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ー第8話チェイス




ー第8話チェイス




6日が過ぎ、竹山は再び平井七丁目に、清美を迎えに行った。

「出来れば、私達も行きたいよ。雨屋に…。」

ユウは名残惜しそうだった。

「子供達を危険にさらせないよ、ユウ。」

竹山は言った。母親の後ろで、三人の子供は泣いていた。そんな子供達を見て、ユウは竹山に言った。

「ねぇ…清美はいいお母さんになるよ。…。」

清美は子供達に触れながら、離れた。ユウも涙を浮かべながら言った。

「はい、清美ねえちゃんにバイバイして…。」

三人とも、ロボットのように手を振るのが可笑しかったが、余計に涙を誘った。

「みんな。ユウ母さんの言う事聞いて、いい子でいるんだよ。」

子供達が揃ってハイと答えた。清美が、竹山には少し大人になって見えた。

アパートのベランダから、手を振る四人に清美は、何度も振り返って手を振った。

「どうだった?。ユウの所は。」

「あんな家族をつくりたい。大変だけど。」

「やれるさ。清美なら。」

「うん?。なんか人事みたいだけど?。まぁいいか…。」

清美は照れたように笑った。



平井七丁目第三アパート前のバス停に来た時に、タクシーがやってくるのが見えた。

「とおるちゃん!。タクシーで行こうよ。」

「別にいいけど…。」

手を挙げた訳でも無いのに、タクシーは二人の前に停車した。

同時に、別の車がタクシーの後ろに停車して、中からハジメが顔を出した。

「とおる!。乗ってけよ。送ってくよ。」

「ハジメ?。大学で臨時講議じゃないのか?。」

「休講になった。ついでだから、送ってくよ。」

竹山は、ハジメの車の方に向いた為に、タクシーの運転席のドアが開いた事に、気付くのが遅れた。

手をつないでいた、清美の手がグッと引っ張られて、車内に引き込もうとしている運転手の顔を見た。

「分部?。てめえ!。」

慌てふためいてハジメも降りて来て、引っ張り合いになった。しかし分部は、常識外れの行動に出た。ドアを開けたまま清美を引きずって、車を発進させた。

「痛いっ!。」

という清美の声に、思わず竹山とハジメの手がゆるんだ。分部は巧みに清美を車内に引き込んで、走り出した。

「追うぞ!。」

竹山は叫んで、ハジメの車に乗り込んだ。ハジメも後部座席に飛び込んで、カーチェイスになった。分部は何故か、バス路線沿いに上野に向かって走ってゆく。

「ここらへんの土地勘はないな。」

竹山は路地に入り、先回りを試みた。

「警察を呼ぶぞ!とおる!。」

「やめろ!ノートを燃やされたら終わりだ…。」

脇道から、バス道路を塞ぐように車を停めた。分部は急ブレーキを踏んで、タクシーをスピンさせ、歩道に乗り上げて車を停めた。

助手席のドアから、清美が這い出してくるのが見えた。手には見事に、一冊ノートを握っている。

「少しは流れが変わってきたぞ!。ハジメ!。」

竹山は車を降りて、追いかけるだろう分部の動きを封じようと、助手席側に回り込んだ。少し気を失っていた分部が、清美を追いかけるために、飛び出そうとするのと鉢合わせになる。

竹山の右のストレートを分部は左肘で跳ね上げてすり抜け、車外に出た。お互いに間合いを保ちながら、にらみ合いになる。清美はハジメの車に逃げ込み、ハジメは車を発進させた。

「やるな。竹山、ガキペア。」

「お前を甘く見てた。ここまでやるとはな…。このタクシーの運転手はどうした?。」

「心配するな。おっさんは殺さない。今日はここまでだ。背中に気を付けるんだな…。」

分部はタクシーに戻ると逃げ去った。

竹山は、ハジメの携帯をコールした。

「俺だ。戻って来てくれ。分部は逃げた。」

2分くらいで、ハジメは戻って来ると、竹山を乗せてすぐに車を出した。



「ノートを取ったよ!。とおるちゃん!。」

清美が誇らしげにノートを見せた。ノートの表紙の角が破れていない。

「清美。お前の持ってたノート。表紙のココが破れてたか?。」

「うん。最初から破れ…あれ?破れてないよ。」

「それは、俺の世界の清美のノートだ。それでは、お前を戻せない。」

「…でも、これがあれば、この世界の清美は戻せるんでしょ?。」

「分部の言う事が正しければな。」

「とおる。とりあえず試したらどうだ?…。」

運転しながら、ハジメが言った。

「…それに、もう新幹線とかじゃ、また襲われるかもしれない。このまま東名で岐阜に行くぞ!。」

「いいのか?。大学は?。」

「ハジメがやらねば誰がやるさ…俺もお前らと一緒に戦いたくなった。」

「すまない。」

「あやまるな…。お前と清美を放っといた、同級生全員の罪滅ぼしだ。」




車は東名高速に入って、車内は静かな空気が流れ始めた。

「とおるちゃん。このノート見て。きっと約束を思い出すよ。」

「あぁ…。」

竹山は、清美からノートを受け取った。

茶色に赤います目が入っている。3年1組 竹山 透と書いてある。開けると、末次 清美ちゃんに捧げると、1ページ目に書いてある。

ページをめくると、

ー星への階段ー


とタイトルがあり、下にーこの梯子では 今は届かなくてもーとサブタイトルがあった。

そしてビッシリと、その後のページが、鉛筆の文字で埋められていた。

「これは…俺が書いたのか?。」

「そだよ。なんか変なとこも有るけど、読むと泣いちゃうよ。すごくいい物語なんだもん。」

竹山は…とおるちゃんに戻っていった。そして言葉が出た。

「…もし俺が小説家になったら、清美ちゃんをお嫁さんにしてあげるよ。絶対約束する。……そうか。そうだったな。思い出したよ。でも、してあげるはちょっと違うよな。」

「いいの。ちょっと生意気って思ったけど…私はお嫁さんにして欲しいって思ったから…。」

清美は恥ずかしそうに顔を赤らめて、うつむいていた。

「…てっ事は。俺は失格かぁ…小説家にならなかった。」

運転席のハジメが言った。

「今からだって遅くはないだろ。正直、お前の週刊誌の記事。ちゃんとした小説書けば、印税で食っていけるだけの才能はあると思うぜ。」

「よせよ。妄想のチクザンの小説を誰が読むんだよ…。読んだらゴミ箱行きが、俺にはお似合いだ。」

「待て!。約束したんだろう?。男なら、好きな女との約束は果たせよ!。」

竹山は、泣き顔になっている清美を見た。

「泣くな…小説家になるよ。どうやったら成れるのか、見当もつかないけど…。」

「うん。」

竹山は、隣りに座っている清美を抱き寄せた。今まで命がけでやった事など、ひとつもなかった。しかし、これは命をかけてでもやる…そんな気持ちが湧いてくるのを、竹山は感じていた。



ー第9話人質につづく





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