かりの中で、イツキがひょこひょこと踊るようにステップを踏んでいる。
「あ、イツキさん、音楽室の外で待っててくれたの?」
思い返すと、音楽室前まで一緒に来たはずのイツキは音楽室の中には入っていなかった。鳩なりに、さすがに音楽室に入るのはまずいと思って遠慮したのだろうか。
「行くぞ」
高瀬が少し先にいて、矢㮈をふり返っていた。
「ま、待って!」
矢㮈はイツキと一緒に彼の後姿を追った。
(てか、急に電気消さなくたっていいじゃないのよ……!)
多少むくれつつ、恨みがましく。
高瀬は一階まで下りると、職員室に向かって行った。そして一人しかいない教員――並早に、音楽室の鍵を返す。
「遅くまでご苦労様。――あれ? とうとうバレちゃった?」
並早が鍵を受け取り、職員室の入り口にいた矢㮈に気付いて目を遣る。
(バレたって何のこと……?)
首をひねる矢㮈に、並早はそれ以上何も言わず、高瀬は軽く頭を下げて出てきた。
「……高瀬」
矢㮈がその場に突っ立ったまま、前を歩いて行く彼に声をかけた。
彼は少しして立ち止まり、軽く息を吐いたようだった。
そしてこちらをふり返らずに、言った。
「――少し、散歩に付き合え」
イツキが高瀬の側でぴょこんと跳ねた。
音楽祭が始まってから登場人物が増えていますが、さらりと読んで頂いて大丈夫なはずです。ああ、そんな人いたなあ、もしくは、いるんだなあという感じで読み進めてもらえると良いと思います。




