表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

ー第4話30年前のプロポーズ



ー第4話30年前のプロポーズ





雨戸がガラガラっと開く音で、竹山は目を覚ました。

携帯を開くと、7:00と出ていた。着信とメールが大量に入っていた。メールを開いている最中に、竹山はハッと気付いた。

「清美は?。」

携帯を持ったまま、そこで寝息をたてていた場所を見た。

「夢?。…リアル過ぎる、いかにも…。」

メールは、竹山の情報網になっている協力者からの、芸能人情報だった。その他には、殺すだの許さないだのと羅列されているクレーム。どれもまともに読む気になれなかった。

俺はいったい、この連中と何をやってるんだろう?。この20年、なんでこんな事を続けて来たんだろう…そう思っている自分に竹山は驚いていた。

「今さら、どうもこうもないだろうタケヤマさんよ。」

竹山は芸能ニュースのサイトにアクセスして、見出しをザッと見た。バタフライエフェクトのアイドル二人は、うまく逃げ切ったようだった。



竹山は二段ベッドを降りて、下に降りていった。階段は玄関に向かって降りている。そこには小さな赤い靴が、横向に揃えてあった。

「夢じゃねえぞ、やっぱり。」

竹山は急いで居間に入って行った。

父親がコタツで、すでに朝食を食べていた。

「お〜。透おはよう。」

「おはようって…それ何?。」

竹山は白い皿の上の、キャベツに載った茶色い物体に向かって言った。

「これか?。目玉焼きだそうだ!。よく焼けてるだろ?。」

「なんで焦げてるんだよ?。」

「おはよー。」

後ろから、バンダナを三角巾代わりに頭に巻いた清美が、お盆を持って居間に入って来た。これは、明らかに夢ではなかった。

「透ちゃんどうぞ。ちょっと焦げちゃったけど、これはこれでこおばしくてイケるよ!。」

父親と同じ物が、コタツの上に置かれた。

「あ〜!。イケるぞ清美ちゃん!。」

「そう!。透ちゃん食べて!。」

竹山は妄想のチクザンから、透ちゃんに戻された。



「清美ちゃんさ〜。ここに居ると騒ぎになるから、東京に来て欲しい。」

「騒ぎ?。」

「ここじゃ目立ち過ぎる。あのポスター通りの女の子が居るとさ…。」

「そうね。」

「東京なら、清美を知ってる人も居ないし、騒ぎにもならない。」

「うん。」

「ハジメと、ユウは分かるよな?。」

「もちろん。二人とも仲が悪くて、ユウはハジメが大嫌いって言ってた。」

竹山は、そうだったかな?という顔をした。

「今その二人、東京で子供三人つくって、アパート暮らししてる。二人に頼んで、清美を預かってもらおうと思ってる。俺は取材で、アパートにずっと居られないんだ。」

「待ってよ…。」

「駄目か?。」

「そうじゃなくって、ユウがハジメのお嫁さん?。」

「あぁ。」

「キャッー!。どうして!どうしてそうなったの!。ね〜なんで!。すご〜い!。」

「同窓会で再会して、ケンカしてた思い出で盛り上がったまま勢いで…ユウが妊娠して…子供にする話しじゃねえよ。」

「え〜!。クラスメイトの話しだよ!。やる〜ユウ。お母さんなんだ。いいな〜。私も早くお嫁さんになりたいよ。」

何気ない顔で父親が会話に割り込んできた。

「透のお嫁さんになれば良い。二人ともそのつもりだろ?。」

「待った。そんな無責任な事を親が言うなよ!。清美は元の世界に戻す。」

「そーかぁ?。このまま、この世界で暮らすのも悪くないと思うがな…。」

「向こうの透ちゃんはどうするんだよ。雨屋に入ってくのをこの目で見た。俺と同じ苦しみを背負って、30年生きて行くのか?。それはさせない。あんな苦しみは俺だけでいい。この清美ちゃんには、戻って透ちゃんを支えてやって欲しい…そう思ってる。」

父親はジッと竹山を見た。

「いいのか?。また一人で、芸能人を追いかけまわして生きて行くのか?。お前は、そんな生き方を望んでないはずだ。自分だけ幸せになっちゃいけないと思い込んでるから、ロクでもない人間を演じてるだけだ。それも田舎芝居で…見てる方はバレバレだ。」

「好きに言えばいいさ。」

父親と竹山は沈黙した。30年間分かっていても、二人ともどうしようもない事だった。このちっちゃな清美が解決かも知れないが、竹山はそれをすべきでないと思った。

清美は、そんな二人を不思議そうに見ていた。

「…でも、透ちゃんが約束果たさないと、私はお嫁さんになれないよ。」

今度は、透が不思議そうな顔で清美を見た。

「俺は、何を約束したんだ?。」

「それは、透ちゃんが思い出して。女の子には大切な、プロポーズの言葉だから…。」

「俺が?プロポーズした?。清美に?。15の俺に、そんなガッツはないよ。」

「ビックリしたよ…でも、言えそうにない透ちゃんが言ったから…信じられた。本当の気持ちだって。だから…私はその気持ちに応えようと思った。」

竹山は思い出す事が出来なかった。雨屋に行く前に、何を約束したかを…。

「なんとか、思い出してみるよ。…とにかく、飯を食ったら行くぞ。」

「うん。ユウに会いに行く。」



父親が岐阜駅まで、車で送ってくれた。車の中で携帯が鳴った。

「小谷です。すいません。犯人に逃げられました。JR一宮駅で、盗まれた車が見つかりました。犯人は電車で、岐阜方面に向かったのが目撃されてます。」

「野郎は、普通じゃ捕まりませんよ。こっちは、東京にいったん戻ります。同級生の夫婦に清美を預かってもらうつもりです。」

「それは、いい考えです。犯人の動向が分かったら、また電話します。」

竹山は携帯を切った。清美がそれを見て言った。

「そのトランシーバーもちっちゃいね。」

「?…。これは、電話だよ。」

「電話?。電話線はどこ?。」

父親が笑って言った。

「清美ちゃんの時代には、携帯はまだ無かったんだな。まあ、電波飛ばしてるんだからトランシーバーでもいいさ。でも電話局を通してるから電話だな。」

「そうなんだ。すごいね。」



駅前で、父親に見送られて岐阜駅に二人で入って行った。

ホームに立っている二人は、親子か援交しているようにも見えた。しかし、清美は恋人のつもりだった。

「人前では、おとうさんだぜ。」

「誰が?。ふふふ…。可笑しくて、笑っちゃうよ。言えないよ。そんなの。」

「不審に思われたら、トラブルになるんだ。未成年と性的交渉をすると逮捕される。疑われたら、警察に連れて行かれる。わかるか?」

「愛し合ってても?。」

「関係ない。愛し合わなくても、金銭関係で性的交渉をする大人と子供がいるんだ。それは犯罪で罰せられる。」

「分かった。お芝居するよ。逮捕されたら、大変だね。」


名古屋に出て、のぞみの指定席に座った。新幹線にはしゃいでいる清美を見ながら、自分の妄想チクザンが、小さくなって行くのを感じていた。しかし、自分が妄想チクザンでなくなって何になるのか…竹山には分からなかった。ただ、清美の為に何かができる…30年間出来なかった事を取り戻せた事を、このちっちゃな清美に感謝した。

山のような苦難さえ、苦にならないだろう力を与えてくれる彼女に…。









ー第5話平井駅前行き都営バスにつづく




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ