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ー第7話タレントインフォメーション社編集部




ー第7話タレントインフォメーション社編集部





情報提供者から得た情報で、麻布十番駅前から少し行った二ノ橋で取材した竹山は、編集部に戻って来た。

「おーチクザン。空き巣にやられたって?。」

編集長の脇阪わきさかがパソコンを打ちながら、声を掛けてきた。

「被害なし。包丁が畳に突き立ってました。怨恨でしょうね…。」

「そんなガッツのあるタレントって言ったら…いや、事務所の方か?。」

「やりかねない連中の名前挙げてたら、仕事になりませんよ。」

「だな。」

脇阪は話を打ち切ったが、竹山はその包丁がメモ用紙も突き破っていた事を言わなかった。

ーガキを渡せ

さもないと

殺すー

とマジックで殴り書きされていた。ニット帽が殺しに来るのなら、竹山は逆にノートを取り返すチャンスだと思っていた。奴のナイフ捌きはプロ級だが、竹山がさばけない程ではない。彼の動きは、基本に忠実すぎて、読み切る事が出来ると竹山は感じていた。

自分のデスクのパソコンで、子供を狙った事件のサイトを開いた。さんざん見てきたサイトだが、4年前の岐阜の事件を検索してみた。

ノートが舞い上がった証言が小谷刑事よりも詳しく掲載されていた。犯人の似顔絵もあり、それに関連した掲示板を覗くと、分部わけべ ゆたかと言う名前がひんぱんに出て来ていた。犯人は彼だろうというのが、書き込みの大半の意見だった。竹山はそこから、容疑者プロフィールという、人権無視のリストに飛んだ。推理小説マニアが巧妙に隠しているリストだが、的中率は99・9パーセントという過去の実績がこのリストを存続させていた。

分部で検索すると、なんとも顔写真入りでプロフィールが出てくる。

生年月日からすると、今年25才。姉の名前が分部 わけべ まい

「わけべ まい。あの舞か…。」

6年前。当時20才の人気女優で、ストーカーにベランダから入り込まれ、揉み合った挙げ句ベランダから落ち、半身不随で引退した。部屋に逃げ込む前から、携帯で警察に救けを求めていたにも関わらず、警官が来たのは30分後で全ては終わっていた。

弟の豊は、その現場に駆けつけ、現場検証をしていた警官に、ナイフを振り回して重傷を負わせ、逮捕された。彼は2年の実刑を言い渡され服役した。その刑を終え出所した時期にノートの事件は起きている。被害者の証言の中に、犯人の言葉として

ーおまわりはこねえー。30分後だ。見るも無残にしてやるー

と言ったとされている。

「ひねくれた上に、見当違いの復讐心か…。」

竹山はデビュー当時の分部 舞の実家を取材した事がある。ライターやアクセサリー、ナイフを扱っている店を経営していた。

「ナイフ…。」

竹山は、その時にこの店のホームページを見た記憶があった。アクセスしてみたが、ホームページは無くなっていた。

しかし記憶では、雨屋交差点からさほど遠くない、鷺山本通りにあったはずだった。

竹山は小谷刑事を携帯で呼び出した。

「…竹山です。犯人の話しなんですが、分部 豊は犯人リストに上がってるんですか?。」

ー7番目位ですね…足の悪いお姉さんが岐阜にいたんですが…結婚して愛知県の方に行った後…鷺山本通りの実家は、誰も住んでないようですー

「ナイフを扱ってる店でしたよね?。」

ー今は閉まってます。分部 豊が服役した時点で閉めたようですー

「彼が実家を出入りしている可能性は?。」

ーそれはなんとも…人手に渡ってる訳ではないので、鍵を持ってれば可能でしょうー

「…豊だと思うんですが。ニット帽の男は。」

ー状況証拠ばかりですが…実は僕も同じ意見です。ここらへんの地理に詳し過ぎるんですよ犯人が…ところで、そっちは大丈夫ですか?ー

「アパートに侵入されました。清美は別の場所に居て良かったんですが…脅迫状付きで。」

ー警察には届けました?。保護を求めて下さい!。危険ですー

ドンッ。と音がして、編集部のドアが開いた。

「小谷刑事。分部登場です。そっちから警視庁の方に110番してもらえます?。」

ー透さん!逃げるんだ!。警官が行くまでもたない!ー

「わかってます。」

竹山は携帯を切ると、入口に立っている分部を見据えた。

「編集長?。俺のアパートに包丁立ててった方です。席をはずしてもらえますか?」

脇阪編集長は、それを逃げろと言う意味だと理解して、昔写真現像の暗室だった部屋に飛び込んで、中から鍵を掛けた。

「伝言は受け取って貰えましたか?。竹山さん。」

手には何も持っていない。だがマジックのように、ナイフは出てくるはずだった。

「分部。お前に清美を渡すつもりはない。」

「なんで、俺の名前を知ってる。」

「警察は、もう指名手配している。逃げられないぞ。」

「……はったりだな。まだだ。アイツらは眠くなるくらい遅くてノロマだ。…で?。どこだガキは?。」

「なんで清美が要るんだ?。分部。」

「…戻る。ここにゃ小谷ってウルサイ蝿がいる。老いぼれは死んだが…息子がブンブン耳元で飛び回る。」

「蝿はお前の方だ。」

「あぁ?。…まあいい。これが見えるか?。」

分部はナイフではなく、ノートを手にしていた。それを一冊づつ両手に握った。

「こっちはガキが持ってたノート。表紙の角が破れてる。こっちはもう一人のガキが持ってたノート。破れてない。このもう一人のガキは、戻れずにあっちの世界に行ったまま…このノートを俺が燃やしたら、あのガキは戻って来られなくなる。永遠に。いいのか?。」

「お前が約束を守るとは思えんな。」

「どっちにしろ…このチャンスにつけ込むしかないだろう?。竹山さん。」

「そのつもりだ。」

「だったら一週間後の日曜日の17時。雨屋交差点にガキを連れて来い。勝負だ…竹山さん。あんたと警察に大恥をかかせて差し上げる。」

分部はスッと消えた。入れ替わりに警官二人が駆け込んできた。

「竹山さん?。無事ですか?。」

「ほぼね。」

警察は事情聴取して帰って行った。分部は、これ以上襲ってくるつもりは無いように思えた。

だが。思った以上に分部は喰えない奴だった。



ー第8話チェイスにつづく






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