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花占い

作者: 葡萄鼠


 腕いっぱいに抱えたマーガレットの花束。

 愛しい君を思い浮かべた時、似合うと思った花。


 冬は過ぎ、春の訪れを感じる温かく柔らかな陽気。

 空は青く、雲は白く、風は心地よく、山は色彩豊かに染まっている。


 「まさに小春日和、だな」


 誰にでもなく、澄み渡った空を仰ぎながらつぶやいた一言。

 ぽろっと口からこぼれた一言を、風が優しくさらってゆく。



 幼いころ、君がよく占いをしていた花。

 単純な天気の占いだったり、新しい友達ができるかどうかだったり、そして恋占いだったり。

 そんな中で一つ、不思議だったことがある。

 天気占いで「晴れ」がでると喜んで、「曇り」になると落ち込んで。でも、「雨」になると喜んでいた。

 僕がどうして?って聞けば「だって雨上がりには虹が見られるかもしれないでしょう?」って、無邪気に笑ってた。その笑顔がとても好きだった。


 

 小学生のころ。僕が周りになじめなくて、弱気な自分だったころ。

 いじめられてばっかりだった僕をいつも助けてくれて、守ってくれたのも君だった。

 その時はまだ僕のほうが体も小さくて、女の子の君のほうが大きくて。

 まだ恋愛感情なんて知らなかったけど、大切な子に守られてる自分が嫌だった。

 それでも君は、いつでも温かな手を差し伸べてくれて。傍にいてくれて。僕の唯一の救いだった。



 中学生の頃は、お前を守れるように強くなろうと必死だった。


 ―――それは高校に上がってからもそうだった。 

 

 中学は2人とも地元の中学だから、もちろん一緒で。高校も同じところを受験していた。

 でも大学はさすがに別だろうと…そう思っていたけれど、まさか一緒になるとはな。

 お互い学部は違ったけれど、同じ大学。すれ違う時もあった。

 それに大学生になっても、お互いの関係は変わらぬまま。小さい頃のように「ずっと」というわけにはいかないが、お互いの家を行き来したりちょっとした買いものにつきあったりと。そんな関係はつづいていた。


 ありふれた日々。何の変化もない日常。

 だけどそれがとても心地よかった。



 でもまさか、お前を喪う日が来るとは思っていなかった。こんなにも早く。



 お前がいなくても時間は進む。時は巡る。季節は移り変わり、俺もただ無為な時が進んでゆく。何も変わらない日常。ただ変わったのは、傍にお前がいないことだけ。

 喪った悲しみは消えはしない。ただ、お前がいないことに慣れるだけ。悲しみに慣れるだけ。


 ―――慣れたくなど、ないのに。



 お前からの最後の贈り物。

 何故か引き出しの中にあったという、俺宛て手紙。



 ……卑怯だろ。どれだけ俺の心を奪えば気が済むんだ、お前は。


 思わず笑ってしまった。……でも、目からは涙が溢れて止まらない。

 嗚咽をこらえることができず、その場に崩れ落ちた。



 (―――――お前が、君が、誰よりも大切だった)


 


 俺は晴れた空が好きだよ。

 だって、お前が笑ってる気がするから。

 朝焼けの澄んだ晴れも、昼間の青い晴れも、夜の星と月の煌めく晴れ空も。


 全部、お前が笑っていると思えるから大好きだ。


 でも、お前が好きだと言った雨は嫌いだ。

 だって、お前が泣いている気がするから……。

 独りで寂しいんじゃないか、辛くないか、って。気になって仕方がない。


 でも、そのあとに稀にみる虹のかかる空はどんな空模様よりも一番綺麗で大好きだ。


 地上(おれ)おまえのかけ橋に見えるから。



 

 ――――――どうだ、元気にしているか?




 俺はまぁ、元気だよ。まだ悲しくて、苦しくなる時もあるけれど。

 でも、お前が好きだった空を見上げては元気をもらってる。


 

 今日はずっとお前と一緒にいるよ。

 小さい時からずっと傍に置いていた、マーガレットを片手にお前に会いに行くから。


 2人きりで、空を見よう。



 



リハビリがてら、短編UPです。

次の予定は未定です……。


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